詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

原田眞人監督「BAD LANDS バッド・ランズ」(★★)

2023-10-10 22:30:53 | 映画

原田眞人監督「BAD LANDS バッド・ランズ」(★★)(ユナイテッドシネマ・キャナルシティ、スクリーン3 、2023年10月10日)

監督 原田眞人 出演 安藤サクラ

 安藤サクラを見たくて行ったのだが。
 タイトルが出てくるまでの部分は、まあ、おもしろかった。詐欺グループも、捕まらないように工夫しているのか、スパイ映画みたいだな、と妙に感心した。
 しかし、それからあとがおもしろくない。
 いちばんの問題は、登場人物の、「詐欺」の仕事以外の部分がぜんぜんわからないことだ。安藤サクラの「過去」は、いちおう映画の中で語られるが、ほかの人物には「過去」がない。つまり、「役」を納得させる「存在感」がない。
 映画の中で、自分を見せるのではなく、単に「役」を演じて見せているだけ。映画にしろ、芝居にしろ、もちろん「役」も見るのだけれど、「役」を超える「人間の存在」そのものを見たい。
 全員が(安藤サクラでさえも)、「役」になりきっているだけ。言い換えると、これは人間が演じた「アニメ」である。
 それを典型的に語るのが安藤サクラの「過去」。なんというか、紋切り型。だいたい、彼女の過去にはセックスの問題があるのに、そのセックスは「過去」として語られるだけで、「いま」の肉体として動いていない。そんなものは、セックスではない。「書き割り」である。
 だいたい、この映画には「日常」が描かれていない。えっ、そんなことがあるのか、そんなことがきっかけで詐欺グループにのめりこんでいくのか、という説得力というか、もしかしたら私も詐欺グループの一員になったかもしれない、という不安を引き起こす魅力がない。
 最近、私は気づいたのだが、もう私くらいの年齢になると、「新しい」ものは「古い」もののなかにしか存在しない。つまり「古い」ものをもう一度見つめなおし、自分はどんなふうに生きてきたのか、残りの人生をどんなふうに生きていけば、「過去」が「未来」となって私を整えてくれるだろうか(死んでいけるだろうか)ということにしか関心がなくなる。
 別に特殊詐欺をして金を稼ぎたいとも思わないし、彼らがどんな行動をしているか知りたいとも思わない。
 そのことで、ふと思い出したのだが。
 私は、病気や怪我で何度か入院した。ある日、入院費の還付金があるという電話がかかってきた。傑作なのは、そのとき電話してきた男(銀行の従業員と名乗った)が、「私の方でもATM画面を見ています。残高がいくらと表示されているか言ってください。本人かどうか確認に必要です」というのだ。「そちらから確認できるなら、その金額を言ってください。そうしたら、あなたがほんとうにATMを遠隔操作で見ているかどうかわかりますから」と答えたら、「ばかだなあ、本人確認に必要だと言っているだろう」と言う。どっちがばかだか。だいたい、銀行の従業員が客に対して「ばか」とは絶対に言わない。私は、その瞬間笑い出してしまった。詐欺をやる人間は、やはり、どこかばかである。そういう、ばか、がどこかに描かれていれば、少しはまともな映画になったかもしれない。
 見るだけ損、とは言わないが、見るだけの価値がある映画とは思えない。安藤サクラを主演にする必要もない。

 

**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。

★ネット会議講座(skypeかgooglemeet使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする