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ミステリ感想-『鍵のない夢を見る』辻村深月

2014年07月06日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ノンシリーズ短編集。
12年直木賞、「芹葉大学の夢と殺人」は11年の日本推理作家協会賞・候補

仁志野町の泥棒
人気者の転校生・律子の母が泥棒だという噂を聞いたミチル。
とうてい信じられなかったが、留守中の我が家から出てくる律子の母と出くわし……。

石蕗南地区の放火
災害共済地方支部に勤める笙子は、不審火が出た実家そばの消防団の詰め所に向かう。
そこでかつて一日だけデートした消防団員の大林に声をかけられ……。

美弥谷団地の逃亡者
出会い系サイトで知り合った陽次と付き合うようになった美衣。
だが陽次は次第に本性を表し、美衣を束縛し暴力までふるうようになる。

芹葉大学の夢と殺人
大学時代の恩師が殺されたと聞き、未玖はかつての恋人・雄大が犯人ではないかと疑う。
不安は的中し、数日後に雄大から電話が。雄大の元へ向かった未玖はいかにしてラブホテルの階段から転落するに至ったのか。

君本家の誘拐
君本良枝は今さっきまで自分が押していたベビーカーと、中に乗っていたはずの娘を見失い半狂乱となる。
ショッピングモールのどこにも見つからない娘は何者かに誘拐されたのか。夜泣きに悩まされ娘を疎ましく思っていた良枝は激しい後悔にさいなまれる。


~感想~
デビュー当時は高評価していたもののいつの間にやらメジャー作家に上り詰め遠いところに行ってしまい、ひねくれ者の自分は手に取ることの無くなった辻村作品を久々に体験。
直木賞といえば何度も言うように単なる功労賞で、その作品自体が評価されたわけではなく作家の長年の活躍を賞する意味合いしかないのはよくよく承知しているが、それにしても氏の作品として別段何かが優れているわけでもなく、そもそも一貫したテーマも何もないただのノンシリーズ短編集である本作を、わざわざ直木賞に祭り上げた意図はまったくもって度し難い。
端的に言ってこの程度の作品に「直木賞」を与えるなら、一生に一度という制限を取っ払って宮部みゆきや東野圭吾に毎年授与した方がよっぽど健全であろう。

まとめて感想を言うと、氏の特長の一つである「痛さ」はよく描けている。後の作品になるにつれ痛さが加速し「美弥谷団地の逃亡者」での相田みつをの使い方などもう狙ってやったとしか思えない、みつをに対する悪意まで感じられる。
「芹葉大学の夢と殺人」ではこれぞ辻村キャラと言いたくなる現実離れしたレベルで痛さ爆発の男が登場し、ついでに直木賞に欠かせない要素であるらしい赤裸々な性も描き(というかマジで今まで読んだ直木賞で「後巷説百物語」以外必ず性描写があるのはなぜなんだろうか)、ラストの「君本家の誘拐」では痛さを通り越し狂気にまで足を突っ込みと、なんだかんだ言ってどの作品も見どころはあるし筆力も読ませるものなのだが、やはり初期の綺羅星のごとき傑作群と比較すると、(あくまで自分にとって)つまらない、興味のない作家になってしまったと嘆息せずにはいられない。
あと日本推理作家協会賞は結末になんらの意外性もない「芹葉大学の夢と殺人」より「美弥谷団地の逃亡者」が候補に挙げられるべきだと思うのだが。


14.7.4
評価:★★ 4
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