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ミステリ感想-『不穏な眠り』若竹七海

2021年02月18日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじ~
余命宣告を受けた女性から、出所する養女の出迎えを依頼された葉村晶。ところが彼女は何者かに追われていて…水沫隠れの日々
幽霊が出る廃ビルの警備の帰り、連絡の取れない恋人探しを依頼される。彼は親戚で気鋭の芸術家の企みに巻き込まれたようで…新春のラビリンス
スタンガンで気絶させられた葉村晶は、鉄道ミステリフェアの目玉の時刻表が盗難されたことに気づく…逃げだした時刻表
ご近所さんから原田宏香という故人の親しかった人物を探して欲しいとの依頼。ところが彼女はトラブルメーカーで、行く先々で物騒な目に遭い続ける…不穏な眠り

2020年このミス10位

~感想~
葉村晶シリーズ短編集。
有能だが不運な葉村晶がいつものごとくトラブルに巻き込まれ続けるおなじみの展開。シリーズ再開以来、毎回このミスランキングを賑わせているが、今回も納得の傑作揃い。長編をただ短編の分量に圧縮しただけのような、濃密な物語がずらりと並んだ。

冒頭の「水沫隠れの日々」からして衝撃のラストで度肝を抜かれる。これを短編で、しかも短編集の一編目で惜しげもなくやってのけるのだからすごい。
続く「新春のラビリンス」は過去作にいた友人の芸術家の亜種みたいなのが登場し面食らったが、舞台の怪談話もきっちり活かした手堅い構成。
「逃げだした時刻表」は背景と人間関係がごちゃごちゃしすぎたきらいはあるが、自身が被害者だけに(?)キレッキレの推理を見せる葉村晶が素敵。ただあんなことになったら店潰れるぞ。
表題作「不穏な眠り」はまさに長編に堪えうる話の短編化で、短いページ数でこれでもかと言わんばかりに災難に遭い、冒頭の「水沫隠れの日々」をも上回る事態が勃発し、そのうえに「新春のラビリンス」のような怪談・因縁のオチがつき、「逃げだした時刻表」のごとく入り組んだ構図の、一冊を総ざらいする内容で、これまたとんでもない。
このシリーズの短編集に期待する全てが詰まったといって過言ではない、贅沢な一冊だった。
今さらまとめて読んだ身でこんなことを言うのは恥ずかしいが、それでもあえて言わせてもらおう。
葉村晶シリーズは全ミステリファン必読でしょう!

なお辻真先の解説は主にプロット面でネタバレ三昧しているので、くれぐれもご注意の程を。


21.2.13
評価:★★★★ 8
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