
夜の部の「大経師旧暦」は、実際にあった大経師の女房おさんと手代茂兵衛が密通して処刑された事件を基に書かれた近松門左衛門の世話浄瑠璃である。
茂兵衛がおさんに恋焦がれて、女中のお玉が仲立ちした不倫で、3人とも粟田口の刑場で処刑された。
当時は、夫のある女が姦通すれば死罪、仲立ちした者も同罪で、逆に男には何のお構いもない世の中であったが、実際には、戦後の22年まで男女不平等の姦通罪が残っていた。
今回の舞台は、全3巻の内の上巻で、おさんと茂兵衛が誤って契ってしまって仰天して逃げ出す件までであるが、その後、中巻では、おたまが預けられた伯父宅に、流浪の二人が現れ、偶然訪れたおさんの両親とが不幸を嘆きあう場面で、下巻では、奥丹波に隠れ住んでいた二人が捕われて刑場に引かれて行くが、黒谷の東岸和尚の嘆願で助けられて出家する、ことになっている。
さて、舞台が開くと、暦の出版の独占権を持つ大経師の算用場の茶座敷で、新暦発行で使用人が右往左往、番頭助右衛門(歌六)が、横恋慕している女中お玉(梅枝)を、口説いており、入れ替わりに、同じくご執心の主人以春(段四郎)が、おたまに抱きつき追い掛け回す。
そこへ、おさん(時蔵)の実母お久(歌江)が、家の窮状で、おさんに金の融通を頼みに来る。
困ったおさんは、手代茂兵衛(梅玉)に、金の工面を相談。茂兵衛は、主人以春の印判を借用して金を用意しようとして、これを番頭に見つかり、みんなの前で詰問され窮地に立つ。
お玉が、機転を利かせて自分の為にやったと中に入って弁解しその場は治まり、茂兵衛は、空き家の二階に幽閉される。
その夜、おさんが、お礼を言いにお玉の部屋に来るが、毎夜夜這いに来ておたまを口説く以春の行状を知って怒り、夫に恥を掻かせようとお玉と寝間と寝間着を交換する。
おさんの寝ている寝室に、お玉にお礼をしたい茂兵衛が忍び込み、誤っておさんと契りを結ぶ。
それと知った二人は仰天して、コトの重大さに観念して落ちてゆく。
記録によると茂兵衛は、最初先代の幸四郎が演じていたが、その後は、ずっと梅玉が演じており、おさんは幸四郎の時は歌右衛門だったが、梅玉の相手は、最初は芝翫だったが、その後雀右衛門、今回は時蔵と代わっている。
関西歌舞伎ではないが、梅玉の世話物での優男ぶりは板についていて、仁左衛門とは大分違うが、中々、雰囲気のある演技でナルホドと思わせる。
時蔵は、ムンムンとした熟女の香りのするおさんを演じていて、格調の高い品のある老舗の女房である一方、妖艶な雰囲気を漂わせた感じで、近松の考えていたおさんはこうだったかも知れないと思わせてくれた。
印象深かったのは梅枝で、実に初々しく芯の通った聡明で機転の利いたお玉を上手く演じていて、特に、父親の時蔵とのお玉の部屋での対話の場など秀逸であった。
舞台を豊かにしてくれていたのが、助平爺を好演していた段四郎と歌六、とにかくベテランの味で、面白かった。
ところで、近松モノにしては、これまで、珍しく関西歌舞伎の役者が出演せず、おたまに先々代仁左衛門、助右衛門に先代鴈治郎だけである。
やはり、近松は色濃く関西を背負った浄瑠璃なので、一度、松嶋屋一門が出演する「大経師旧暦」を観て見たいと思っている。
ところで、同じ話を、事件後すぐに井原西鶴が、浮世草子「好色五大女」に書いている。
亭主が江戸への出張中に、寂しかろうとおさんの親元が送り込んだ若い茂右衛門に、女中のりんが恋し、おさんが恋文の代筆。
今夜行くとの返事が来たので、おさんが、堅物の茂右衛門をからかってやろうとりんの寝間で待つが誤って寝てしまい、契ってしまう。
両方とも、出来心と言うか悪戯心から、たまたま、姦通してしまったとしているが、私の興味があるのは、おさんと茂兵衛の心である。
私は、実話のように、茂兵衛がおさんに恋焦がれたか、おさんが茂兵衛を憎からず思ったかのどちらかであるべきだと思っている。
先に文楽で、奥丹波での二人が幸せそうに生活している舞台を見ていて、主従関係の厳しさ、女に対する姦通意識の熾烈さ等々古い価値観を越えて、近松は二人の恋を本物として描いていたのではないかと思っている。
何故こんなことを言うかと言うと、近松は、若き大石良雄が山科の近松寺に開いた「塩の道熟」で、教養豊かなスペイン人教師から、学問や芸術を学び、スペイン語を良くし、最初の浄瑠璃「世継曽我」は、スペインの劇「騎士イメネオ物語」の影響を受けて書かれている。
近松には、シェイクスピアは別としても、ヨーロッパ流の男女の愛については知識があった筈で、影響を受けていても不思議ではないと思ったからである。
