熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

吉例顔見世大歌舞伎・・・中村芝翫の「盛綱陣屋」

2016年11月24日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   今回は、昼夜の中村芝翫襲名披露公演を、通して一日で観た。
   実質的な芝翫および子息たちの登場する舞台は、昼の部の「祝勢揃壽連獅子」、夜の部の「口上」、「盛綱陣屋」、「芝翫奴」であった。
   連獅子は、親子4人の気合のあった素晴らしいパーフォーマンスで、亡くなった先代芝翫が、立派な後継者を残したことを天下に知らしめていて、福助児太郎父子、勘九郎七之助の中村屋兄弟を加えた一門のパワーは、大変なものであることが分かる。
   この能「石橋」から脚色した親子の厳しくも温かい情愛を表現した連獅子の舞台は、豪快な狂いと勇壮な毛振りを観ただけでも、正に、親子4人が披露する襲名の舞台には、最も似つかわしい演目であったと言えよう。

   「口上」で、児太郎が、父福助が、再起を期してリハビリに頑張っていると語っていたので、次の歌右衛門の艶姿の登場の近いことを心から祈りたい。
   落語の襲名披露口上とは違って、歌舞伎が面白くないのは、ともかくとして、天下の名優たちの晴れ姿なのであるから、もう少し、列座する役者たちは、心と頭を働かせて、もっと気の利いた口上を語れないのかといつも思う。
   仁左衛門は、大阪での口上で語るので、ご来場願いたいと語り、扇雀は、こうちゃんに公私ともにお世話になったが、私を語ると自分にとばっちりが来るので止めると笑わせていた。

   芝翫が、立役として、大舞台を務めたのが、夜の部の「盛綱陣屋」でのタイトルロール盛綱である。
   これは、能「藤戸」に登場する盛綱ではなくて、本作は、大阪の陣に材料を取って、徳川と豊臣の対立、すなわち、真田信之と真田幸村の兄弟の対立を、源頼朝没後の実朝と頼家の世継争いに準えて作り変えた芝居で、徳川側は鎌倉方、豊臣側は京方と言う形になっている。
   元々仲の良かった盛綱と高綱の兄弟が、戦場で敵同士になり、盛綱は、戦場で討ち取られた高綱の首を見て、贋物だと気付くのだが、捕らわれの身であった高綱の子小四郎が、その首を見て、「父上」と呼びかけて切腹したので、高綱小四郎父子の事前に交わされていた策略に気付いて、検視に来ていた北條時政に、小四郎を見殺しに出来ないので、「高綱の首に相違ない」と言上し、命を捨てる覚悟で弟の計略に乗るのである。
   その前に、盛綱が、母微妙に、小四郎を囮にして高綱を誘き寄せようとしている時政に背くことになるので、自分には出来ないが、代わりに、弟のために、小四郎に切腹させて欲しいと頼みこむ悲痛なシーンがあり、更に、小四郎の母篝火が忍んできて小四郎に会うなど、悲劇的な展開があるのだが、盛綱の弟や甥を思う、封建時代には一寸珍しいヒューマニズムが表出していて興味深い。
   ところが、弟の高綱を、和田兵衛を送り込んで救出を策すものの、事前に子供小四郎に自害を言い含めて、犠牲にしてでも、生き延びようとする敵将として描かれているのが、私には一寸疑問であり、戦国時代とは言え、当時の子供を囮や犠牲にする戦略戦術の非情さが、いつも、歌舞伎の舞台を観ながら、気になっている。

   芝翫は、このあたりの微妙な心の動きを、悠揚迫らぬ大きな立ち居振る舞いで演じて、堂々たる盛綱像を創出した。
   私は、幡随院長兵衛を観なかったので、何とも言えないが、超ベテランのいぶし銀のような微妙の秀太郎と、和田兵衛秀盛の幸四郎を相手にして、互角に演じ切り、今回の披露公演で、素晴らしい演技を披露したこの盛綱が、出色の出来だと思った。

   ひょんなことだが、結婚前の芝翫の奥方三田寛子さんを、一度、ロンドンで、ロイヤル・オペラ・ハウスのバレエ公演の時に、ロビーで見かけたことがある。
   その時には、影も形もなかったはずの3人の男の子が、橋之助、福之助、歌之助として、こんなに、立派に成長して襲名して、素晴らしい舞台を務めているのである。

   名門梨園の襲名披露だが、親子4人が同時に襲名して、素晴らしい披露公演を実現させるなどと言うのは、非常に珍しく、将来が大いに期待できると言うことで、成駒屋のみならず、歌舞伎の世界においても、大変な慶事と言えよう。
   
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