詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(101)

2024-04-25 23:41:53 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「ジャスミン」。

かわらぬ白さ。

 この一行を読んだとき、何か衝撃を受けた。「白さ」が、私の目のなかで、一瞬強くなった気がした。
 ギリシャ語のことは知らないが、この一行の思いがけない強烈さは、日本語ならではのものかもしれない。
 「白さ」は「白い」という形容詞の語幹に「さ」をつけることで、状態をあらわす名詞に変えたもの。日本語の形容詞は「用言」である。動詞と同じように活用がある。変化する。
 しかし、名詞は変化しない。名詞の白は白であり、変わることがない。
 形容詞の白いは「白かった」「白くなる」「白い」と変化する。「白さ」という状態は、変化する。形容詞派生だから、そこには変化が含まれているということなのか。(こういう論理でいいかどうかわからないが……。)
 その変わることを含んだことば「白さ」を「かわらぬ」ということばで否定するとき、「白い」という変化を含んだものが、変化を拒絶して、根源の輝きを投げかけてくる。そんな感じがした。
 「かわらぬ」という響き、表記も、何かそのことに影響している。
 「かわらない」では間延びする。「かわらぬ」という短い響き、強く重い響きがことばをひきしめる。「変わらぬ」では漢字をとおして「意味」が前面に出てくるが、「かわらぬ」の場合は文字から「意味」は出てこない。ひらがなの場合、「意味」は読み手が音のなかから引っ張りださないといけない。
 詩人の意識と、読者の意識が、その瞬間ぶつかり合う。その「衝撃」も「白さ」を輝かせるかもしれない。
 ギリシャ語も、その原文も知らないのに、こういうことを書くのは変かもしれないが、こうした短い「訳語」のなかにも、中井の鋭いことばへの感覚を感じる。

 もし、この一行が「白はかわらない」と訳されていたら、と想像してみれば、私の書いたことがわかってもらえるかもしれない。

 


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