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ミステリ感想-『邪魅の雫』京極夏彦

2006年10月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「殺してやろう」「死のうかな」「殺したよ」「殺されて仕舞いました」「俺は人殺しなんだ」「死んだのか」「――自首してください」「死ねばお終いなのだ」「ひとごろしは報いを受けねばならない」
昭和28年夏。江戸川、大磯、平塚と連鎖するかのように毒殺死体が続々と。警察も手を拱く中、ついにあの男が登場する!
「邪なことをすると――死ぬよ」
※カバー裏から転載


~感想~
決して凡作ではないし退屈でもないのだが、手放しでは褒めづらい作品に仕上がった。
前作『陰摩羅鬼の瑕』は50ページでトリックが解り、以降は延々と消化試合を見せられた感覚で全く印象に残っていない。それと比べれば本作の印象は後々まで残りそうなものではある。その点カバー裏に決めゼリフ「邪なことをすると――死ぬよ」を配したのは大正解だろう。
氏の作品は妖怪小説(もしくは京極小説)であり、ミステリとして評するのは見当違いかもしれない。それでもミステリとして端的に述べるならば、これは「解りやすい絡新婦の理」であろう。解りやすいだけに「劣化」と評する向きが多いのだが。しかし作中に「操りの犯罪」というそのものズバリの言葉が出てくるとおり、昨今のミステリ界で人気の「操りの犯罪」を扱ったものではあるのだが、その扱い方が普通ではないのが氏の腕の見せ所。
タイトルでありテーマである「邪魅の雫」と密接にからみあい、今までのシリーズとはかけ離れた展開を見せてくれる。――のだが、その展開はこちらの期待するものから乖離しているのも事実。
はっきり言ってしまえば「妖怪成分が足りない」「木場成分が足りない」「榎木津成分が足りない」「ウンチク成分が足りない」つまりは「シリーズ成分」が足りないのだ。舞台を限定したことで、おなじみのメンツが必要最小限しか出なかった前作から数年ぶりの新作だけに、いくつもの都市を股に掛けた今作では、常連たちの活躍(?)を見たくなるのがファン心理である。しかし――描かれるのはなじみのメンツ以外の心理と視点ばかりで、当てが外れてしまったのだ。
起こる事件は非常に奇抜。導かれる結論も異様。しかしどうもこちらの期待するものではなかった。
蛇足になるしさんざん指摘されているが、全く必要のない評論家批判はともかくとして、澤井・澤田の名前の混同はいったいなにをやっているのだろうか。


06.10.8
評価:★★☆ 5
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