熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

スティグリッツ:脱グローバリゼーション

2022年06月02日 | 政治・経済・社会
  
   JOSEPH E. STIGLITZが、プロジェクト・シンジケートに 「Getting Deglobalization Right」を投稿した。
   デグローバリゼーションを正す、と言うことであろうか。
   ダヴォス会議についての見解だが、これまで、積極的にグローバリゼーションへの旗振りをしていたダヴォス会議が、今回、一気に雰囲気を転換して、グローバリゼーションの失敗、すたわち、崩壊したサプライチェーン、食糧とエネルギー価格の高騰、 COVID-19ワクチンで少数の薬品会社が巨万の富を得るIP体制、等々を問題にした。
   誰もが、グローバリゼーションに酔いしれて、国境のない世界のために働いているように見えた時代が、突然終熄して、誰もが、国境が経済発展と安全の鍵であることを再認識したのである。
   その解決のためには、「リショア」または「フレンドショア」生産、国内生産回帰など、「国の生産能力を高めるための産業政策」の制定に迫られた。
   かつての自由なグローバリゼーションの擁護者にとって、この一連の政策提案は、国際貿易システムの長年の規則が歪められ破壊されたことを暗示したのだが、何故、これまで順調に機能していたシステムが、壊れてしまったのか、そして、元々グローバリゼーションの全盛期に普及していた欠陥のある、非常に楽観的な推論に基づいていたことなどを探求するべきなのだが、ダヴォスのビジネスや政治の指導者でそうする者はほとんどいなかった。

  勿論、問題はグローバリゼーションだけではない。現在の市場経済全体は、回復力の欠如(a lack of resilience)を示している。ジャストインタイムの在庫システムは、経済がわずかな混乱に直面している限り、すばらしい革新だったが、COVID-19のシャットダウンに直面した災害やマイクロチップの不足など、サプライチェーンが壊れるような供給不足の大雪崩には対応不可能である。

   もう一つ、市場は、「価格設定」についてひどい仕事(a terrible job of “pricing” risk)をしているとして、二酸化炭素排出量の価格設定や、ドイツが、明らかに信頼できない貿易相手国であるロシアからのガス供給に経済を依存させたと言った例を挙げて、それは予測可能であり、その予測された結果に苦しめられているのだと言う。

   また、資本主義は自立したシステムではなく、独占に向かう自然な傾向がある。レーガン大統領とサッチャー首相が「規制緩和」の時代を招来して以来、eコマースやソーシャルメディアなどの注目分野だけでなく、市場集中の高まりが当たり前になってきている。米国での粉ミルクの悲惨な不足は、それ自体が独占の結果であり、米国の供給のほぼ半分を占めているアボットが安全上の懸念から生産を停止せざるを得なくなったので必然的に生じた。

   ところで、私が関心を持ったスティグリッツの指摘は、論文後半のグローバリゼーションの失敗の政治的影響について、新興市場と発展途上国(EMDC)が、欧米民主主義から離反しつつあると言う注目すべき動向である。
   ロシアのウクライナ侵攻後3ヶ月経った今、これらの諸国は、経済制裁などに対して曖昧な立場を採っている。多くの人が、2003年に偽ってイラクに侵攻したにもかかわらず、ロシアの侵略に対してはその説明責任を要求するというアメリカの偽善を指摘しているのである。
   EMDCは、また、30年前に押し付けられたWTO規定によるヨーロッパと米国のワクチンナショナリズムの最近の歴史を強調している。そして、現在、食料とエネルギーの価格上昇の矢面に立たされているのはEMDCであって、歴史的な不当と相まって、これらの最近の動向は、民主主義と国際法を支配する西洋の擁護に不信感を募らせている。
   確かに、アメリカの民主主義擁護の支持を拒否する多くの国は、民主主義国家ではない。しかし、他の民主主義国家でも、その戦いを主導するアメリカの立場は、組織的な人種差別や、トランプ政権の権威者とのなれ合い、共和党の投票権抑制、2021年1月6日の国会襲撃暴動から注意をそらす試みまで、それ自体の失敗によって損なわれている。
   米国にとって前進する最善の方法は、EMDCが、食料とエネルギーの急増するコストを管理するのを支援して、EMDCとのより大きな連帯を示すことである。これは、豊かな国のIMFの特別引出権を再配分し、WTOで強力なCOVID-19IP免除をサポートすることで可能となる。
   さらに、食料とエネルギーの価格の高騰は多くの貧しい国々で債務危機を引き起こす可能性があり、パンデミックの悲劇的な不平等をさらに悪化させる。米国とヨーロッパが真のグローバルなリーダーシップを発揮したいのなら、各国が負担できないような重い債務を引き受けるように誘惑した大手銀行や債権者の側に立つのをやめることである。
   以上、至極ごもっともなスティグリッツ教授の指摘である。

   我々日本人は、敗戦によって民主化され、急速な経済成長によって先進国の仲間入りをして豊かな自由で平等な民主主義生活に安住しており、欧米流の既成観念が常態化して、ロシアのウクライナ侵攻に対しては、ロシアが悪いと言う価値観に殆ど異存はなかった。
   しかし、新興国や発展途上国(EMDC)の多くは、欧米先進国の独りよがりの民主主義体制なり世界観価値観そのものを、二枚舌と認識していて信用しておらず、頼りになるリーダー国だとも思っていない。
   そうでなければ、国連のロシア非難決議にあれだけ多くの国が棄権し、スティグリッツの言うように、ロシアに対する制裁に対して曖昧な立場を採用するはずがない。

   それに、EMDCにとって、時代の潮流が大きく変って、ロストウ流の離陸を経た自由主義的かつ自立的な経済発展政策よりも、中国型の国家資本主義的な経済政策を取って国家発展を策した方が、はるかに有効だと言うことになれば、欧米流の手垢に塗れたシステムに固守することもないと言うことであろうか。
   地球温暖化による環境破壊も、須く、欧米先進国の仕業であるにも拘わらず、EMDCへの環境保護対策への供出金も決めただけで殆どナシノツブテ。
   アメリカが信用されているかいないかは兎も角、必ずしも、我々の自由主義的な民主主義制度を、最善というか良しとしていないEMDCが、かなり多いという現実に、不安を覚えざるを得ない。
   私は、自由と平等、そして、人権と法を遵守する民主主義を信じているので、独裁主義的な専制国家体制には与しない。

   スティグリッツ教授の説く如く、西側先進国の誠心誠意の世界政策が問われている。
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