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この浄瑠璃「妹背山婦女庭訓」は、、中大兄皇子(後の天智天皇)や中臣鎌足(後の藤原鎌足)らが蘇我入鹿を暗殺し滅ぼした大化の改新に題材をとったもので、いわば、入鹿が主役の物語である。
近松半二たちの作による五段の浄瑠璃だが、今回の通し狂言では、冒頭の「大内の段」と最後の五段目の入鹿が討たれて帝が復位して、久我之助と雛鳥との供養が行われる「志賀都の段」が省略されているが、正味8時間に及ぶ非常に意欲的な舞台であった。
歌舞伎や文楽で、見取り公演で、特に三段目の「妹山背山の段」や、四段目の「杉酒屋の段」から「金殿の段」くらいは、何度も見る機会があったので、お馴染みだが、このように通しで見ると、作品への思いが、一段と増して、浄瑠璃の良さ豊かさが分かって、非常に楽しめるのである。
それに、この劇場の文楽の場合には、オペラ劇場と同じように、舞台正面上部に字幕が表示されるので、ストーリー展開が、微妙なところまで良く分かって、非常に良い。
第一部は、大判事清澄と太宰の後室定高は領地争いで対立している不仲の間柄なのだが、その両家の清澄の子久我之助と定高の娘雛鳥が、春日大社の社殿で、一目惚れして恋に落ちる「小松原の段」から始まる。時代が変わっても、若い男女の愛は同じか、堂々と抱き合って唇を交わすと言うシーンまで披露する。しかし、これが悲劇の発端である。
蘇我入鹿が、権力を誇って居丈高であった父の蝦夷子を失脚させて自殺に追い込み、大判事を案内役として帝位を奪うべく禁裏に乗り込む。
逃げてきた天智帝の寵姫である鎌足の娘采女を久我之助が入水したと偽って匿い、猿沢の池で入鹿謀反を知った天智帝を、鎌足の子淡海が、落ち延びさせる。
入鹿は、大判事清澄と太宰の後室定高を呼び出して、天智帝と后にと望む采女の行方を激しく詰問し、さもなければと、子息久我之助を家来に、雛鳥を入内に差し出すよう命ずる。
その後が、2時間にも及ぶ「妹山背山の段」で、久我之助と雛鳥を死に追いやる悲劇が展開される。
舞台は、中央に川が流れていて、上手が背山で大判事清澄の館(男の世界)で、下手は妹山太宰館(女の世界)であり、下手にも床が設けられて、両床に太夫と三味線が分かれて、それぞれが掛け合う華麗な競演が演じられて感動的である。歌舞伎では、更に、両花道が設けられて、大判事が背山側、定高が妹山側から登場する。
定高は、入鹿への入内を拒否して久我之助の命を救うべく死を選んだ雛鳥の首を討ち、大判事清澄は、采女探索の手がかりを消すために自害する久我之助の切腹を許す。
定高は、雛鳥の首を雛人形とともに川に流して、対岸の大判事が弓で引きよせて受け取って、瀕死の状態の久我之助の面前に置くと、久我之助は、雛鳥の首を抱きしめてこと切れる。
滔々と流れる吉野川をはさんで向かい合う桜花が春爛漫と咲き誇る山を背にして繰り広げられる両家の悲劇。最後に、両家は和解するのだが、後の祭り。
日本の「ロメオとジュリエット」バージョンだが、入鹿の横暴が招いた悲しくも儚いナイトメアである。
明日香村飛鳥、飛鳥寺からすぐそばの畑の中に入鹿の五輪塔の首塚があり、私は、大和の中でも、この大らかで鄙びた飛鳥の里の雰囲気が好きで、学生時代に飛鳥によく行って、この飛鳥寺や石舞台や甘樫丘を訪れていたので、よく覚えている。
飛鳥板蓋宮で中大兄皇子らに暗殺され、蘇我入鹿の首がここまで飛んできたので首を供養するための墓だと言うことだが、勝てば官軍負ければ賊軍で、入鹿が悪人であったかどうかは疑問で、歴史に葬られてしまっていると思っている。
