熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

(27)ストラトフォード・アポン・エイボンでシェイクスピア戯曲を その2

2021年06月23日 | 欧米クラシック漫歩
   ストラトフォード・アポン・エイボンは、私が住んでいたロンドン郊外のキューガーデンから、かなりの距離がある。
   ロンドンからは、列車でストラトフォードまで往復できるが、私は、自家用車で通っていた。
   宿泊せずに夜の観劇を楽しもうと思えば、どうしても、終演後、夜半に、二時間ほど田舎道と高速を飛ばして帰らなければならないので、やはり、ここは雰囲気のあるホテルに宿泊して、どっぷりとシェイクスピアに思いを馳せる方が良い。ストラトフォードでなくても、オックスフォードでもウォーリックでも何処でも近くなら良い。ヨーロッパには、古いシャトウやイン、それに、キャッスルや貴族の館を転用した古城ホテルなど旅情を誘う宿舎がかなりある。悲劇でも喜劇でも良い、シェイクスピアを楽しむ機会を利用してヨーロッパの文化や伝統を肌で感じながら余韻を楽しむのは良いものである。

   RSCは、ストップ・オーバー・イン・ストラトフォードと言うプログラムを持っていて、観劇券、宿泊料及び夕食ないし昼食がセットされていて、割安で便利であるのだが、相当前から予約する必要がある。泊まりたいホテルなども予約できるので良いのだが、今日はパリ、明日はマドリッドと言った多望な仕事をしていたので、日時をフィックスして予約するなど到底無理であった。
   従って、私の場合には、思い立ってぶっつけ本番でストラトフォードに行くことが多くて、普通は、事前に電話を入れて空席を確認して出かけることにしていたのだが、一度だけ、予約せずに直接ボックス・オフィスに出かけてチケットを手に入れたことがあった。年末の30日で、どうせ空席が多いであろうと高をくくったのだが、運悪く満席であって、幸い早かったのでキャンセルが出て、1枚チケットが手に入って、「ウィンザーの陽気な女房たち」を楽しむことが出来た。ロンドンでは、年末年始は劇場は比較的空いているのだが、ストラトフォードは観光のメッカ、それを忘れていた。開演前に隣の席の紳士が話しかけてきた。私の席は、彼の妻の席で、クリスマス前に亡くなったのでキャンセルした、比較的良い席で、生前は夫婦一緒にシェイクスピアを楽しんでいたのだと懐かしそうに語っていた。

   さて、今回は、ストラトフォードでのホテルについて、書いてみたいと思う。

   スワン劇場の向かい側、道路を隔ててアーデン・ホテルがある。古風でこじんまりしたホテルで、玄関へのアプローチは、色とりどりの花が咲き乱れていて、スワン劇場とマッチした茶色の煉瓦造りの建物が美しい。土曜日で、「ヴェニスの商人」と「リア王」を昼夜観る機会を得て、夜の「リア王」が長時間なので、ロンドンへ車で帰るのも遠いので、一泊しようと思ってフロントに駆け込んだが満室であった。尤も、当日は、雰囲気のあるホテルはことごとく満室で、仕方なく、深い霧の中を車を走らせて深夜遅くキューガーデンに帰った。

   別の日には、予約を入れて置いて、劇場から少し離れた中心街のシェイクスピア・ホテルに泊まった。この時も「リア王」を聴いたのだが、旧市街にある何百年も風雪に耐えた高級ホテルなので、床など傾いて軋んでいて、まさに歴史を色濃く感じさせてくれる雰囲気は、シェイクスピア観劇の余韻が残っていて中々良いものである。狭い踏み込みそうな暗い廊下を歩いていると、シェイクスピアの登場人物とすれ違っても気づかないかも知れない。ヨーロッパを旅すると好んで最古のホテルを探して泊まるのだが、階段の踏み面が大きくすり切れていたり床や柱が大きく傾いていたりする古い木造のホテルに泊まると、いつも、昔の人と隣り合わせに生活しているような錯覚に陥る。このホテルの部屋の名前は、総てシェイクスピア戯曲と関係があって、この時の私の部屋は、「ヴェニスの商人」であった。
   

   「テンペスト」を聴いたときには、街から数キロ離れた郊外のシャトウホテル「ビレスリーマナー・ホテル」に泊まった。大きな古い領主の館をシャトーホテルに改装したもので、内装は勿論、家具調度などもそのまま転用されていて中々雰囲気がある。普通、夕食は、このホテルで取ることになるのだが、この日は、劇場で予約を入れていたので諦めざるを得なかった。
   その前の夏休みに一週間ほど、スコットランドのシャトウホテルを行脚したので、その思い出を記すと、
   必ず、ネクタイ、ジャケット着用で、正式なディナーを頂くことになる。豪華なリビングルームで食前酒を楽しみ、人心地付いたところで、豊かなダイニングルームに案内されてフルコースのディナーを取り、再び、リビングルームに戻って食後酒やコーヒーを楽しむ。ピアノや室内楽の演奏があることもあって、雰囲気を盛り上げる。
   スコットランドでは、五カ所ばかり、ほんの短期間ではあったが、英国貴族の雰囲気を味わうことが出来た。このようなシャトーホテルは、岬の突端にあったり、荒涼とした荒野にあったり、山の中の鬱蒼とした森の中にあったり、とにかく、辺鄙なところにあって、旅情を誘ってくれるが、寂しい。
   尤も、ストラトフォードは、やはり観光地で、最初に泊まったのは、中心街から南へ10キロばかり離れた郊外のビクトリア朝のゴチック様式の大きな領主の館「エッチング・パーク・ホテル」で、ここは、何処へ行くのも便利で、昼間、街へ出て散策したりショッピングしたりする以外は、終日、このホテルでゆっくりしていた。

   スペインには、古城を改装したパラドール・ホテルがあって、パラドール デ グラナダなど予約を試みたが、勿論、キャパシティが限られていて不可能であったが、ヨーロッパでは、そんな歴史的建造物に泊まって旅情を楽しむのも良いと思って、尋ね歩いたのだが、あの頃が無性に懐かしい。

   他にも、ストラトフォードには、フッと、路地裏からシェイクスピアが飛出してきても不思議に思えないような懐かしささえ感じさせてくれるホテルの思い出などもあるのだが、長くなったのでこれで置く。
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