熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

バイエルン国立歌劇場オペラ・・・ニュルンベルクのマイスタージンガー

2005年10月01日 | クラシック音楽・オペラ
   阪神優勝決定の29日、NHKホールで公演されたミュンヘン・オペラのリヒャルト・ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は、3階の後まで補助席の出るほど超満員、とにかく、凄い舞台であった。

   何回もミュンヘンまで行きながら、華麗なナショナル劇場で見る機会を逸している唯一の世界的オペラなので、今回は是非観たくて楽しみにしていたが、久しぶりのワーグナー・ミュージックに引き込まれてしまった。

   幸い、私の日本でのワーグナー体験は恵まれていて、最初は、ブーレーズ指揮バイロイトの「トリスタンとイゾルデ」で凄いビルギット・ニルソンのイゾルデを聴いたこと、万博公演のドイツオペラでマゼール指揮の「ローエングリン」でのピラール・ローレンガーの初々しいエルザ等昨日の様に思い出す。

   その後、リエンチまでの初期の作品を除いて、ワーグナーは総て見ているが、その多くはロンドンのロイヤル・オペラで、当時の音楽監督ベルナルド・ハイティンクの指揮であった。
   まだ、ギネス・ジョーンズやルネ・コロが絶頂期で、素晴しい舞台を楽しむことが出来た。
   何故か、観た回数の多いのは「トリスタンとイゾルデ」で、どの舞台も、ウィーラント・ワーグナーの影響か、照明を落とした暗い、非常にシンプルで抽象的な舞台であった。
   「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の公演は、このコベントガーデンで見ているが、残念ながら、ベックメッサーを歌ったコミカルなヘルマン・プライの記憶しか残っていない。

   この「マイスタージンガー」は、ワーグナー自身が、コミック・グランド・オペラと銘打って作曲を始めて、最後にはこのタイトルを外したが、ワーグナーには珍しく喜劇性のあるオペラ・ブッファで、実際の市民生活を題材にした現実的なドイツを感じさせるオペラである。
   歌合戦に勝てばマイスタージンガーになり、美しいエヴァを花嫁に迎えられる、若い二人の恋とそれに棹差す中年男の妄執を、危機に瀕した旧弊を固守する社会への挑戦と政争を絡ませて描くのであるから面白い。
   最後は、ドイツの限りなくナショナリズムを高揚してハッピー・エンドで、歓呼の大合唱で終わるのであるから、ナチスが狂喜し、民衆が熱狂するのも、分り過ぎるほど良く分かる。

   「マイスタージンガー」は、このミュンヘンで1868年6月21日に初演されていて、今回の新演出は、昨年の6月26日だから、136年後の公演である。
   7月31日に、この「マイスタージンガー」で前のオペラ・シーズンが終わったが、舞台セットが倉庫に行かずに日本へ直行したのが今回の公演。
バイエルン・オペラの新しいオペラシーズンが、ミュンヘンではなく日本で開幕されるのは異例だと、ホームページに書いている。
 
   今回の舞台であるが、歌合戦の舞台を設営するのは、胸に「Nurunberger POESIE e.V」のマークを染め抜いたTシャツを着て野球帽を被った職人達であるから、演出は、何処にでもある現実のドイツの街角の風景。
群集の合唱団は、歌合戦のハレの場では、丁度欧米の結婚式に参列する男女の姿、即ち、背広とスーツで正装した紳士淑女姿で出ており、総勢100人を超す豪華な舞台である。
   これが、凄い歓喜の合唱をするのだから、大変な興奮を呼ぶ。
   第2幕幕切れで、市民達の大乱闘が始まるが、コーラスのハーモニーがびくともぶれないのだから凄い。

   今回の舞台で光っていたのは、やはり、靴職人で詩人のハンス・ザックス、秘めた情熱と心情を吐露して噛み締めるように朗朗と歌っていたバリトンのヤン=ヘンドリック・ロータリングで、巨漢ながら威厳があって流石であった。
   それに、嫌味なく表情豊かに歌っていたベックメッサーのアイム・ヴァイルム・シュルテの巧みさも秀逸で、短躯でダンディを装おうとする表情がいかにもコミカルで芸が細かく上手い。
   ヴァルターを歌ったテノールのペーター・ザイフェルトの歌合戦の優勝の歌「朝は薔薇色に輝いて」は流石に上手い、ハンス・フォン・ビューローから、リストの娘コジマを奪って妻にしたワーグナーだから、このエヴァに捧げた歌の素晴しさも格別である。
   エヴァを歌ったソプラノのペトラ=マリア・シュニツアーの歌合戦に出かける前の「おお、ザックス、わが友」は涙が出るほど美しくて感激、その後の5重唱が素晴しかった。

   最後の、優勝しながら、マイスタージンガーの称号を得ながら拒否するヴァルターに向かって、営々と築き上げてきた芸術家達の伝統と蓄積が如何に大切かを諭して切々と説くザックスの歌う「国が滅びても、神聖なドイツの芸術は永遠に残る」に感動して国民魂の発露に歓喜した大群衆の歓呼の中でクライマックスを迎えて終幕に突入する。

   性格が違うが、自由と平和と民主主義の到来を祝って歓喜するベートーヴェンの唯一のオペラ「フィデリオ」を思い出して感激新たであった。
   イースター音楽祭のベルリン・フィル、ロイヤル・オペラの舞台、新日本フィルの「レオノーレ」、どれも凄かった、何故これほどまでに人間の崇高さをベートーヴェンは歌い上げようとしたのか。
   ワーグナーも凄いと思うし、やはり、ドイツの芸術は永遠である。

   余談だが、最後に、カーテンコールに現れた指揮者ズービン・メータ、ビバリーヒルズのマダムに人気絶頂だった若くてダンディな頃のロサンゼルス・フィルから聴き続けているが、随分年を取ったなあと思った。

     
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1 コメント

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同じ日に… (ハンナ)
2005-10-02 20:52:24
偶然にも同じ日に観ていたようですね。トラックバックさていただきます。
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