詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

「学術会議」の基本的問題

2020-11-28 08:30:02 | 自民党憲法改正草案を読む
 「桜を見る会前夜祭」と「goto中止(コロナ感染拡大)」で書く人が少なくなったいまだからこそ、書いておきたい。

 「学術会議」を「国の特別機関」から切り離すという案がある。
 その意見の根幹にあるのが、国から予算が支出されているのだから、国(内閣)の方針に反対するのはおかしい、という意見である。つきつめていえば、国から金をもらうものは、国に反対してはいけない、ということになる。
 でも、これはおかしい。
 まず、国と内閣は違うということを理解していない。また国民のなかは、内閣(国)の政策に反対する人もいる。そういうひとも税金を納めており、その税金から予算が成り立っている。だから、内閣の方針に反対する人にも、税金は再分配されるべきである。
 いちばん簡単な例で言うと、国会議員には国の方針に賛成の「与党議員」と反対の「野党議員」がいる。国の方針に反対する議員に金を出す必要はない、切り離せ、ということになったらどうなるのか。
 いったん、菅が主張している「学術会議独立(実際は、分離、切り捨て)」を認めてしまうと、きっと、そうなるのである。
 もちろん、すぐに野党国会議員を排除する(当選を認めない)ということはおきないだろう。しかし、徐々に、そうなっていく。国会議員の排除は目立つが、学者の排除は国民には見えにくい。その見えにくいところから、「事件」はおきる。学者の次は、市民活動家がねらわれる。そのあと、国会議員が排除対象になる。そして「独裁」が完成する。

 しかし、アメリカやイギリスでは「学術会議」に類する組織は国から独立しているではないか、日本はどうして独立した組織になれないのか、という意見もある。
 これは、アメリカ、イギリスと日本の歴史が違うからだ。
 「憲法」から見ていけばいい。
 日本の憲法は、第二次世界大戦を引き起こしたのか日本の政府であるという認識の上に成り立っている。日本政府は暴走し、戦争を引き起こした「歴史」を持っている。政府に反対する国民を弾圧し、自由を奪い、国民を死に追いやる戦争を引き起こし、近隣諸国にも大きな被害をもたらした。そういう政府を二度とつくらないという決意のもとに日本の憲法は成り立っている。
 つまり、常に政府を監視するときのよりどころ(ついつでもだれでも国民は政府を批判できる根拠)として憲法がある。
 「学術会議」もおなじ。政府を監視し、批判する組織として、存在する。もちろん批判、監視だけではなく、さまざまな提言もするだろうが、そういう提言もまた「こうしなさい」というすすめであり、「監視」の一種である。政府の「手先」になって国民を説得するための「道具的組織」ではない。
 私の書いているようなことは、もちろん「学術会議法」には書いてはいない。しかし、同時に「学術会議」は内閣(国の方針)にしたがわなければならないとも書いてはない。学術会議法の3条には「日本学術会議は、独立して左の職務を行う」とある。「独立して」ということばが、明確に書かれている。「独立して」というのは自分の判断で、ということであり、他人の判断にあわせて、ではない。

 私は何度も書いているのだが、税金を納める国民の全員が内閣の方針(施策)に賛成しているわけではない。反対している国民のためにも、税金は再配分されるべきなのである。どんなに国に反対しようが、「反対者」を排除、除外してはいけない。どんな反対意見も、それを言う権利を「保障」するのというのが国のいちばんの仕事(責任)である。言い直さば、「倒閣運動」を保障するのが憲法である。
 私は他国の憲法を読んだことがないのではっきりとは言えないが、国(政府/行政機関)を批判してはいけない、革命を起こしてはいけない、ということを規定している憲法は、民主主義を掲げている国には存在しないだろう。
 いま、菅がやろうとしていることは、民主主義そのものの否定、破壊である。
 これは、コロナ感染が拡大しているさなか、「goto」を実施し、批判を浴びてやっと「中止/抑制」はしたものの、そのことに対して国民に具体的に説明をしない菅の態度に露骨にあらわれている。「マスクをしろ、手を洗え、三密はだめ」とは言うが、国は何をするのか説明しない。国がやっていることを、ただ黙って聞け、という態度にあらわれている。
 「桜」と「goto」に目を奪われて、「学術会議」を忘れてはいけない。みっつの問題の根っこはおなじである。権力が権力の利益のために、国民の税金をつかっている。「学術会議」の会員(候補)のなかには、そういうことに反対するひとがいる。だから、それを排除しようとしている。「学術会議」そのものを排除しようとしている。

 「桜を見る会」問題は、菅がリークしたという説もあるが、もし菅がリークしたのなら、それは「学術会議問題」から国民の目をそらすための「誘導作戦」といえるだろう。


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