■고양이를 부탁해 「子猫をお願い」 2001年 〇〇〇〇-
(281)
20歳前後のイ・ヨウォンが出演した映画。例によって、イ・ヨウォン
目当てで見た映画である。
△華僑姉妹の家に集まった仲良しの5人グループ
インチョン(仁川)の高校を出て2年目の、どこにでもいそうな若い
女性5人グループの生活や交流の日々を描いている。
△初々(ういうい)しいイ・ヨウォン
この中で、イ・ヨウォンは、唯一、親のコネでソウルの証券会社に
就職し、インチョンを離れた女性として登場する。
狭いアパートでの1人暮らしとは言え、ソウルでのOL暮らしは、言って
みれば「勝ち組」である。
しかし、いざ、職場での高卒OLの仕事と言えば、雑用ばかりで、日に
よっては支店長から10回以上もコーヒー入れを要求されるなど、決して
充実した生活を送っているわけではない。
△若き日のイ・ヨウォン(映画より)
他の登場人物は、実家の麦飯石(ばくはんせき)サウナ店を切り盛り
しているが、家族からは「遊んでいる」としか思われていない女性。
また、高架道路下の貧民街に年老いた祖父母といっしょに暮らす、
定職のない女性。好きなデザインで気を紛らせているが、家政婦の
仕事を始めた矢先、崩壊した家の下敷きになり祖父母が事故死して
しまう。肉親と住まいを一挙に失ってしまった彼女は、窮地に陥る。
△華僑の双子姉妹(映画より)
そして、韓国社会の中でマイノリティとして生きる華僑の双子姉妹。
中華街の片すみで、手作りのアクセサリーを売る商売を始めている。
無職の女性が拾ってから、OL、無職の女性、サウナ店の女性へと
たらい回しになっていた子猫を、最終的に引き取ることになったのが、
この双子の姉妹であった。
OLはソウル暮らしを続け、華僑姉妹は子猫といっしょにインチョンでの
暮らしを続けていく。
サウナ店の女性は2年分の労働の対価として家からまとまったお金を
こっそり持ち出し家出する。そして、家を失った女性をさそい飛行機で
どこかに旅立って行く(劇中の会話からワーキングホリデイビザで
オーストラリアに行った可能性が濃い)。
こうして、5人それぞれの不安定で不確かな明日を漠然と予感させ
ながら、映画は終わる。結末らしい結末もなければ、明確な明日も
ない。
感動とまでは行かないが、深い印象を残して終わる映画であった。
興行的には失敗に終わった映画だが、韓国社会を生きる女性の現実を
女性の視点から描いた作品として、映画祭などでは一定の評価を得た。
ちなみに、この映画で、イ・ヨウォンは青龍映画賞と百想芸術大賞で
新人女優賞を、サウナ店の女性を演じたペ・ドゥナは百想芸術大賞で
最優秀女優賞を受賞している。
(終わり)
■전설의 주먹 「フィスト・オブ・レジェンド」 2013年 〇〇〇--
(280)
2013年、170万を超える観客を動員した格闘技ドラマ(年間23位)。
イ・ヨウォン目当てで見た映画だったが、なかなか見ごたえのある
作品だった。
主人公は、その昔、ボクシングの国家代表になる実力があったにも
かかわらず、不公平な採点で代表の座を逃した過去を持つ中年男。
現在はうどん屋の主人。
その男が、有線テレビが放送する一般人参加による勝ち抜き格闘技戦
「フィスト・オブ・レジェンド/伝説の拳」(架空)に出場することになり、
繰り広げるヒューマンドラマ。
イ・ヨウォンは、番組のやり手プロデューサー役で出演していた。
(終わり)
■된장 「テンジャン(味噌)」 2010年 〇〇〇--
(279)
つい最近、ファンになったばかりのイ・ヨウォンが主演した映画。
味噌を題材にした異色のラブファンタジーだ。
逃亡中の犯罪者も逃げることを忘れてしまい、謎の病気で味覚と嗅覚を
失った人が再び感覚を取り戻すほど、香り豊かな奇跡の味噌チゲ
(韓国風鍋料理)。
その味噌チゲには、味噌職人の女性と梅花酒職人の男性との美しくも
はかない悲恋の物語りが隠されていた。
ちなみに梅花酒の職人は日本人だが、母親が韓国人で母方の実家の
仕事を継ぐため韓国に渡って来た。
次回のプサン訪問では、一度くらい、この映画とイ・ヨウォンを思い
浮かべながら、味噌チゲを食べてみるのも悪くはないだろう。
考えてみれば、「ヲタク」自身、韓国オタクを自称していながらも、
これまで味噌チゲをメインにした料理を一度も食べたことがない。
(終わり)
■그래,가족 「そう、家族」 2017年 〇〇〇--
(278)
家族の絆(きずな)をテーマにした映画が多いのも、韓国映画の特徴
