原田眞人監督「BAD LANDS バッド・ランズ」(★★)(ユナイテッドシネマ・キャナルシティ、スクリーン3 、2023年10月10日)
監督 原田眞人 出演 安藤サクラ
安藤サクラを見たくて行ったのだが。
タイトルが出てくるまでの部分は、まあ、おもしろかった。詐欺グループも、捕まらないように工夫しているのか、スパイ映画みたいだな、と妙に感心した。
しかし、それからあとがおもしろくない。
いちばんの問題は、登場人物の、「詐欺」の仕事以外の部分がぜんぜんわからないことだ。安藤サクラの「過去」は、いちおう映画の中で語られるが、ほかの人物には「過去」がない。つまり、「役」を納得させる「存在感」がない。
映画の中で、自分を見せるのではなく、単に「役」を演じて見せているだけ。映画にしろ、芝居にしろ、もちろん「役」も見るのだけれど、「役」を超える「人間の存在」そのものを見たい。
全員が(安藤サクラでさえも)、「役」になりきっているだけ。言い換えると、これは人間が演じた「アニメ」である。
それを典型的に語るのが安藤サクラの「過去」。なんというか、紋切り型。だいたい、彼女の過去にはセックスの問題があるのに、そのセックスは「過去」として語られるだけで、「いま」の肉体として動いていない。そんなものは、セックスではない。「書き割り」である。
だいたい、この映画には「日常」が描かれていない。えっ、そんなことがあるのか、そんなことがきっかけで詐欺グループにのめりこんでいくのか、という説得力というか、もしかしたら私も詐欺グループの一員になったかもしれない、という不安を引き起こす魅力がない。
最近、私は気づいたのだが、もう私くらいの年齢になると、「新しい」ものは「古い」もののなかにしか存在しない。つまり「古い」ものをもう一度見つめなおし、自分はどんなふうに生きてきたのか、残りの人生をどんなふうに生きていけば、「過去」が「未来」となって私を整えてくれるだろうか(死んでいけるだろうか)ということにしか関心がなくなる。
別に特殊詐欺をして金を稼ぎたいとも思わないし、彼らがどんな行動をしているか知りたいとも思わない。
そのことで、ふと思い出したのだが。
私は、病気や怪我で何度か入院した。ある日、入院費の還付金があるという電話がかかってきた。傑作なのは、そのとき電話してきた男(銀行の従業員と名乗った)が、「私の方でもATM画面を見ています。残高がいくらと表示されているか言ってください。本人かどうか確認に必要です」というのだ。「そちらから確認できるなら、その金額を言ってください。そうしたら、あなたがほんとうにATMを遠隔操作で見ているかどうかわかりますから」と答えたら、「ばかだなあ、本人確認に必要だと言っているだろう」と言う。どっちがばかだか。だいたい、銀行の従業員が客に対して「ばか」とは絶対に言わない。私は、その瞬間笑い出してしまった。詐欺をやる人間は、やはり、どこかばかである。そういう、ばか、がどこかに描かれていれば、少しはまともな映画になったかもしれない。
見るだけ損、とは言わないが、見るだけの価値がある映画とは思えない。安藤サクラを主演にする必要もない。
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