石毛拓郎「母乳、余滴。」(「ココア共和国」2023年10月号)
石毛拓郎「母乳、余滴。」には長いサブタイトルがついている。それは省略する。
その終わりの方の部分。
いまは、大潮の赤帯のそよぎでざわめいている。
その気配で、馬鹿貝は赤い泡を吐き出して、跳ぶのだ。
跳びあがれないで、土左衛門になってしまうものは
海中の砂楼閣、貝塚をしつらえる。
貝を探す者の足裏に当たる、主人を失くした殻よ。
(土佐意識と観念は、このように何気なく隠れている)
この部分と、私がこれから引用する林達夫の文章とどういう関係があるのか、実は、私にもわからない。ただ、突然、思い出してしまったのだ。「ちぬらざる革命」という文章の中にある。(林達夫著作集5)
君は不服そうな顔をしているが、それは君の時代を見る目が、下らぬ新聞や雑誌の見出し(ヘッドライン)にしかくっついていない証拠だ。あとになって時代の顕著な動きと見られるものはその時代には明確には掴めず、つまり見出しにはなりにくいという鉄則に早く気づく必要があるね。
石毛は,新聞の見出しなど気にしない人間だ。自分の身の回りで起きていることを気にしている。たとえば、馬鹿貝の死。それが、では、私の(あるいは、いま起きている様々な)現実とどうつながっているのか、それを説明し始めたら、きっと、さらにわからなくなるだろう。なんでもそうだが、それが起きているとき、それを説明するには、とてもめんどうな手続きが必要なのだ。
たとえば、詩を書いて見せる、とか。
そんなものを読んだってわからない。それが、そして、とても問題であり、とても大事なのだ。
「無人境のコスモポリタン」には、林達夫は、こんなことを書いている。
政治はどこか遠い見知らぬ場所から出る得体の知れぬ指令で運営され、ただそれに黙従する以外に手はなく、自らの政治的社会的要求を政治に直接に反映させるなどは思いも及ばぬことになってしまっていたのです。
石毛は、この林達夫の文章を踏まえて書いてるわけではないだろうが、詩の最後は、こう閉じられている。
とげとげしい立入禁止の看板が、倒れている。
その殺風景の砂浜から、腹這いに眺めみる新世紀の渚に
前代未聞の「馬鹿」が出現することもある。
その及ぶ限りの澪の片隅に眠る、馬鹿貝の母乳は
ここ、鹿島灘にもあったし、伊勢湾先端の渥美半島にも
そうだ! あそこ、沖縄大浦湾辺野古にもあった。
すべてのことが、前代未聞のことさえ起こりうる
その、潮の満ち引きにうまれる母乳!
渚に…………。
新聞の見出しは鹿島灘、渥美半島、辺野古を結びつけない。しかし、石毛は結びつける。何によって? 馬鹿貝によって。もっとはっきり言えば、馬鹿によって。村上春樹は、ノーベル賞はもらわなくても新聞の見出しになるが、そんなふうに見出しにならずに死んでいく馬鹿がいる。その馬鹿に、石毛はなる。そのために、詩を書いている。
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