谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(25)
(問いに)
問いに
答えはなく
いつもの
朝
棚の土偶の
古代の
ほほえみ
日常と
地続きの
朝の
永遠に
安んじて
不可知に
親しむ
*
「親しむ」は二連目の「ほほえみ」から始まっている。その「ほほえみ」が「古代」のものならば、「親しむ」という動詞も古代からのものだ。「問いに/答えはない」というのも「古代」から「地続き」の「永遠」だ。
*
(どこ?)
どこ?
と問えば
ここ
天の下
地の上で
命
一つ
いつ?
と問えば
いま
岩より若く
刻々に老いて
鬩ぎ合う
人と人
*
「岩」という漢字は「若」に似ている。「老」に似ているのは何だろう。石も砂も似ていない。「鬩ぐ」は門構えに「兒」。争うのは「若い」からではなく「幼い(児童)」だからか。幼・若・老。「命は一つ」。
*
(なんでもない)
なんでもない
なんでもないのだ
空も
人も
未来のせいで
思い出が消える
行けば海はあるのに
呪文は
魂の深みに
とぐろを巻く
穏やかに
過ぎるのがいい
時は
そして星々も
*
「魂」。「ソクラテスの弁明」のなかに「たましい (いのちそのもの) 」という表記がある。谷川がここで書いている「魂」は「いのちそのもの」と言いなおすことができるか。魂を実感できない私にはわからない。