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ミステリ感想-『文学少女対数学少女』陸秋槎

2021年01月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
校内誌で犯人当て小説を書く陸秋槎は、別解が無いか確かめるため、数学の天才と噂される韓采廬に意見を求める。こうして文学少女は数学少女と出会い、犯人当て小説をめぐって意見を戦わせる。


~感想~
タイトルからして麻耶雄嵩「貴族探偵対女探偵」のオマージュで、内容も短編4つの全てに作中作の犯人当てミステリがあり、それぞれ麻耶雄嵩作品の中でも極北の「メルカトルかく語りき」収録作を大いに意識したものという、本格ミステリ(というか麻耶)への深い(というか重い)愛を感じさせるものながら、それが面白いかどうかと言われれば全くもって面白くなかった。

もちろん意欲は買うし、各編で挑んでいる趣向の、本格ミステリ的な意義は高いと認めるし、どれも何か一つは目をみはるような発想もあるのだが、それが物語として、一冊の本としての面白さには全然つながらない。
まずシリーズ第一作目みたいな立ち位置の作品で「メルカトルかく語りき」のような極北の実験作めいたことをやってしまうそれ自体が無茶だし(なんせ本家メルカトル鮎でさえあれをやったのはシリーズ6作目である)、奇人キャラのはずのヒロイン韓采廬は2編目で自ら作中作を書いてしまうわあっさり人情の機微をつかむわ、皮肉は覚えるわ、彼氏っぽい男も出てくるわと成長が早すぎるのも問題。
「元年春之祭」や未読の「雪が白いとき、かつそのときに限り」に続き今回も百合が題材に採られ、百合的においしいサービスショットはふんだんにあるものの、そのくせ読者から見るとキャラのうっすい単なる脇役が急に横からしゃしゃり出て来て勝利の凱歌を上げるのも百合物としては意味不明だし、3編目でさも意味ありげに「家出してあまりにも悲惨な事件に巻き込まれた」と書いたくせに4編目で「そういえば家出もしたテヘペロ」と過去の出来事で済まされたりと、はっきり言ってわけがわからないよ。ヒロイン強奪するなら暁美ほむらくらいキャラ立ちしてからやって欲しいし、続編を匂わせるのも今ここでやるべきことではないはずだ。

総じてやりたいことを詰め込むために前のめりになりすぎて、読者置いてけぼりの話を終始見せられてしまった感が強い。
ひょっとするとシリーズとしてまとめず、百合もばっさり省いて、キャラも別々にしたノンシリーズ短編集として発表したほうがよほど楽しめたのではないかとさえ思える。
本格ミステリ愛と、意欲的な設定へ挑む勇気と、目の付け所の良さは誰しもが認めるはずだ。
タクト君ではないが、やりたいこととやるべきことが一致した時、世界の声が聞こえる日はいつか来るだろう。その日には見たこともない大傑作をものしてくれると期待するが、とりあえずそれが今回では無かったのは確かである。

…ただヒロインを陸秋槎と名付けたのには恐れ入った。有栖川有栖でさえ男だったのに、男性作家が堂々と自身と同名の女子高生をヒロインに据えて探偵役とキャッキャウフフさせるなんて、日本人作家はなんで先越されてるんだ! お前ら全員並べ! HENTAIの国の面目丸つぶれだろ反省しろ!!


21.1.14
評価:★★ 4
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