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ミステリ感想-『リベルタスの寓話』島田荘司

2007年10月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
民族紛争の深い傷痕が残るボスニア・ヘルツェゴビナで、心臓以外の臓器をすべてガラクタと入れ替えられた惨殺死体が発見された。
事件は中世の自由都市を救った機械人間「リベルタス」と奇妙な暗合を見せ……。(リベルタスの寓話)

クロアチアから日本を訪れた二人の俳人が奇妙な死を遂げた。一人は金庫のような密室でピラニアに顔と手を食われ絶命、もう一人は車にひかれ爆死。
捜査を依頼された石岡和巳はスウェーデンの御手洗潔に助けを求めるが……。(クロアチア人の手)


~感想~
御大の提唱する「21世紀本格」の模範を御大自らの手で示した中編が2本。どちらも無理なく長編にできるのに、分量を濃縮しての大盤振る舞い。贅沢な望みだが、大長編でじっくりと書き上げてくれても面白かったろうに。
トリックはぶっちゃけると「こんな科学反応があります」系の、難しい言葉でいうと二階堂黎人・藤木稟的トリックなのだが、単なる物理化学の応用授業ではなく、調理の仕方で平易かつ興趣深く読ませてくれる。よく考えると、氏の持ち味のひとつは豪快な物理トリックであり、それに21世紀の現実的な解釈や最新知識を加えたのだから、やっていることは同じだともいえる。
なによりも語りの巧みさは言うまでもなく、『リベルタスの寓話』では、事件現場で手掛かりを探している時、中世の物語とつながる物品が出てきて、いよいよ寓話と現代がつながると盛り上がった瞬間に、御手洗がそんなものに全く取り合わず、なんの手掛かりにもなりそうもない、ただの軽口の中から決定的な証拠を見つけるあたりなど、実に巧い。
21世紀本格、21世紀御手洗の電話探偵ぶりと、21世紀島田荘司の魅力が凝縮された秀作集である。


07.10.14
評価:★★★☆ 7
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