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ミステリ感想-『厭魅の如き憑くもの』三津田信三

2007年02月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
対立する憑き物筋の「黒の家」と「白の家」、神隠しに遭う子供たち、生霊に憑かれた少女、厭魅(まじもの)が出たと噂する村人、死んだ姉が還って来たと怯える妹、忌み山を侵し恐怖の体験をした少年、得体の知れぬなにかに尾けられる巫女。
作家・刀城言耶が取材に訪れた村を次々と襲う怪異と怪死。犯人は人間? 憑き物? それとも厭魅?


~感想~
とんでもない作品である。村を丸ごと一個作り上げ、地形・血縁・成立過程・因習・宗教儀礼まで事細かに練り上げ、しかもそれらを雰囲気作りだけに奉仕させることなく、トリック・プロットに有機的に組み込んで見せた労作。全ページに伏線があると言っても過言ではない大仕掛けとあいまって労作という言葉がよく似合う。
それだけに次作『凶鳥の如き忌むもの』と同じく読み通すのに骨が折れるのも確か。『凶鳥』のように「設定資料」とは感じさせない、エピソードを丹念に積み重ねた物語なのは救いだが、一つ一つの逸話がじっくりと描かれるため、非常に骨が折れる。しかしそれだけ熟成された物語は、なんとも言えない濃厚な空気に包まれ、本書でしか味わえない読書体験をもたらしてくれる。この村で起こる異様な物語をもっともっと読みたくなってくるのだ。
逆転に次ぐ逆転で最後の最後まで気の抜けない解決編、そして思わず口をあんぐりと開いた呆然の真相は、どこまでも本格魂にあふれている。道尾秀介といいホラー畑の作家がどうしてここまで本格なミステリを書けるのだろう。これを「本格ミステリ大賞」の候補に選ばないとは本当にどうかしている。
それにしても――村の地図と家の見取り図があればもっと楽しめたと思うのだが、なぜないのだろう?


07.2.19
評価★★★★☆ 9
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