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ミステリ感想-『真夜中の詩人』笹沢左保

2023年02月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
全国チェーン百貨店の御曹司である赤ん坊が誘拐された。犯人は身代金を要求せず、心配もいらないと不可解な電話を寄越したきり連絡を断つ。
それから2週間後、平凡な一般家庭を営む浜尾真紀の赤ん坊も同じ犯人に誘拐された。


~感想~
作者は後に「他殺岬」でも子供の誘拐を扱うが、そちらでは誘拐は主人公を調査に駆り立てる動機付けの一つで本筋ではないが、本作は誘拐事件の顛末一本に絞っており、しかも問われるのは「誘拐の動機は何か?」ほぼそれだけである。
しかしながら枚数は倍近い大長編であり、内容も我が子を誘拐された母が一般人の力の及ぶ範囲で地道に調査を進めて行くもので、どうあがいても地味になりそうなところだがそこは天下の笹沢左保。効果的に明かされる新情報により、だれる場面が全くないのだからすごい。
終わってみれば事件の構図は実にシンプルなもので、おそらく作例も他にあるものの、1972年出版ならばその元祖であるのだろう。誘拐ミステリの良作の一つとして数え上げるべき力作である。


23.2.2
評価:★★★☆ 7
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