さて、橋本治は、この段を、「心理によって構成される武家の日常ドラマ」で、激しい盛り上がりはなく、最後は悲しみを含んだ詠嘆で終わる。と言っているのだが、どうしてどうして、素晴らしい太夫の浄瑠璃と三味線に乗って、冒頭は、川を挟んでの久我之助と雛鳥の恋心の交感、続いては、大判事と定高の両家の鞘当て、後半は、大判事と久我之助、定高と雛鳥の切なくも悲しい最後の葛藤と別れ、そして、「雛流し」と両家の和解、と、ストーリー展開は豊かで、運命に翻弄されながら踊る人形の姿が、胸に迫って離さない。
簑助の雛鳥の健気さ愛しさ、和生の定高の情愛深く風格のある佇まい、玉男の大判事の人間そのものの大きさ豊かさ、そして、勘十郎の久我之助の誰よりもブレのない決然として運命に立ち向かう潔さ。
素晴らしい三味線に乗って、夫々の役どころを、悲しさや苦しさを、時には肺腑を抉るような語り口で語り尽くす太夫の熱演は、特筆もので、浄瑠璃の醍醐味を味わわせてくれて、感動的であった。
この舞台、
背山は、大判事 千歳太夫、久我之助 文字久太夫、前 藤蔵、後 富助、
妹山は、定高 呂勢太夫、雛鳥 咲甫大夫、前 清介、後 清治、琴 清公、
人形は、雛鳥 簑助、久我之助 勘十郎、大判事 玉男、定高 和生
と言う願ってもない最高峰の布陣であるから、正に、感動モノの大舞台である。
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この日、ロビーに、熊本大震災のための募金に、太夫をはじめ三業の技芸員の方々が、人形を遣いながら出ておられた。
私も人並みに募金に加わって、写真を撮らせて頂いて良いかと伺ったら、一緒に写真を撮ろうと誘ってくださり、案内のお嬢さんにシャッターを切ってもらった。
この写真の公開は控えて、ほかの写真を、掲載しておくと、
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近松半二たちの作による五段の浄瑠璃だが、今回の通し狂言では、冒頭の「大内の段」と最後の五段目の入鹿が討たれて帝が復位して、久我之助と雛鳥との供養が行われる「志賀都の段」が省略されているが、正味8時間に及ぶ非常に意欲的な舞台であった。
歌舞伎や文楽で、見取り公演で、特に三段目の「妹山背山の段」や、四段目の「杉酒屋の段」から「金殿の段」くらいは、何度も見る機会があったので、お馴染みだが、このように通しで見ると、作品への思いが、一段と増して、浄瑠璃の良さ豊かさが分かって、非常に楽しめるのである。
それに、この劇場の文楽の場合には、オペラ劇場と同じように、舞台正面上部に字幕が表示されるので、ストーリー展開が、微妙なところまで良く分かって、非常に良い。
第一部は、大判事清澄と太宰の後室定高は領地争いで対立している不仲の間柄なのだが、その両家の清澄の子久我之助と定高の娘雛鳥が、春日大社の社殿で、一目惚れして恋に落ちる「小松原の段」から始まる。時代が変わっても、若い男女の愛は同じか、堂々と抱き合って唇を交わすと言うシーンまで披露する。しかし、これが悲劇の発端である。
蘇我入鹿が、権力を誇って居丈高であった父の蝦夷子を失脚させて自殺に追い込み、大判事を案内役として帝位を奪うべく禁裏に乗り込む。
逃げてきた天智帝の寵姫である鎌足の娘采女を久我之助が入水したと偽って匿い、猿沢の池で入鹿謀反を知った天智帝を、鎌足の子淡海が、落ち延びさせる。
入鹿は、大判事清澄と太宰の後室定高を呼び出して、天智帝と后にと望む采女の行方を激しく詰問し、さもなければと、子息久我之助を家来に、雛鳥を入内に差し出すよう命ずる。
