詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

林達夫「イタリア・ファシズムの教育政策」

2023-10-01 11:54:26 | 考える日記

林達夫「イタリア・ファシズムの教育政策」(林達夫著作集5)(平凡社、1982年3月23日、初版第12刷発行)

 林達夫「イタリア・ファシズムの教育政策」を読んでいて、次の文章に出会う。昔は気がつかなかった。読み落としていた。

 ファシスト教育はあらゆる手段を以て資本主義体制を防衛し、ブルジョアジーの階級的支配を確保することに重点を置いている(30ページ)

 ここでいう「ブルジョアジー」とはいわゆる「資本家」のことである。

 労働者階級の地位を徹底的に劣悪化することによって(賃金値下げ、労働時間延長、合理化強行)辛うじて命脈を保ってきたイタリア資本主義は、今日、深刻な経済恐慌の渦中にあって気息奄々としている。(35ページ)

 「イタリア資本主義」を「アベノミクス」に変えれば、日本の現状にぴったり合致する。
 いま岸田は、「賃上げ」によって方針転換をしているように装っているが、賃上げは物価高によって相殺される。そして、そのとき労働者に還元される金よりも、資本家が確保する金の方が「大きい」だろう。だから「賃上げ」はみかけにすぎず、労働者の生活は一向に改善しない。私のような年金生活者は物価高によって年金が目減りするだけである。

 ここからひるがえって(?)思うのだが。

 いま世界で進行しているのは、ファシズムである。アメリカ資本主義(アメリカの資本家)が資本を独占しようとする動きである。それを戦争で遂行しようとしている。
 私が念頭に置いているのは、ロシア・ウクライナ問題である。ロシアがウクライナに侵攻したことは、もちろん悪い。そして、最終的に、アメリカがベトナムやアフガニスタンから撤退したように、ロシアは撤退するだろうと思うが、これを、アメリカ資本主義(強欲資本家)から見つめなおせば、こういうことだろう。
 つまり、ロシアがウクライナに侵攻する前は、EUとロシアの経済関係はとてもよかった。EUとロシアは経済的に相互依存の関係にあった。言い直せば、アメリカの資本家はEUでの「利益」をロシアに奪われていた。それを取り戻す必要があった。ロシアの経済を「封じ込める」必要があった。そのためにウクライナを利用したということだろう。
 もちろん、こんなことをアメリカ資本主義(その傀儡のバイデン)が言うはずがない。ウクライナに侵攻したロシアが悪い、民主主義、法の支配を破壊する行為だという。そのほかのことを考えさせないために、懸命に宣伝している。マスコミが(マスコミもまた資本主義のブルジョアであるから)、一生懸命、その片棒を担いでいる。
 林達夫は自分のことばではなく、ムソリーニが「反ファシスト新聞」を禁止したときの、新聞『イムペロ』から次のことばを引用している。(パシュカーニスからの「孫引き」らしい。)

「何人も自分の頭を以て考える権利を有するというが如き愚かな空想は、今晩から絶滅されなければならぬ。イタリアは唯一の頭を有する。ファシズムは、唯一の頭を有する。それは『指導者』の頭であり、脳髄である。裏切り者のすべての頭は、容赦なく切り捨てなければならない。」(39ページ)

 「自分の頭で考える」人間は「裏切り者である」。ここでいう「裏切り者」のことを、日本の右翼は「反日」と呼んでいる。安倍-岸田の言うことを批判する人間は「反日」である。そういう「反日」の「すべての頭は、容赦なく切り捨てなければならない」。これが、いわゆるインターネットの世界で起きていることでもある。

 読みながら、林達夫が生きていたら、いまの日本の社会を見たなら、形をかえた「日本ファシズム」論を書いたかもしれないと思う。
 書かれていることが、あまりにもいまの日本(あるいは世界の動き)と重なる。
 だから、こんなけとも思う。
 日本では、見かけの「賃上げ」「物価上昇」(好景気)の影で、資本家の利潤だけが拡大し、さらにその利潤に労働者の視線が向かないようにするために、いわば誘導策戦として戦争がつぎつぎに引き起こされるだろう。ロシア・ウクライナのあとは、中国・台湾である。アメリカは、すでにロシア・ウクライナで十分な利益を上げたと判断したのか(あるいは、厭きたのか)、ウクライな支援予算について不満をもらし始めている。ヨーロッパのいくつかの国でもウクライナ支援を手控える動きが出ている。このことは、アメリカの視線が中国・台湾へと向かっていること、世界の視線を中国・台湾に向けさせようとしている動きといえるだろう。実際に「台湾有事」が起きるかどうかは別にして、危険だと大騒ぎすれば日本はアメリカの軍需産業から武器を買う。それだけでもアメリカの資本家は大喜びをするだろう。

 

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