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ミステリ感想-『ドッペルゲンガーの銃』倉知淳

2018年10月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
女子高生ミステリ作家の水折灯里はデビュー後第一作のアイデアをパクるため、キャリア警官の兄に不可能犯罪をねだり、現場に突撃取材を仕掛ける。
事件の謎を解いたと得意になったのもつかの間、兄に思わぬ異変が起きて……。

表題作の他、中編2作を収録


~感想~
半分でいい。絶対半分以下のページ数で書けるはず。
近年の作者は無駄にページ数を食っているがたったこれだけの内容にこんな分量は絶対必要なく、ここまで来てしまったかという印象。なんというかもっと読者のことを信用して欲しい。一から十まで説明する必要はないのだ。

くどくどくどくど同じ説明を繰り返し、誰も本格ミステリを読むに当たって疑ってもいないような前提条件をくどくどくどくど念を押す。その挙げ句に浮かび上がる犯人が本格ミステリの禁じ手のような条件を満たしていたり、トリックが一目瞭然では世話ないし、力を注ぐ場所を間違っている。
なんせ本格ミステリの中編集で、高速で3/4は読み飛ばしても全く支障が無い作品なんて初めて読んだかも知れない。他のミステリで文章が嫌になって読み飛ばしたことは多々あるがその時は普通に理解できず解決編で困ったのに、本作に関しては一切困らなかったほど無駄な描写が多すぎる。

たとえば指紋は無い、足跡に不審な点は無い、合鍵は無いなど、捜査の過程は最低限の描写で済ませればよいのだ。2018年の本格ミステリの読者は今さら指紋がハンコのような物で捺されていたり、足跡が逆向きに付けられていたり、こっそり合鍵を作れる余裕があったのではないかといちいち疑いはしない。ましてや本作はユーモアミステリである。厳密な捜査や推理の材料など誰も求めてはいない。2018年に雪の密室から後ろ歩きで帰ってたり合鍵をこっそり作ってたらそりゃ激怒するが、今さらそんなことはしないと我々は承知しているのだ。もっと読者を信用して欲しい。

また奇をてらったにしては探偵役のキャラも薄く、特殊設定ながらそこに連作短編集としての仕掛けがあるわけでもなく、登場シーンから何から何まで3話どころかエピローグまで同じ描写を繰り返すのもページの無駄。そもそもこの探偵役は必要なのか? 兄妹のどっちかで良かったのではないか?

近年の作者の個人的に駄目だと思う部分が凝縮されたような一冊だった。
個人的な好みは置いとくとしても、帯にあるような「今年度ベスト級」の作品などではないことは、他ならぬ作者が誰よりも承知しているだろうに。


18.10.12
評価:★ 2
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