熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

PS:ジョセフ・スティグリッツ「更なる高金利は害悪以外に何の益もなし All Pain and No Gain from Higher Interest Rates」

2022年12月15日 | 政治・経済・社会時事評論
   PSのJ・スティグリッツ教授の「更なる高金利は害悪以外に何の益もなし All Pain and No Gain from Higher Interest Rates」が面白い。
    金利を引き上げるというFRBの揺るぎない決意は、本当に驚くべきもので、 インフレを抑えるという名目で、彼らは意図的に景気後退を引き起こす道を歩み始めた。
   さらに悪いことに、適切な財政政策やより慎重に検討された対応はより効果的で、長期的な利益をもたらすが、今日の金融政策の引き締めは長期にわたる傷跡を残すことになるだけだ。
   さらに、FRBは、その矢面に立たされるのはウォール街の友人ではなく、貧しく疎外された人々であることを強調していなくても、その政策が引き起こす苦痛を公然と認めており、そして米国では、この痛みは有色人種に不均衡に降りかかる。と言うのである。

   この論文の大意を纏めてみると、
   FRBの追加的な金利主導のインフレ率の削減による利益は、いずれにせよ起こったであろうことと比較して最小限に抑えられている。
   コンピュータ チップの不足によって自動車の価格が高騰したが、ボトルネックが解消されると価格が下がり、自動車の在庫は実際に増加している。
   楽観主義者は、原油価格が上昇し続けるのではなく、下落すると予想していたが、 それもまた、まさに起こっている。実際、再生可能エネルギーのコストが低下していることは、石油の長期的な価格が現在の価格よりもさらに低くなることを意味しており、化石燃料価格の気まぐれからはるかにうまく隔離され、
   プーチンやムハンマド・ビン・サルマン皇太子のような石油国家の独裁者の気まぐれの影響を受けなかったし、 10月初旬に石油生産を大幅に削減することで、2022年の米国中間選挙に影響を与えようとした彼らの明らかな試みも失敗した。と言う。

   楽観主義のもう 1 つの理由は、マークアップ (価格がコストを上回る額) が、 米国経済の独占化が進むにつれ、ゆっくりと上昇してきており、COVID-19 危機の発生以来、急上昇している。 経済がパンデミックから(そして、戦争からも)完全に脱却するにつれて、経済は縮小して、それによってインフレが緩和されるはずである。 それに、賃金が、パンデミック前の期間よりも一時的に速く上昇していて、良い傾向である。

   金利が上昇すると、自動車用チップの供給が増えるのか、それとも石油の供給が増えるのか、食料の価格を引き下げるのか?
    もちろん違う。 それどころか、金利が上昇すると、供給不足を緩和できる投資を動員することがさらに難しくなる。
   適切に管理された財政政策やその他のより細かく調整された措置は、鈍くて逆効果になる可能性のある金融政策よりも、今日のインフレを抑える可能性が高くなる。 たとえば、食料価格の高騰に対する適切な対応は、農家が生産を増やすよう奨励する政策が、生産しないように農家に支払う数十年にわたる農産物の価格支持政策を排除する。
   同様に、不当な市場支配力による価格上昇への適切な対応は、反トラスト法執行の強化であり、貧しい世帯の家賃の値上げへの対応方法は、新しい住宅への投資を奨励することであって、金利の上昇はその逆である。 労働力不足が発生した場合(その標準的な兆候は実質賃金の上昇であり、現在見られているのは反対)、その対応には、育児サービスの提供の増加、移民促進政策、および賃金を引き上げて労働条件を改善するための措置が含まれるべきである。

   超低金利が 10 年以上続いた今、金利を「正常化」することは理にかなっている。 しかし、それ以上に金利を引き上げることは、インフレを急速に抑えようとする奇抜な試みであり、今は苦痛であるだけでなく、 それは長期にわたる傷跡を残す。対照的に、前述した財政およびその他の対応のほとんどは、たとえインフレが予想よりも抑制されたとしても、特に、これらの誤った考えの政策で苦しむ人々に、 長期的な社会的利益をもたらすであろう。

   さて、
   インフレとは、「供給よりも需要の方が多い」サプライサイド不足の状態であるが、今回は、これに、政策金利の大幅な引き下げや資金供給量の増大による「金融緩和」によるインフレが加わっている。
   インフレ抑制策として、FRBは何故利上げを行うのか、
   普通金利が上がると、企業は投資資金が減るので、賃上げや新規採用をストップするなど人件費削減を行い、そのような企業が増えるので、労働者の給与水準も停滞して、消費が抑制される。モノやサービスの売れ行きが鈍ると、価格を下げることで売上回復を図ろうとする企業が増え、物価が下がり、インフレの進行が抑えられる。
   まさに、FRBの金利引き上げ政策は、経済回復の芽を摘むだけであって、不況政策以外の何ものでもない。
   サプライサイドに異常があるのであるから、財政政策を駆使して、サプライサイドのボトルネックを解消して、経済社会を正常に機能するようにすべきである。と言うことであろう。
   アメリカ経済が、オーバーヒートしておれば、金利上昇政策は有効であろうが、現状では、ほっておいてもインフレは適当な水準に落ち着くという理解でああろうから、金融政策ではなくて財政政策の発動によって、経済構造の健全化が優先されて当然だと言うことである。
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