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小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『神国崩壊』獅子宮敏彦

2009年08月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
中原に君臨する華王朝の都・紫京。その宮城で皇帝の側近が殺された。「歴史から消された出来事」をまとめたある「禁書」が原因らしい。
そこには、とうてい人の業と思えない不可思議な出来事がつづられていた。生死を司る神の水、城壁をすり抜ける軍隊、消失した都市、誰もいなくなった島……。


~感想~
中世(ただし中国っぽい架空の国)ファンタジィ小説に本格ミステリなトリックを織り交ぜた異色の連作短編集。ファンタジィならではの、ファンタジィでしかなしえない奇想天外な大トリックが売りだが、全体の描写が軽く、中世の雰囲気をかもし出せるまでにはいたらず、また基本的な筆力の不足(失敬)から伏線の張り方が甘く、惜しいところで佳作になりそこねてしまっている。
謎はどれも魅力的で、大掛かりなものがそろっており、それぞれこの舞台、この時代でしかありえないものばかりで、独自色も濃い。
だが伏線があからさますぎて真相が見え見えだったり、説明不足で伏線がほとんど機能していなかったりともったいない。
また現代パート(現代といっても作中でもっとも新しい時間軸というだけで、中世なことに変わりはない)の間に4つの短編をはさみ、連作短編集としていながら、その現代パートがきゃぴきゃぴした少女が騒ぎ立てるラノベ風味で明らかに浮いており、さらに「それは伏線と言わねえよ」と苦言を呈したくなるあんまりな伏線のせいで、なくてもいいパートになってしまっているのも残念。
総じてなんとも惜しい作品である。

まったく個人的な話だが、僕は自分でも趣味で書いているくせに、ファンタジィ小説というものに拒絶反応が出てしまうたちなのだが、舞台が中国(っぽい)というだけでまったくアレルギーが出なかったのは、やはり三国志愛のなせるわざだろうか。


09.8.6
評価:★★☆ 5
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