茂兵衛がおさんに恋焦がれて、女中のお玉が仲立ちした不倫で、3人とも粟田口の刑場で処刑された。
当時は、夫のある女が姦通すれば死罪、仲立ちした者も同罪で、逆に男には何のお構いもない世の中であったが、実際には、戦後の22年まで男女不平等の姦通罪が残っていた。
今回の舞台は、全3巻の内の上巻で、おさんと茂兵衛が誤って契ってしまって仰天して逃げ出す件までであるが、その後、中巻では、おたまが預けられた伯父宅に、流浪の二人が現れ、偶然訪れたおさんの両親とが不幸を嘆きあう場面で、下巻では、奥丹波に隠れ住んでいた二人が捕われて刑場に引かれて行くが、黒谷の東岸和尚の嘆願で助けられて出家する、ことになっている。
さて、舞台が開くと、暦の出版の独占権を持つ大経師の算用場の茶座敷で、新暦発行で使用人が右往左往、番頭助右衛門(歌六)が、横恋慕している女中お玉(梅枝)を、口説いており、入れ替わりに、同じくご執心の主人以春(段四郎)が、おたまに抱きつき追い掛け回す。
そこへ、おさん(時蔵)の実母お久(歌江)が、家の窮状で、おさんに金の融通を頼みに来る。
困ったおさんは、手代茂兵衛(梅玉)に、金の工面を相談。茂兵衛は、主人以春の印判を借用して金を用意しようとして、これを番頭に見つかり、みんなの前で詰問され窮地に立つ。
お玉が、機転を利かせて自分の為にやったと中に入って弁解しその場は治まり、茂兵衛は、空き家の二階に幽閉される。
その夜、おさんが、お礼を言いにお玉の部屋に来るが、毎夜夜這いに来ておたまを口説く以春の行状を知って怒り、夫に恥を掻かせようとお玉と寝間と寝間着を交換する。
おさんの寝ている寝室に、お玉にお礼をしたい茂兵衛が忍び込み、誤っておさんと契りを結ぶ。
それと知った二人は仰天して、コトの重大さに観念して落ちてゆく。
記録によると茂兵衛は、最初先代の幸四郎が演じていたが、その後は、ずっと梅玉が演じており、おさんは幸四郎の時は歌右衛門だったが、梅玉の相手は、最初は芝翫だったが、その後雀右衛門、今回は時蔵と代わっている。
関西歌舞伎ではないが、梅玉の世話物での優男ぶりは板についていて、仁左衛門とは大分違うが、中々、雰囲気のある演技でナルホドと思わせる。
時蔵は、ムンムンとした熟女の香りのするおさんを演じていて、格調の高い品のある老舗の女房である一方、妖艶な雰囲気を漂わせた感じで、近松の考えていたおさんはこうだったかも知れないと思わせてくれた。
印象深かったのは梅枝で、実に初々しく芯の通った聡明で機転の利いたお玉を上手く演じていて、特に、父親の時蔵とのお玉の部屋での対話の場など秀逸であった。
舞台を豊かにしてくれていたのが、助平爺を好演していた段四郎と歌六、とにかくベテランの味で、面白かった。
ところで、近松モノにしては、これまで、珍しく関西歌舞伎の役者が出演せず、おたまに先々代仁左衛門、助右衛門に先代鴈治郎だけである。
やはり、近松は色濃く関西を背負った浄瑠璃なので、一度、松嶋屋一門が出演する「大経師旧暦」を観て見たいと思っている。
ところで、同じ話を、事件後すぐに井原西鶴が、浮世草子「好色五大女」に書いている。
亭主が江戸への出張中に、寂しかろうとおさんの親元が送り込んだ若い茂右衛門に、女中のりんが恋し、おさんが恋文の代筆。
今夜行くとの返事が来たので、おさんが、堅物の茂右衛門をからかってやろうとりんの寝間で待つが誤って寝てしまい、契ってしまう。
両方とも、出来心と言うか悪戯心から、たまたま、姦通してしまったとしているが、私の興味があるのは、おさんと茂兵衛の心である。
私は、実話のように、茂兵衛がおさんに恋焦がれたか、おさんが茂兵衛を憎からず思ったかのどちらかであるべきだと思っている。
先に文楽で、奥丹波での二人が幸せそうに生活している舞台を見ていて、主従関係の厳しさ、女に対する姦通意識の熾烈さ等々古い価値観を越えて、近松は二人の恋を本物として描いていたのではないかと思っている。
何故こんなことを言うかと言うと、近松は、若き大石良雄が山科の近松寺に開いた「塩の道熟」で、教養豊かなスペイン人教師から、学問や芸術を学び、スペイン語を良くし、最初の浄瑠璃「世継曽我」は、スペインの劇「騎士イメネオ物語」の影響を受けて書かれている。
近松には、シェイクスピアは別としても、ヨーロッパ流の男女の愛については知識があった筈で、影響を受けていても不思議ではないと思ったからである。
私も今回、そうそう夜の部に足を運びました。
しかし・・毎回近松モノを見ては、
好きじゃないなあ・・と思ってしまいます。
しかし、松嶋屋一門が出演する「大経師旧暦」・・なんとなく見てみたいです。