なのかもしれない。
2017年に公開されたこの映画では、「容疑者X」で主役を演じた
イ・ヨウォンが、4人兄弟の長女(上に兄)として登場する。
△イ・ヨウォン(映画より)
彼女は、テレビ局に入社以来、10年の経験を持つ中堅アナウンサー。
年休も取らず、労組の活動とも距離を置きながら、コツコツと実績を
積んできた。しかし、約束されていたアメリカ特派員のポストを、
上層部にコネのある若い後輩(国会議員の娘)に奪われてしまう。
そんな折、借金の肩代わりをしてあげた田舎(慶尚道)の父親が事故で
亡くなり、末の弟が彼女の家に転がり込んでくる。
不公平な世の中に悶々(もんもん)としていた彼女が、ついには、
放送の民主化を求める労組のデモに合流し、兄弟の協力を得ながら、
天下り社長と政治家、財界との不正な関係を暴(あば)いていくことに
なる。
テレビ局をめぐる社会問題を背景に、疎遠だった4人兄弟が、家族の
絆を回復していく社会派コメディだ。
なお、4人兄弟の故郷は慶尚道の農村。
末の弟は、スクリーン慶尚道方言とでも呼びたくなるような、映画的に
デフォルメされた方言を駆使していた。
(終わり)
■용의자X 「容疑者X 天才数学者のアリバイ」 2012年 〇〇〇〇〇
(277)
2012年、150万を超える観客を動員したミステリー(年間23位)。
原作は、日本の東野圭吾の「容疑者Xの献身」。
1人の男が、命の恩人でもある愛する女性を守るため、自分の人生を
投げ出し、アリバイ作りをする。
実に切なくも見ごたえのある映画だった。
今回、「ヲタク」は、同じ原作を元に作られた日本映画も鑑賞し、
韓国版と見比べてみた。ただし、原作は読んでいない。
△某中国系動画共有サイトより
単純に2本の映画だけを見比べた「ヲタク」の率直な感想を書けば、
ガリレオ(探偵的な大学教授)が登場せず、人間の「情」により重きを
置いた韓国版の方が、より深いカタルシスを得ることができた。
△韓国版の主人公(이요원)
また、魅力的ではあるが幸薄い女性を演じた女優も、そんな彼女を
守ろうとした数学教師役の男優も、韓国版の方が、より自然に感情移入
できた。
△韓国版の主人公
さらに、ガリレオの登場しない韓国版で、真相を解明する刑事の役を
演じた男優も、なかなかよかった。
△刑事役の男優
그 병신같은 놈이, 비참해지지 말았으면 좋겠어요...
그게 제 진심입니다.
あのバカな男が、(あなたが自首することによって)惨めにならな
ければいいと思っています...。それが私の本心です。
男の高校時代の友人でもあった刑事は、男が逮捕された後、自首しよう
とする女性に対し、男からあずかった手紙を渡しながら、こう言って
気持ちをぶつけた。
暗に沈黙を守り通すよう求めたのだ。
事件を完全解決に導いた理知的なガリレオとは違い、韓国版の刑事は、
旧友と女性への「情」にほだされ、全て分った上で事件の真相に蓋を
する。
ラストシーンでも、女性が沈黙したまま、しかも、男との関係を
保ちながら、生きて行く可能性を匂わせていた。
そうなれば、日本版とは、かなり違った結末になる。
正直、「ヲタク」自身、真相が明らかにならないまま、「バカな男」の
献身的な愛が報われることを願ってしまった。
(終わり)
■7급공무원 「7級公務員」 2009年 〇〇〇--
(276)
2009年、400万を超える観客を動員したコメディ映画(年間3位)。
国家情報院(韓国の情報機関)の別部署に属する韓国外大出の若い
男女が、お互いの身分を隠したまま恋愛しつつ、同時に、韓国内で
発見された殺人ウィルスのロシアへの密輸事件を追うことになる。
最後は、2人で力を合わせ事件を未然に解決する、というスパイ・
コメディだ。
ロシア語や日本語まで登場する、国際色豊かで楽しい映画だった。
主人公の男はロシアに留学した経験もあり、流ちょうなロシア語を
操り、一方、主人公の女性は、都合の悪い電話がかかると、いきなり、
日本語で話し始め、場をごまかす「特技」を持っていた。
△密輸団の協力者のロシア人女性とロシア語で話す主人公(映画より)
大半のロシア語会話に字幕がついていなかったのは残念だが、それでも
「я не могу жить без тебя」(君なしで生きていけない)
など、一部のロシア語が理解できたことは、ロシア語学習者(初級)
として、小さな悦(よろこ)びであった。
なお、題名の「7級公務員」とは「中級職公務員」くらいに解釈すれば
