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ミステリ感想-『心臓と左手』石持浅海

2007年10月05日 | ミステリ感想
~収録作品~
貧者の軍隊
心臓と左手
罠の名前
水際で防ぐ
地下のビール工場
沖縄心中
再会


~感想~
『月の扉』の続編、だが大きなネタバレはしていないので前作を読んでいなくても問題はない。
いわゆる倉知淳『猫丸先輩シリーズ』のような、探偵が聞いた謎を元に推論を語るという趣向だが、目新しいのは、事件はその時点で全て終わっているという点。既に閉じられている物語を開き直し、新たなる解釈を加えて再び閉じる、という大技である。が、それにいまいち乗りきれない。
なぜ楽しめないのか、その理由は末尾の『再会』で解った。
(↓以下ややネタバレ↓)
『再会』は『月の扉』の後日談であり、ハイジャック事件の被害者の家族が、事件を解決した探偵役である座間味くんを「あなたが立ち上がったせいで、立ち上がれなかった人々は劣等感を抱いた」というあんまりな理由で告発するという、すでにその時点でかなりイタイ話なのだが、それに応じる座間味くんがもう最低。
名探偵のジレンマに悩むでもなく「あなたの話にはおかしな点がある」と淡々と告発の矛盾をつきやがるのだ。反省しろ謝罪しろとは言わないが、この冷徹な視点はいったいなんなのだろうか。しかも座間味くんは結論として、苦しむ被害者の父親をおとしめ、さらには直接触れることなく母親をもおとしめてしまう。「父親は責任転嫁している」というが、そういう座間味くん自体が責任転嫁の権化に見えてしまうのだ。なのになのに被害者はそんな座間味くんの論理に救われてしまうというあんまりな大団円を迎えるのだからもうたまらない。お前ら全員そろってアレか!


この不快感はただごとではない。狙ってやっているとしたら作者は天才である。ここまで端的に言ってむかついた小説も珍しい。
僕にはもはや座間味くんのセリフはニュータイプ優生論を語るシャアのそれとして響いた。誰かアムロの声で一喝してくれ。

「シャア(座間味)! 人を測るな!!」

って。


07.10.5
評価:★☆ 3
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