谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(17)
(自然に帰依して)
自然に
帰依して
神を
忘れる
人智の
届かぬものを
名づけず
信じて
空は
宇宙へ
開き
草摘む手
泉に
触れる
*
草を摘む手が、そのとき草に触れるだけではなく、草の「内部」にある泉に触れると読んだ。谷川が「泉」と名づける前は存在しなかったひとつの「宇宙」である。「摘む」が「触れる」に変わる瞬間の驚き。
*
(自然に帰依せず)
自然に
帰依せず
ヒトは
不吉
言語に
溺れ
数字に
縋り
混沌に
意味
一閃
なお
未明に
夢魔
*
「溺れる」と「縋る」は「帰依」とどういう関係にあるか。「自然」と「混沌」はどういう関係か。「言語」「数字」が「意味」なら、「混沌」は「夢魔」か。私は「混沌」を「自然」と考える。無為の状態、と。
*
(昼と夜の)
昼と
夜の境に
立ち
闇を待つ
木立が
見えなくなる
人も
暗がりに
身じろぐ
言葉の
影
ひそやかに
何一つ
指さずに
*
「何一つ/指さず」という状態が「混沌」というものではないだろうか。それが、同時に「自然」。自足して、そこにある。何もせず、ただ「足りる」だけがある。ことばにした瞬間、失われてしまうが。