詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池田清子「レモンあい詩」ほか

2023-10-31 21:39:59 | 現代詩講座

池田清子「レモンあい詩」ほか(朝日カルチャーセンター、2023年10月16日)

  受講生の作品を中心に。

レモンあい詩  池田清子

セイロンティーに
レモンの輪切り

青い空に たくさんの
レモンの輪切り

紅茶の海に たくさんの
レモンの輪切り

刈ったばかりの田に 立てかけられてる
レモンの輪切り

緑の木々に 斜めにささった
レモンの輪切り

すずめ達と群れて 旋回している
レモンの輪切り

本当は
レモンティーより
ミルクティーより
ストレートティーが好き

檸檬 ではない

  「最後の一行だけ、漢字。作者のこだわりがあるのだが、どんなこだわりだろうか」「レモンの輪切りのバリエーション。イメージをふくらませた詩。漢字の檸檬は輪切りにそぐわない」「刈ったばかりの田に 立てかけられてる、が好き」「緑の木々に 斜めにささった、はイメージしにくいので好き」。
 タイトルについては、「あい、のひらがながいい。哀は、酸っぱさと哀しみ、愛だと直截すぎる」「レモンの輪切りに愛着を持っているから、愛かな、と思った」。
 この詩、試しに最終行から逆に読んでもらった。
 レモンの輪切り、とまず言って、それからそれにつながるイメージを展開する。拡がるイメージをレモンの輪切りという繰り返しで「脚韻」のように閉じ込めるよりも、イメージが開放的になるかもしれない。
 ただし、その場合、「檸檬 ではない」という最終行とその直前の四行のあつかいが難しくなるのだが。
 

九月の影  杉惠美子

彼岸花が野道を飾る
懐かしさと
不思議な鎮静が
道の向こうで待っている

哀しみがどこにあるか
わからないまま
九月が過ぎようとしている

日没がきても
パスワードが見つからない

 「鎮静ということばに象徴される同質なものが展開していく。パスワードの行は思いつかない。不思議ということばと呼応しているのか。答えを提示しないで終わる、その終わり方がいい」「二連目、わからないまますぎていくが九月っぽい。パスワードは何のパスワードかな?」「季節が過ぎていく不思議さ、そのわからなさのパスワードでは? 時を動かしていくものが何なのか。把握できないことの何かでは」
 作者は「パスワードがわからない、ということ。二連目のわからないを、言い直した」と語った。
 私は、この終わり方は、谷川俊太郎の書き方に似ていると感じた。ふいに、それまで書いていたものと違ったものがあらわれて、世界を別の次元につれていく。あるいは、別の次元をのぞかせる、というか……。
 この日、谷川俊太郎の次の詩も読んだ。

未完 谷川俊太郎

見慣れた庭を見ていたら
不意に胸がいっぱいになって
びっくりした
悲しいことなんかないのに
庭木の緑が朝陽に
輝いているだけだったのに

単気筒のバイクが出て行った
懐かしい排気音が耳から
心に反響して物語のかけらが
記憶の曇天に舞う
話は未完で終えたい
言い訳なしで

勅語とかいう巻物が
蔵われていた石造りの建物が
地面の下に埋められて
戦争は終わったが
言葉は朽ちない
アイウエオは意味なく生き延びる

意味を離れて言葉を
音で整理整頓した五十音図
小学校の国語教育は
そこから始まった
どんな聖賢の言葉も
どこかに幼児の喃語を秘めている

 この詩は、紙面の都合(約束の行数を書くため)に長くしたという印象がある。三連目以降は、非常に説明的な感じがする。そういう意味では、杉の書いた詩とは似ていないのだが。
 ただ、一連目は、杉の詩と共通するものをもっていると感じる。
 二連目までで終わった方が静かな印象の詩になったと思う。
 受講生からも不満の声が聞こえた。

砂に  青柳俊哉 

砂に頬をかざし 頬にみちてくる潮へ 
星の成分を溶かす無数の部屋へ
言葉を 時とわたしから自由な
心の葉をながしつづける 

海のまなざしが言葉の船を運んでくる 

最果てのこぎつねの歌 赤いばらの思い
入れ替わる夕日 わたしのうえを通過
する星 蜂蜜色の水車と昇天する蛇
見出された形見のブレスレット……

おなじ元素からうまれた心が
わたしをみている 空を覆して頭上で輝く
無数の星の部屋へわたしを船が運ぶ

 「三連目がわからない。一連目の心の葉は言葉と同じ意味かなと思って読んだ」「黙読したとききれいだなと思った。四連目が印象に残る。心の葉と、おなじ元素からうまれた心がつながる。三連目はことばが多すぎると感じた」
 作者は、「三連目は星の王子様からの連想」と語った。「星の王子様の作者は飛行機事故で死亡したが、地中海から彼の身につけいてたブレスレットが見つかった」という説明にくわえて、「イメージの重なりをつかんでもらえばいい」とも。
 三連目、イメージの展開は、体言止めで改行した方が、イメージの独立性が際立つような気がする。しかし、それでは「重なり」ではなくなると感じる人もいると思う。
 池田の「レモンあい詩」のとき、「レモンの輪切り」を頭韻のように提示して、そのあとイメージを広げると印象はどうかわるかということを試してみたが、書き終わった後、ことばの順序を変える、改行の位置を変えるということをやってみるのも、詩を考えるときのヒントになると思う。

 


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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(49)

2023-10-31 18:10:42 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「一九〇三年九月」。

あまたたび、ああ、あれほども、あのひとの近くに、

 「あ」の音が繰り返される。「あ」は「あのひと」の「あ」に向かって、まっすぐに動いていく。この繰り返される「あ」の声のなかに、いったい、いくつの「あ」の変化があるだろうか。
 「ああ」は、ことば(意味)を探している。「意味(ことば)」は見つからないが、感情があふれてくる。
 「あ」、その単純な音。口を大きく開き、喉を開き、いや、意思で口を開き、喉を開くのではない。感情が、開かせてしまうのだ。その感情に酔っている。その感情に酔いたくて「あ」を繰り返している。

 

 

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