熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

年末の国立名人会:松鯉の「天野屋利兵衛」

2022年12月25日 | 落語・講談等演芸
   今日、年末を笑って過ごしたくて、国立演芸場に出かけた。
   と言うよりも、神田松鯉の講談「赤穂義士外伝 天野屋利兵衛」を聴いて、廃れた年末行事の忠臣蔵の世界を感じたかったのである。 
   
   演目は、次の通り。
   第464回国立名人会
講談「天明白浪伝 悪鬼の万造」 神田阿久鯉
落語「宗論」 三遊亭遊雀
落語「二番煎じ」 瀧川鯉昇
 - 仲入り -
落語「蒟蒻問答」 桂南なん
ものまね 江戸家まねき猫
講談「赤穂義士外伝 天野屋利兵衛」 神田松鯉

   松鯉の「天野屋利兵衛」は、歌舞伎や文楽、落語で鑑賞する「天野屋利兵衛」とは一寸雰囲気が違っていて、講談では、最も義侠心に富んだ大阪商人の鑑をストレートに聴かせてくれるのである。
   天野屋利兵衛は、赤穂義士の吉良邸討ち入りのための武器調達を一手に引き受けた堺の廻船問屋の松永利兵衛で、厳しい奉行の取り調べにあっても、義理ある人から頼まれたのだが時が来るまで待って欲しいと懇願するばかりで、大石内蔵助との密儀を明かさず、可愛い子供を殺そうとされても、「天野屋利兵衛は男でござる。」と言って口を割らなかったと言う大坂商人の鑑。

   今回の松鯉の講談は、前回のものとは一寸違っていて、30分のバージョンで、ほぼ、次の通り。
   浅野内匠頭の刃傷事件と切腹を聞いた利兵衛は、妻を離縁して、城を枕に討ち死にする覚悟で、槍を背負って赤穂城に馳せ参じて、内蔵助に、御恩をお返ししたい何でもすると懇願したので、利兵衛の忠義と男気を信じた内蔵助は、口外するなと釘を刺して、大事を語って13種の討ち入り武具の調達を頼み込む。
   利兵衛は、堺に帰らずに市場の大きい大坂に居を構えて奉公人にカネ轡を嵌めて武具調達に勤しむのだが、たれこむ者がいて、家宅捜索をすると、忍び道具・改造ろうそく立てが出てきたので、 町奉行松野河内守助義により捕縛され拷問にかけられるが、利兵衛は、義理ある人から頼まれたのだが時が来るまで待って欲しいと懇願するばかりで、口を割らない。江戸でも噂になっており江戸の捌きで本件が発覚すると、大坂の番所は面目丸つぶれで切腹ものとなると、白状を迫るが、瀕死の状態になっても、動じない。
   町奉行は、一人息子を白州に呼び出し、親子抱擁させて子供が可愛くないかと迫り、子供の喉元に刃を突きつけ打擲し続けて白状を迫るが、親子の恩愛よりも義理が優先することがある、子供を殺してくれと叫ぶ、「天川屋の儀兵衛は男でござる」。
   そこへ離縁した女房・ソデが現れ、夫や息子の難儀を見かねて、赤穗藩に入れ込んでいたなど一切を暴露するのだが、町奉行は、利兵衛が城を枕にして討ち死に覚悟で槍を背負って赤穂城に馳せ参じた一件を、「あり得ない。狂女じゃ。」と言って取り合わず、それから一切取り調べをしようとしなくなった。
   ほどなく、討ち入りの成功を、牢番の立ち話で知った利兵衛は、安堵。利兵衛はすべてを白状するが、取り調べれば忠義の邪魔。と奉行は利兵衛を釈放したと言う。

   3年前の松鯉の講談レビューの時に、この「天野屋利兵衛」の歌舞伎、文楽、落語におけるバリエーションについて書いたが、講談や歌舞伎や文楽は内容に差があっても、メインテーマは天野屋利兵衛の義侠心だが、落語の奇想天外な発想の転換には笑いが止まらない。
   大石内蔵助が、天野屋利兵衛の女房の美貌に惚れて妾になれと強要したので、機転を利かした女房が、閨に誘うも、天野屋利兵衛をヘベレケニ泥酔させて自分の寝床に寝かせておく。そこへ喜び勇んだ大石内蔵助が忍び込んで来て、ことに及ぼうとした途端、天野屋利兵衛が飛び起きて、「天野屋利兵衛は男でござる」
   「英雄色を好む」と言うことであるから、大石内蔵助が、好色であっても、不思議でも何でもないのだが、こうなれば、大石も形無しである。

   松鯉は、 町奉行松野河内守助義は、城を枕に討ち死にする覚悟で赤穂に向かったことで、すべてを悟ったと語り、 討ち入り成功への松野河内守、それ以上に天野屋利兵衛の貢献を評価していた。
   詳しいことは分からないが、天野屋利兵衛の内偵を行えば、赤穗藩との関わりは明白であり、当時、吉良への叛逆は噂にもなっていたので、町奉行としては、天野屋利兵衛の武器調達は大石内蔵助のためであることは分かっていたはずである。
   松野河内守としては、天野屋利兵衛の自白にすべてを掛けていたはずで、たとえ自白を取っても、女房を狂女呼ばわりして切って捨てたように、狂人扱いにして見逃したように思う。切腹覚悟で義経を見逃した勧進帳の富樫のような義侠心ある侍である。
   リトアニアの在カウナス日本領事館領事代理であった杉原千畝が、外務省からの訓令に反して大量のビザを発給し、多くがユダヤ系であった避難民を救ったことで知られるあの快挙も、これに擬せられようか。

   ところで、余談だが、今回、チケットの予約の時間をミスって、後方の席しか取れなかったのだが、少し歳の所為で聞き苦しくなってきている。
   それで、気づいたのは、人間国宝の松鯉の講談は非常にクリアーに綺麗に聞けたが、やはり、ヘタな噺家の噺は、時々何を言っているのか、分からなくなることである。小三治や歌丸などは微に入り細に入り鑑賞出来たのだが、
   このことは、テレビでも経験していることで、プロのアナウンサーは良く聞こえるのだが、素人のコメンテーターや通訳者が聞きづらくてこまることがあり、話術でも大変な差異があることが分かって、修行の厳しさを感じた。
コメント
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