熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

巨大都市の崩壊は古代ローマが教訓を

2012年09月13日 | 学問・文化・芸術
   ジェレミー・リフキンの「第三次産業革命」を読んでいて、今日の世界の都市化について語っている章で、巨大都市の環境で持続不可能な人口を維持しようとすればどうなるか、古代ローマが厳然たる教訓を示していると書いているのに興味を覚えた。
   ローマ帝国の衰亡については、18世紀イギリスの歴史家エドワード・ギボンの『ローマ帝国衰亡史』(The History of the Decline and Fall of the Roman Empire)を筆頭に多くの書物が書かれており、興味の尽きない課題ではある。
   帝国領域の過大な拡張、経済危機、蛮族の侵入、軍事的弱体化等々いろいろ論じられているが、決定的な結論や理由づけなどは、恐らく不可能であろうと思うのだが、しかし、夫々の学者や歴史家が、自分たちの得意な視点から掘り下げて理由づけしているのを学ぶのは非常に面白い。

   さて、リフキンのローマ衰退論だが、母なる自然が異国の軍隊よりもはるかに強敵となって、帝国を屈服させたのだと言うのだが、このまま、都市化が益々進展して行けば、人類にとって持続可能な地球環境の維持は到底無理であって、私たちは、人口を減らし、エネルギーや資源をもっと効率的に遣い、環境汚染が少なく身の丈に合った生活環境を整えるのにもっと適した持続可能な都市環境を開発するために、最善の方法を考える必要に迫られていると言う危機意識がある。

   ローマ帝国の勃興期には、イタリアは、森林にびっしりと覆われていたのだが、数世紀の間に、森林は木材採取のために伐採され、土地は耕地や牧草地に変えられて、地面が風や洪水にさらされ、貴重な表土が流出し、国土の劣化を促進させた。
   政府収入の9割が、農業によるものであったローマ帝国は、収入を得るために、既に痩せていた土地を更に酷使して国土を荒廃させ、それだけではなく、植民地化していたアフリカ北部や地中海地方でも、搾取による土地劣化により農業人口が大幅に減少し、農地が放棄させていった。
   その結果、農業収入の減少によって中央政府が弱体化し、帝国全体で政府の事業が縮小し、道路とインフラは荒廃し、同時に、強大な勢力を誇ったローマ軍が財政難に遭遇して、国防よりも食料集めに注力するなど弱体化して、侵略軍を防げなくなったと言うのである。
   環境問題に軸足を置いた文明批評家であるリフキンとしては、当然の結論で、現在、ローマ市当局と共同して、ローマを、地球の生物圏が不可分な有機的生命のように機能する生物圏都市にすべくマスター・プランを作成していると言う。
   

   もう一つ興味深い古代ローマ衰退論は、エイミー・チュアが「最強国の条件」で展開している、文明史を、その国家の持つ寛容性で論じる議論で、最強国の歴史において、寛容は勃興と、また不寛容は衰退と、あるいは民族的「純粋さ」への呼びかけと、殆どの場合、軌を一にしているとする理論である。
   
   ローマを繁栄に導いた寛容さが失われて、不寛容さへの転向がローマ帝国を引き裂く上で大きな力となったのだが、その寛容さを捨て去る上で、大きな役割を果たしたのは、キリスト教であった。
   キリスト教が不寛容の源泉となり、ディオクレティアヌス帝の「非ローマ的」なキリスト教徒の大迫害と、逆に、キリスト教に改宗したコンスタンティヌス帝以降は、非キリスト教徒に対して迫害と不寛容が強くなり、異教徒や異端派に対する攻撃で、帝国は深く傷つき弱体化の一途を辿って行ったと言う。
   この宗教的、人種的な不寛容に加えて、文化や習慣の異質さが際立ったゲルマン人が大量に侵攻移住し、ローマの同化吸収能力を圧倒しはじめ、正にその時に、ローマ人が、その血と文化と宗教の「純粋さ」を追及し出した時期とも一致していたので、ローマ帝国は、自ら勝ち目のない戦争と内乱を引き起こして、衰退への道へ一直線に突っ走って行ったのだと言うのである。

   私自身は、リフキンの説くエコシステム破壊による国力の低下や、チュアの説く寛容さと純粋さの欠如によるとする衰退論は、非常に面白いし示唆に富んでいるとは思うが、それだけを核にして文明論を展開できるほど歴史は単純なものではないと思ってはいる。
   しかし、ローマ帝国は間違いなしに滅びたことは事実であり、不思議なことに、中国以外にはなかったのだが、再び、ルネサンスでイタリアは蘇ったのである。

   さて、世界的な歴史サイクルでは、突出してはいなかったのだが、日本の歴史は、夫々の時代において勃興と衰退を繰り返しながらも、サイクルを打ちながら、高度な文化文明を維持し続けている。
   今現在、日本が衰退期に入りつつあるとするならば、その衰退の原因は何であろうか。
   大袈裟かも知れないが、ローマの衰退の歴史から学べるかも知れないと思っている。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 国立劇場:九月文楽・・・「... | トップ | 畑村洋太郎×吉川良三著「勝つ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

学問・文化・芸術」カテゴリの最新記事