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ミステリ感想-『二枚舌は極楽へ行く』蒼井上鷹

2006年10月24日 | ミステリ感想
~収録作品~
野菜ジュースにソースを二滴
値段は五千万円
青空に黒雲ひとつ
天職
世界で一つだけの
待つ男
私のお気に入り
冷たい水が背筋に
ラスト・セッション
懐かしい思い出
ミニモスは見ていた
二枚舌は極楽へ行く


~感想~
短編・掌編とりまぜた作品集。
連作というわけではないが、各編が他の物語にも顔を出し、微妙にからみ合う。
作品の質はどれも一定水準を上回り、ハズレは見当たらない。デビュー作の『九杯目には早すぎる』のいわゆる小市民テイストを残しつつも、新たな切り口を見せてくれる作品もちらほら。
なかでも傑出しているのは、小市民テイストを封印した「ラスト・セッション」。長編にしても耐えられるような題材を、短く手堅くまとめ、見事な幕引きへとつなげた秀作である。
表題作の「二枚舌は極楽へ行く」が一番の好みで、なんともいえない真相と、黒い笑いを誘う結末が逸品。
主人公の軽妙な語りだけで描く「天職」や、意外な決着に驚く「待つ男」など佳作があるわあるわ。
また「私のお気に入り」が特に顕著だが、末尾に記す参考文献がオチになっているのも面白い。どこが参考やねん。
気楽に読めて気楽に楽しめる、ミステリ読みだけに限らずあらゆる本読みを満足させるだろう、懐の深い作品集である。


06.10.24
評価:★★★★ 8
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