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ミステリ感想-『殺人鬼がもう一人』若竹七海

2020年04月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
警視庁の流刑先と揶揄される、面倒な人材ばかりが集められた辛夷ヶ署。
ろくに犯罪も無かったはずの平和な町で次々と起こり始める事件に、三白眼の大女の巡査長・砂井三琴が関わる。

2019年このミス12位


~感想~
作者はここのところ毎年のようにこのミスランキングを賑わせているが、いずれも葉村晶シリーズで、第一作を持っていないので敬遠していた。去年ノンシリーズの本作がまたもランクインし、久々に読んだのだが、若竹七海とんでもなく面白くなっていた。

冒頭の「ゴブリンシャークの目」が白眉で、最強におわせミステリとでも呼ぶべきか、はっきりしたことはほとんど明記しないのに、におわせだけで読者には事件の全容が把握できる、異色の構成。
オーソドックスな一編もあるが、いずれも一筋縄では行かず、独自性が光る。
「黒い袖」も出色で、ある一つの事実を隠すことで、最後の一撃をこの上なく効果的にしている。
さらに「葬儀の裏で」はタイトル通り葬儀に集まった親戚がだべっているだけに見えた裏から、とんでもない真相が立ち上がってくる。傑作映画「ホット・ファズ」を思い出した。
書き下ろしの表題作も全編をまとめ上げるわけではないが、それまでの各編があってこそ成立する物語で、独特の世界観を補強。絶好調の作者がシリーズに頼らなくても力量を存分に発揮できると証明した、とんでもなく面白い短編集だった。


20.4.19
評価:★★★★☆ 9
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