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ミステリ感想-『64』横山秀夫

2023年04月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
刑事課から広報室へと2度目の異動となった警視の三上義信。匿名報道をめぐり記者と鞘当てを繰り広げるさなか、昭和64年に起こった未解決の幼児誘拐事件、通称「64」の遺族への長官視察の日程を組むよう命じられる。
さらに公安の二渡が「64」を探る影がちらつき、三上の家庭では娘の失踪も起こっており…。

2012年このミス・文春1位

~感想~
とんでもない傑作だった。
まず数ある警察小説でもめったに描かれることのない広報の日常が物珍しくも面白い。
三上には娘の失踪という家庭の問題があり、仕事でも記者への場当たり的な対応を求める上司との軋轢があり、刑事課に長くいたことで色眼鏡でも見られ、「64」をめぐる陰謀にも巻き込まれと課題が山積み。登場人物は多く、それぞれの立場で動く一方で裏には策謀が秘められ…と錯綜するが、広報室としての業務と戦いを本筋に据えたことで読者にも全容はギリギリの線で把握できる。
なんでも作者は雑誌連載で完結した後に、全面改稿で数千枚を捨てつつ一から書き直したそうで、煩雑の一歩手前で踏みとどまり、物語に重厚感を持たせた。
しかし横山秀夫といえば、どこまでも警察小説でありながら、どこまでも本格ミステリでもある作風が魅力であり、今回は陰謀と策謀メインか~面白いは面白いけどな~と本格ミステリ馬鹿は思ってしまうところだが、最後の最後で引っくり返った。道中で感じる小さな不満が全て消し飛び、本格ミステリ馬鹿もにっこり読み終えられること請け合いの、とんでもない結末が待ち受けてくれていたのだ。
刊行当時、二大ランキングを制したのも納得の、あの横山秀夫の代表作と言われて少しも異存のない大傑作である。


23.3.24
評価:★★★★★ 10
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