
小泉首相の靖国発言を嫌気して会談をキャンセルした中国の呉儀副首相が、また、アメリカ通商代表(USTR)に噛み付いた。
ポートマンUSTR代表が、WTO加盟時に公約したサービス市場の自由化について、中国はルールに基づく公正な競争を守るべきなのに、知的財産の侵害に対して十分な取締りをしていないと非難した。
これに対して、アメリカこそ、中国からの略奪品で博物館が充満しているではないかと切り替えした。
この問題は、大分以前に、「日曜はダメよ」のギリシャの女優メルクーリ文化大臣が、英国政府に対して、大英博物館の至宝「エルギン・マーブル」、即ち、パルテノン神殿を装飾していた破風の彫刻など膨大な古代ギリシャの彫刻群を、ギリシャに返還せよと迫ったことを思い出させる。
野蛮国ギリシャの実情を憂えて、当時の駐希エルギン大使が、文化遺産を守るためと称してイギリスに持ち帰った。対価を払えば大変な価格になるはずだが、事実上の超大国英国の都合による略奪であろう。
同じことがヨーロッパ各地の博物館の文化遺産で起こっており、あの「ミロのビーナス」も、英仏間の激しい争奪戦の末、フランスに渡りルーブルに展示されている。
展示品をオリジナルの国に返還するとなれば、欧米の博物館は大打撃を受け、閉鎖しなければ成らなくなるかも知れない。
話は違うが、「モナ・リザ」は、フランソワ王の招請で移住した時に、レオナルド・ダ・ヴィンチがフランスに持ち込んだ遺産であるが、イタリア人配管工が、イタリアのものだと言ってルーブルから盗み出したことがある。
第二次世界大戦の時のヒットラーとスターリンの絵画・彫刻等の文化遺産の争奪戦は熾烈を極めて、その間に、消失した偉大な文化遺産も数多い。戦争と美術品の略奪との関係は歴史が深い。
比較的文化財に執着の薄い日本人でも、日本軍が「北京原人」の遺骨を持ち帰ろうとしたが、船が沈没して消失してしまっている。
私の言いたいことは、人類の最大の知的財産である世界的な文化遺産については一顧だにせず、特許権がどうだとか商標権がどうだとか、非常に近視眼的なマネタリー・タームで知的所有権が議論されすぎていることである。
堺屋太一氏の「知価革命」論にも不満があるのは、知恵の時代になったと言っているが、人類の知価の創出は、例えば、比較的にも相対的にも、大宗教が誕生した時代、古代ギリシャ・ローマ時代、ルネサンス時代等々の方が遥かに高い知価を生み出している。経済価値として評価されなかっただけであって、知価の価値は変わっていない。
情報化産業社会等サービス産業化への移行は事実であるが、大半は生産性の向上による経済社会の構造変化で、今回の場合は、知価と言うよりは、正に、ITを含めた情報化革命なのである。
日本も長い間、先進国にキャッチアップする為に、先進国のまねをしながら、経済社会の発展を続けてきた。中国も同じ道を歩いてきている、そう思えないであろうか。
ソニーがビデオ・レコーダーの製造を開始した時から既に、そして、急激なIT革命等による科学技術の進歩によって、益々、知的財産の保護は困難になって来ている。
人類の幸福の為に、エイズ対策薬等高価な特許薬品などを発展途上国へはロイヤリティなしで生産を許可する動きなども出ている。
ゲイツは独占して巨財を蓄積したが、リナックスや坂村健のICタグなどのフリーでオープンなIT革命の動きもあり、ITの益々のコモディティ化が進んで行く。
イノベーションが、人類の発展と、経済社会の成長のキイ・ファクターである。
知的財産の保護は、公正かつ健全な経済社会に必須ではあるが、ディズニーに認めた「ミッキーマウス」の著作権延長のようなことをしていると、イノベーションの芽を摘み、経済社会の発展意欲を削ぐ。