熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

9月大歌舞伎「平家蟹」・・・平家悲し・芝翫の至芸

2005年09月06日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   昨夜、久しぶりに歌舞伎座に行った。東京が局地的豪雨で冠水した日であり、少し気温が低くて過ごしよかったが鬱陶しい天気だった。
   夜の部で、「平家蟹」、「勧進帳」、「忠臣連理の鉢植」であった。
   昼の部の、弥次さんが中村富十郎で喜多さんが中村吉右衛門の「東海道中膝栗毛」が面白いようであったが、両人の「勧進帳」も、丁々発止、凄い迫力の舞台であって面白かった。

   ところで、昨日のこのブログで、壇ノ浦での平家の滅亡について触れたが、今回、「平家蟹」を見て、また感慨新たになったのでその感想を残したいと思う。

   岡本綺堂が、江戸時代の浮世草子にヒントを得て書いた怪奇的な歌舞伎で、今回は2回目の鑑賞であった。
   長門の浜辺を舞台とした、壇ノ浦の合戦で生き延びた女官の源氏を恨む怨念の物語であるが、倒錯した悲しい物語でもある。

   真っ暗な舞台に、突然、越前琵琶の哀調を帯びた音色が響き、「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり・・・」のナレーションが重なる。
舞台のスクリーンに、絶頂期の栄華を極める平家の集いの場面が映し出される。
清盛がズームアップされて、徐々にアウトフォーカスされて消えて行くと、屋島の合戦の場面、那須与一の扇の的が大写しになり波間に飛ぶ。
   船端に立ってこの扇の的を持ったのがこの歌舞伎の主人公・玉蟲(人間国宝・中村芝翫)で、美人の誉れ高い女官、波間に漂う扇を見て、平家の末路を予感して源氏を恨み通す。
 
   ところで、この歌舞伎の主題の平家蟹であるが、瀬戸内海や有明海の水深20~30メートルの所に棲む甲羅長が2センチ位の小さな蟹であるが、甲羅の模様に特徴があり、人間の憤怒の形相をしている。
   ハサミは比較的貧弱で、前方の足2本が長く、後の2本が短い一寸変わったかにであるが、最初見たときには、ビックリした。
   憤怒の形相を背にしたこの蟹、壇ノ浦の戦いで藻屑と化して消えた平家の武将の生まれ変わりだと言われるのも良く分かる。
   冒頭で、浜の子供達が蟹と戯れているのを見て元平家の武将・僧雨月(市川左団次)が子供達に聞いてこの平家蟹の謂れが明かされる。

   夜毎縁の下から這い出る平家蟹に平家の武将の名前を付けて、平家の栄華への未練と源氏への恨みつらみを語りかける玉蟲を、中村芝翫が鬼気迫る演技で熱演する。
   白い上着と赤いハカマを付けた女官姿の玉蟲は、縁側に仁王立ち、遠山の金さんスタイルで、一方のハカマの裾を前に投げ出し、源氏調伏への激しい思いを吐露する。

   身を持ち崩して春をひさいでいた妹・玉琴(中村魁春)が、客の1人源氏の那須与五郎(那須与一の弟・中村橋之助)に見初められて恋仲。
   呼ばれてイソイソト出かけてゆく玉琴が実に初々しい。
   玉琴が、平家残党詮議の役を解かれて東国に帰ることになった与五郎を伴って玉蟲を訪れて、一緒に東国へ行こうと誘う。
   喜んだふりをして、祝いの杯を交わす準備をする玉蟲、実に優しいが、後を向くと厳しい顔でお神酒に怨念を籠めて呪詛する。
   実の妹も自分を捨てて源氏につくと情け容赦などなく憎くて、肉親の見境もない。
   この酒は、平家蟹の肉を浸した源氏調伏の酒で、喜んだのも束の間、飲んだ二人は、毒が回り始めて転げまわる。
   瀕死の二人を鞭打ち、ある限りの悪口雑言、薄ら笑いを浮かべながら、呪いの言葉を吐きいたぶり殺そうとする鬼と化した芝翫の鬼気迫る至芸に、客席は圧倒される。
   説得する積もりでやって来て庭の陰で見ていた僧・雨月も、言葉なく立ち去る。 

   逃げ場がなくなった玉蟲は、何処からともなく出てきた一匹の平家蟹に導かれて海に入る。波飛沫に煽られながら波間に消えて行く。

   こんな悲喜劇が、壇ノ浦の決戦の後には随所にあったのであろう。
   あの源氏も、玉蟲の呪いと予言どおり、3代で滅んでしまった。  
   
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3 コメント

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初めまして! (雪柳)
2005-09-10 21:35:21
初めまして!

こちらの記事を拝見していましたら、舞台の映像が頭の中に蘇ってきました。

平家蟹と語る芝翫丈の、高ッ調子な声。

不気味に笑ったその口元のこと・・・

芝翫丈が大好きで、毎回舞台を楽しみにしているのですけれど、今回も嬉しい観劇でした(^^)

同じ舞台を観劇した感想レポートを書いてみました。

ぜひTBさせてくださいませ♪
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ハンナ (はじめまして)
2005-09-10 23:21:29
カルメンに続いてトラックバックさせていただきました。歌舞伎にオペラ、けっこう趣味が重なっているように思います。どうかよろしくお願いいたします。
返信する
平家蟹 (古典めざましタイ)
2005-09-29 14:02:00
初めまして。

「平家蟹」に思い入れがあって、以前壇ノ浦や赤間神宮にも行ってみました。

歌舞伎の感想をTBさせて頂きましたので、宜しければ覗いてみて下さい。
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