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昨年1年間の経済トピックスについて、新聞などに寄稿した伊藤教授のコラムを集めたもので、それぞれ、経済学者としての立場から持論を展開していて、面白いし参考になる。
常識的な理論の展開と言えばそうだが、論旨は極めて明快で、それに、結構、はっきりと自説を主張していて、たとえば、「私自身は、TPP交渉に参加すべきだし、一刻も早く消費税の引き上げをすべきだと考えている。」と言った調子である。
一時、一世を風靡していた「救国のレジリエンス」の藤井聡教授や「TPP亡国論」の著者中野剛志准教授の経済学的な考え方について、TPP反対論から、企業の生産性向上努力を否定したり公共投資万能主義的な理論を展開するなど、私は、間違っていると指摘して反論を展開してきたのだが、伊藤教授の経済理論も、全く同じ路線でこれらの対極にあり面白い。
TPP交渉の推進と消費税増税については、これまで何度も書いてきたので蛇足になるので、今回改めて論じることは止めるが、これらに対する伊藤教授の反論が興味深いので、私なりの感想を述べてみたい。
まず、増税だが、「消費税が経済活力を失わせるようであるなら、消費税の高い国の経済は沈静している筈だし、消費税が所得分配上好ましくないとすれば、消費税の高い国では所得格差が大きい筈だ。現実には、そうなっていないことは、北欧諸国を見れば明らかだ。」と教授は言う。
ヨーロッパ諸国の消費税にあたる付加価値税は非常に高率で、北欧諸国も25%であるし、その上に、非常に所得税など税金も高いのだが、失業しても生活に不自由がなく大学まで学費は無料であるなど至れり尽くせりの福祉社会制度が完備されていて、国民生活の不安は殆どない国柄だと言う。
伊藤教授の言うように、国民の生活における平等は、雇用や教育の機会や、医療、年金、介護などの社会保障制度によって大きく影響を受け、北欧では、高い税率によって実現する潤沢な税収がこうした豊かな福祉国家の実現を可能にしており、日本よりはるかに所得分配で高い平等率を実現している。
この見解は、正しいのだが、北欧並みに福祉制度や税の分配構造が確立されていない日本の現状を考えてみれば、、この状態で、所得税を、5%から、10%なり15%に増税すれば、逆進課税であるから、当然、所得の低い人々を直撃し、さらに、増税が所費を抑制して景気の悪化を引き起こす可能性は極めて高く、消費税増税反対論者の見解の方に分があろう。
現実に、年収が300万円以下の勤労者が、1600万人も存在すると言う現状で、生活と勉強さえままならないプアー・チルドレンが、どんどん増えていると言う現状を考えれば、貧しい人々に過重な負担が掛かる増税など、言語道断だと言う議論も十分に成り立つ。
北欧諸国のように、税率を高くして(すなわち、実質的には高額所得者から高額の税金を取って)十分な資金余裕を持って福祉制度を確立して、最低限度の福祉生活を保障するのみならず、更に、その水準を嵩上げて行くと言う社会保障制度を実現すれば、所得格差の縮小と福祉の向上は可能となろう。
したがって、日本の場合にも、たとえ、今回の消費税増税が、社会保障関係充実と言う名目であっても、実質的に弱者を救済し所得格差の縮小を意図するようなものでなければ、益々社会不安を増幅するなど問題を深刻化するだけとなろう。
私は、経済成長が止まってしまって、益々、日本のように経済社会の困窮度が深まって行けば行くほど、北欧のように、富裕者から多くの税金を集めて社会福祉資金を潤沢にして、所得格差の縮小と平等化を図って行く以外に、社会の安寧を図る道はないと思っている。しかし、そのためには、国民の意識革命から始めて、大改革が必要である。
アメリカ流に、資本主義を活性化するためには、利潤追求が最大のドライバーであるから、成功者には無尽蔵の利益が保障されて然るべきと言う思想は、既に世界的な金融危機で暗礁に乗り上げており、企業家とイノベーターの創造意欲は、むしろ、利潤動機よりも達成感なり使命感などの人間としての誇りの方が強くなって来ていることを考えれば、経済社会発展の妨げにはならないであろう。
私は、そのためにも、窮乏下での格差拡大などは愚の骨頂であり、資産課税を導入するなど富者に応分の負担を願うことが必要であり、同時に格差拡大を縮小するような税制改革が必要であると思っている。
現在、フランスの財界が、社会福祉税などの高負担に異議を唱えて抵抗し始めているが、フランスの場合には、北欧のように高負担高福祉の社会保障制度が完全ではなくて、中途半端な状態であるので、経済競争力の弱体化を招いて経済状況を悪化させるだけと言う困難な状況を招いているのであって、日本の場合には、これ以上に、社会福祉への国家体制が整っていないのであるから、消費税を単に上げるだけでは、更に、大変な関門が待っている。
増税反対論の中に、無駄の削減と言う見解が、まだ、根強く残っているのだが、ジェフリー・サックスが、「世界を救う処方箋」の中で、アメリカ政府の無駄を検証したが、その額は、微々たるもので殆ど削減効果はないと論じている。
日本の場合には、どうかは分からないが、民主党の仕分けが、結局、多くの文教予算をぶった切りにして、科学技術や文化芸術、スポーツなど、明日の日本への活力を削いでしまったことを考えれば、小沢派の言うような隠し玉などはなくて、これ以上追い込むと、逆効果も惹起すると言うことかも知れない。
いずれにしろ、まず、これ以上経済を悪化させずに、日本の格付けを維持して国債の暴落を避けることが急務であり、そのためにも財政再建が必須であり、所得税の増税は、避けて通れないと思っている。
