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ミステリ感想-『可燃物』米澤穂信

2024年01月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
県警捜査一課の警部の葛は慎重居士で、決して臆断をせず結論を急がない。
凶器なき殺人、交通事故、バラバラ殺人、ゴミ捨て場への放火、立て籠もり事件。
大小様々な事件に葛は平等に頭を悩ませ、裏の真相を暴き出す。

2023年このミス1位、文春1位、本ミス2位

~感想~
今や国民的作家になったか王手を掛けた作者の新シリーズ(?)短編集。
端正でそつない印象を受ける切れ味鋭い短編揃いで、孤立を恐れず証拠と閃きを重視し結論を急がない葛は典型的な名探偵タイプ。
葛の捜査にちなみ個々の短編にも読者が安易に飛びつきたくなる結論が見え隠れしており、特に「崖の下」の○○○や「命の恩」の○は非常にわかりやすい。
読者への挑戦こそないものの、葛と同様に頭を悩ませればたどり着ける可能性のあるちょうどいい難易度である。

一方で国民的作家の新作で各種ランキングを総なめ!と聞いてから読むと拍子抜けするのも確か。というかこの程度の作品ならば今の作者ならば鼻歌交じりにいくらでも量産できるはずで、問題はこれにあっさり1位を献上した投票者たちである。
だってこの程度の作品で1位を獲らせていたら、今後20年ずっと米澤穂信が1位を獲るに決まっている。
決して今年が不作だったわけではない。白井智之が画期的な方法で多重解決を仕掛けつつ超絶技巧の論理をめぐらせ、井上真偽が凝った設定で人間ドラマとミステリ的カタルシスを両立させ、永井紗耶子が時代小説の枠組みで本格ミステリを完成させたのに、米澤がいつでも作れるこの程度の作品に1位を獲らせていいわけあるだろうか?
同じことはこのミス2位、文春3位の京極夏彦にも言える。投票者諸氏よ。本当に白井智之や井上真偽や永井紗耶子より「可燃物」や「鵼の碑」の方が上だったか?
米澤に関しては、自分になんのしがらみも発言力もないから言ってしまうが、氏を襲った奇禍への同情票がなかったと投票者は本当に言い切れるのか?
念を押すが「可燃物」それ自体は面白い短編集である。だがこれが他の力作を押しのけてあっさり1位を獲りまくったと聞くと、もはや年間ランキングにどこまで価値があるのだろうと考えてしまう。


23.1.19
評価:★★★☆ 7
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