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ミステリ感想-『『ギロチン城』殺人事件』北山猛邦

2014年07月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
伝説の首狩り人形に魅せられた当主が建てたギロチン城。
密室状況下で首を切断された彼のそばには首狩り人形が佇んでいた。
城に住む何者かから救いを求められた自称探偵・幕辺ナコは強引にギロチン城へ進入。
そこには数字の名前を付けられた少女達と、名前の無い少女がいた。


~感想~
城シリーズおなじみの豪快な物理トリックはもちろん、類例のあまりないとあるトリックが炸裂する傑作。
「麻耶っぽい」という話を聞いていたが、首がアレしてアレする展開だけではない想像以上に麻耶っぽい、いかにも麻耶雄嵩が書きそうな作品である。
例によって唐突に起こる装飾過多に残虐な事件から始まり、レミングスのように次々と殺されていく記号化された被害者たち、記号化の象徴のように一、二、三、四、五という安直なネーミングの兄妹、名前が無いため「・」というドットで表現されるヒロイン(?)と、厨二病な設定も健在。本筋には関わらないもののあの短剣も登場し、シリーズファンならあの男女がもしかして…と妄想もできる。
↓以下、トリックに関してネタバレ↓

ミステリの題材としてよく採り上げられる「スクエア」の儀式から着想し、麻耶っぽいという噂に違わぬ本当に首がスライドする殺人が起こってさすがに笑った。
この密室殺人自体は、あまりにも犯人にとって理想的かつ順調に事が進み過ぎることに目をつぶればそこそこ面白いものだが、本作の主眼はやはりその後に炸裂する2つのトリックだろう。
まず図面にあからさまな伏線は張られていたものの、おそらく大半の読者にとっては脈絡もなく文字通りに降って湧くギロチン仕掛けが素晴らしい。
まあ気づかない警察は無能だが、読者の意表をつくトラップ発動と同時に、説明不要の問答無用さで当主殺害の謎が解ける、豪快きわまりない真相開示には二重に驚かされた。

そしてなんといっても褒め称えたいのは頭と体に別々の名前が付けられた彼女の存在。それが単に厨二病的な発想というだけではなく、犯人の動機や余韻を残す結末につながり、さらにはそれこそ麻耶雄嵩の某傑作短編を思い起こさせる、読者に真実を語ることが逆に叙述の罠として機能するという転倒した叙述トリックが、しかも読者のみならず作中人物の探偵にまで全く同じ方法で仕掛けられるという卓越した発想で、作品全体のテーマ・トリック・物語性を一本で貫くことに成功している。
前作「『アリス・ミラー城』殺人事件」に不足していた全編にわたる伏線や綱渡りも完備し、読み返すとどうして気づかなかったのかと悔やまれる不自然な描写が散見されるのも見事。


この時点の作者が著名であれば、もしくは著名な作者がものしていたらもっと話題になっただろう、読了後にいろいろ語りたくなる再評価されるべき傑作である。


14.7.3
評価:★★★★ 8
コメント (2)