その後が、2時間にも及ぶ「妹山背山の段」で、久我之助と雛鳥を死に追いやる悲劇が展開される。
舞台は、中央に川が流れていて、上手が背山で大判事清澄の館(男の世界)で、下手は妹山太宰館(女の世界)であり、下手にも床が設けられて、両床に太夫と三味線が分かれて、それぞれが掛け合う華麗な競演が演じられて感動的である。歌舞伎では、更に、両花道が設けられて、大判事が背山側、定高が妹山側から登場する。
定高は、入鹿への入内を拒否して久我之助の命を救うべく死を選んだ雛鳥の首を討ち、大判事清澄は、采女探索の手がかりを消すために自害する久我之助の切腹を許す。
定高は、雛鳥の首を雛人形とともに川に流して、対岸の大判事が弓で引きよせて受け取って、瀕死の状態の久我之助の面前に置くと、久我之助は、雛鳥の首を抱きしめてこと切れる。
滔々と流れる吉野川をはさんで向かい合う桜花が春爛漫と咲き誇る山を背にして繰り広げられる両家の悲劇。最後に、両家は和解するのだが、後の祭り。
日本の「ロメオとジュリエット」バージョンだが、入鹿の横暴が招いた悲しくも儚いナイトメアである。
明日香村飛鳥、飛鳥寺からすぐそばの畑の中に入鹿の五輪塔の首塚があり、私は、大和の中でも、この大らかで鄙びた飛鳥の里の雰囲気が好きで、学生時代に飛鳥によく行って、この飛鳥寺や石舞台や甘樫丘を訪れていたので、よく覚えている。
飛鳥板蓋宮で中大兄皇子らに暗殺され、蘇我入鹿の首がここまで飛んできたので首を供養するための墓だと言うことだが、勝てば官軍負ければ賊軍で、入鹿が悪人であったかどうかは疑問で、歴史に葬られてしまっていると思っている。
さて、橋本治は、この段を、「心理によって構成される武家の日常ドラマ」で、激しい盛り上がりはなく、最後は悲しみを含んだ詠嘆で終わる。と言っているのだが、どうしてどうして、素晴らしい太夫の浄瑠璃と三味線に乗って、冒頭は、川を挟んでの久我之助と雛鳥の恋心の交感、続いては、大判事と定高の両家の鞘当て、後半は、大判事と久我之助、定高と雛鳥の切なくも悲しい最後の葛藤と別れ、そして、「雛流し」と両家の和解、と、ストーリー展開は豊かで、運命に翻弄されながら踊る人形の姿が、胸に迫って離さない。
簑助の雛鳥の健気さ愛しさ、和生の定高の情愛深く風格のある佇まい、玉男の大判事の人間そのものの大きさ豊かさ、そして、勘十郎の久我之助の誰よりもブレのない決然として運命に立ち向かう潔さ。
素晴らしい三味線に乗って、夫々の役どころを、悲しさや苦しさを、時には肺腑を抉るような語り口で語り尽くす太夫の熱演は、特筆もので、浄瑠璃の醍醐味を味わわせてくれて、感動的であった。
この舞台、
背山は、大判事 千歳太夫、久我之助 文字久太夫、前 藤蔵、後 富助、
妹山は、定高 呂勢太夫、雛鳥 咲甫大夫、前 清介、後 清治、琴 清公、
人形は、雛鳥 簑助、久我之助 勘十郎、大判事 玉男、定高 和生
と言う願ってもない最高峰の布陣であるから、正に、感動モノの大舞台である。
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この日、ロビーに、熊本大震災のための募金に、太夫をはじめ三業の技芸員の方々が、人形を遣いながら出ておられた。
私も人並みに募金に加わって、写真を撮らせて頂いて良いかと伺ったら、一緒に写真を撮ろうと誘ってくださり、案内のお嬢さんにシャッターを切ってもらった。
この写真の公開は控えて、ほかの写真を、掲載しておくと、
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