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ミステリ感想-『哲学者の密室』笠井潔

2006年07月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ユダヤ系財閥フランソワ・ダッソー邸で滞在者の死体が発見された。
現場となった三階の塔は施錠され、一階と二階には監視の目が光る「三重密室」だった。
残されたナチ親衛隊の短剣が意味するものは? そして犯人は?
三十年前、終戦直前のナチス収容所に忽然と現れた三重密室との符号を、矢吹駆は現象学的本質直観で解き明かせるのか。


~感想~
やっと読み終えた。
購入から●年。本棚で熟成させつづけ、紙も日焼けする段に及びようやく征服できた。
「バイバイ、エンジェル」・「サマーアポカリプス」・「薔薇の女」とつづいてきたカケルシリーズのまさに総決算。絢爛豪華な哲学の祭典である。
祭典にふさわしく、今回カケルが挑むのは、哲学ファン(ファン?)でなくとも一度は目にしたことのあるだろう著名な哲学者マルティン・ハイデッガー。
彼の哲学と、作中で描かれるハイデッガーの化身ハルバッハの哲学とがどこまで等しいのかは、哲学オンチの僕にはさっぱりだが、とにかくハイデッガー(ハルバッハ)の哲学を主題に物語は描かれる。
言うなれば、プロットもトリックも動機も伏線も推理も犯人もすべてがハイデッガー(ハルバッハ)づくしのハイデッガー(ハルバッハ)耽溺ミステリ。とにかく疲れます。
読み終えたときには、難攻不落の高峰をのぼりつめた達成感や征服感よりも、深い疲労に包まれること請け合い。
ミステリとしてみれば、推理がなされては自爆、結論が導かれては粉砕をくり返し、しかもその正解ではない誤った推理が、実に退屈な、ただ状況に沿うだけのトリックであり、思わず不安になってしまうが、最後に明かされる真相は単純明快なトリックであり、ミステリらしい大仕掛けも飛び出してくれる。
まあそれが3000枚近い分量に見合うだけの大トリックとはとても思えないが、そもそもこの作品はカケルの(あるいは作者の)哲学と思想が爆発炎上する、小説とミステリの形を借りた哲学書だと捉えるのが正しいのだろう。
面白かったとも満足したともいえないが、とりあえず読めば「僕はあの哲学者の密室を読んだ」と胸を張れる、いわば勲章的作品。

僕は「哲学者の密室」を読んだ! 感想はただそれだけである。


上巻06.6.29
下巻06.7.4
評価:★★★ 6
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