TPPについても論じたいと思ったが、別稿に譲ることにする。
常識的な理論の展開と言えばそうだが、論旨は極めて明快で、それに、結構、はっきりと自説を主張していて、たとえば、「私自身は、TPP交渉に参加すべきだし、一刻も早く消費税の引き上げをすべきだと考えている。」と言った調子である。
一時、一世を風靡していた「救国のレジリエンス」の藤井聡教授や「TPP亡国論」の著者中野剛志准教授の経済学的な考え方について、TPP反対論から、企業の生産性向上努力を否定したり公共投資万能主義的な理論を展開するなど、私は、間違っていると指摘して反論を展開してきたのだが、伊藤教授の経済理論も、全く同じ路線でこれらの対極にあり面白い。
TPP交渉の推進と消費税増税については、これまで何度も書いてきたので蛇足になるので、今回改めて論じることは止めるが、これらに対する伊藤教授の反論が興味深いので、私なりの感想を述べてみたい。
まず、増税だが、「消費税が経済活力を失わせるようであるなら、消費税の高い国の経済は沈静している筈だし、消費税が所得分配上好ましくないとすれば、消費税の高い国では所得格差が大きい筈だ。現実には、そうなっていないことは、北欧諸国を見れば明らかだ。」と教授は言う。
ヨーロッパ諸国の消費税にあたる付加価値税は非常に高率で、北欧諸国も25%であるし、その上に、非常に所得税など税金も高いのだが、失業しても生活に不自由がなく大学まで学費は無料であるなど至れり尽くせりの福祉社会制度が完備されていて、国民生活の不安は殆どない国柄だと言う。
伊藤教授の言うように、国民の生活における平等は、雇用や教育の機会や、医療、年金、介護などの社会保障制度によって大きく影響を受け、北欧では、高い税率によって実現する潤沢な税収がこうした豊かな福祉国家の実現を可能にしており、日本よりはるかに所得分配で高い平等率を実現している。
この見解は、正しいのだが、北欧並みに福祉制度や税の分配構造が確立されていない日本の現状を考えてみれば、、この状態で、所得税を、5%から、10%なり15%に増税すれば、逆進課税であるから、当然、所得の低い人々を直撃し、さらに、増税が所費を抑制して景気の悪化を引き起こす可能性は極めて高く、消費税増税反対論者の見解の方に分があろう。
現実に、年収が300万円以下の勤労者が、1600万人も存在すると言う現状で、生活と勉強さえままならないプアー・チルドレンが、どんどん増えていると言う現状を考えれば、貧しい人々に過重な負担が掛かる増税など、言語道断だと言う議論も十分に成り立つ。
北欧諸国のように、税率を高くして(すなわち、実質的には高額所得者から高額の税金を取って)十分な資金余裕を持って福祉制度を確立して、最低限度の福祉生活を保障するのみならず、更に、その水準を嵩上げて行くと言う社会保障制度を実現すれば、所得格差の縮小と福祉の向上は可能となろう。
したがって、日本の場合にも、たとえ、今回の消費税増税が、社会保障関係充実と言う名目であっても、実質的に弱者を救済し所得格差の縮小を意図するようなものでなければ、益々社会不安を増幅するなど問題を深刻化するだけとなろう。
私は、経済成長が止まってしまって、益々、日本のように経済社会の困窮度が深まって行けば行くほど、北欧のように、富裕者から多くの税金を集めて社会福祉資金を潤沢にして、所得格差の縮小と平等化を図って行く以外に、社会の安寧を図る道はないと思っている。しかし、そのためには、国民の意識革命から始めて、大改革が必要である。
アメリカ流に、資本主義を活性化するためには、利潤追求が最大のドライバーであるから、成功者には無尽蔵の利益が保障されて然るべきと言う思想は、既に世界的な金融危機で暗礁に乗り上げており、企業家とイノベーターの創造意欲は、むしろ、利潤動機よりも達成感なり使命感などの人間としての誇りの方が強くなって来ていることを考えれば、経済社会発展の妨げにはならないであろう。
私は、そのためにも、窮乏下での格差拡大などは愚の骨頂であり、資産課税を導入するなど富者に応分の負担を願うことが必要であり、同時に格差拡大を縮小するような税制改革が必要であると思っている。
現在、フランスの財界が、社会福祉税などの高負担に異議を唱えて抵抗し始めているが、フランスの場合には、北欧のように高負担高福祉の社会保障制度が完全ではなくて、中途半端な状態であるので、経済競争力の弱体化を招いて経済状況を悪化させるだけと言う困難な状況を招いているのであって、日本の場合には、これ以上に、社会福祉への国家体制が整っていないのであるから、消費税を単に上げるだけでは、更に、大変な関門が待っている。
増税反対論の中に、無駄の削減と言う見解が、まだ、根強く残っているのだが、ジェフリー・サックスが、「世界を救う処方箋」の中で、アメリカ政府の無駄を検証したが、その額は、微々たるもので殆ど削減効果はないと論じている。
日本の場合には、どうかは分からないが、民主党の仕分けが、結局、多くの文教予算をぶった切りにして、科学技術や文化芸術、スポーツなど、明日の日本への活力を削いでしまったことを考えれば、小沢派の言うような隠し玉などはなくて、これ以上追い込むと、逆効果も惹起すると言うことかも知れない。
いずれにしろ、まず、これ以上経済を悪化させずに、日本の格付けを維持して国債の暴落を避けることが急務であり、そのためにも財政再建が必須であり、所得税の増税は、避けて通れないと思っている。
TPPについても論じたいと思ったが、別稿に譲ることにする。