よい(「9級公務員」は初級職、「5級公務員」は上級職)。
■검은집 「黒い家」 2007年 〇〇〇--
(275)
2007年、130万を超える観客を動員したホラー映画(年間20位)。
原作は、日本の貴志祐介の同名小説。
1人のサイコパス(異常人格)の女性が引き起こす、まさに背筋を
凍らせるような事件に巻き込まれた保険会社社員の物語。
■신의 한수 「神の一手」 2014年 -----
(274)
2014年、350万を超える観客を動員した映画(年間10位)。
闇の賭け囲碁をめぐり、兄を殺された上に兄殺しの濡れ衣まで
着せられた男が、刑務所内で碁と格闘術の鍛錬に励み、出所後、闇の
賭け囲碁組織に復讐する。
囲碁ノワール、とも呼べる異色の作品だが、「ヲタク」の趣向には
全く合わなかった。
(終わり)
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■미스터 고 「ミスターGO!」 2013年 〇〇〇--
(273)
2013年、130万を超える観客を動員した映画(年間26位)。
中国延辺朝鮮族自治州のサーカス団からスカウトされてきたゴリラが、
韓国のプロ野球で大活躍するスポーツ・ファンタジー映画だ。
最先端のCG(コンピューター・グラフィックス)技術を駆使した映画、
という宣伝文句に引かれ見ることにした。
実際、画面の背景に溶け込んだゴリラの動きや表情が実に自然で、
驚かされた。
ゴリラの調教師が延辺で韓国(朝鮮)語を覚えた中国人少女という
設定もあり、中国語はもちろん日本語まで飛び交う(ハングル字幕
付き)、国際色豊かな楽しい映画だった。
ただ、この映画で最も強く「ヲタク」の印象に残ったのは、大リーガーの
秋信守がゲスト出演した場面だった。
彼の韓国語は、プサン方言好きの「ヲタク」が、ゾクッとするほど
丸出しの、本物のプサン方言だった。
「ヲタク」の妻(プサン草梁洞出身)方の親戚の男たちの言葉が、
いきなり映画に出てきたのだから、「ヲタク」が皮膚感覚のレベルで
反応したのも無理はない。
秋信守が釜山高校(草梁洞)の出身であることは知っていたが、彼の
言葉をきちっと聞いたのは、この映画が初めてだった。
考えてみれば、いくら20億円を超える年俸をもらっている大リーガーで
あっても、彼はプサン生まれのプサン育ちだ。
その彼が、プサン庶民の話す言葉を話していたって、全く不思議な
話ではないし、むしろ、ごくごく自然なことなのだ。
あらためて、そんな当たり前のことを納得させられた映画であった。
△「オレの方がもっと丸出しの慶尚道方言を
使ってるんだよ!」
(終わり)
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■남한산성 「南漢山城」 2017年 〇〇〇--
(272)
2017年に公開された大型時代劇。380万を超える観客を動員した
ヒット作ではあるが、興行的には失敗したと見られている映画である
(年間10位)。
内容的には、朝鮮が清に屈服した「丙子の乱」(1636~37年)を
題材に描いている。
△清第2代皇帝ホンタイジ。劇中の満州語にはハングル字幕(映画より)
南漢山城での籠城や清軍への降伏を、漫画的な空想を極力排除して
描いている。
それでも、主戦派と降服派で厳しく対立した(と描かれた)重臣にしろ
王にしろ、自分の命が危機にさらされながらも、ひとえに国家と人民の
安寧を第一に考え行動していたかのように描く、「美しい」歴史物語の
展開には、少なからず違和感を覚えた。
△清の皇帝に三跪九叩頭礼(三跪九拝)する朝鮮王(映画より)
ちなみに、映画では、朝鮮王がホンタイジに三跪九叩頭礼(三跪九拝)
する「屈辱的」な場面も丁寧に描かれていた。
<※劇中では「삼배구고두례/三拝九叩頭礼」の用語が使用されていた>
このシーンを見た時、映画が制作者側の期待ほど大衆受け(ヒット)
しなかった原因の一端がわかった気がした。
■무뢰한 「無頼漢 渇いた罪」 2015年 〇〇〇--
(271)
殺人事件の捜査のため、容疑者の恋人が働くクラブに営業部長として
潜入する刑事。
しだいに惹かれあっていく男女の、破滅に向かう恋を描いたノワール
映画だ。
なかなか見ごたえのある映画だった。
(終わり)
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■내 아내의 모든 것 「私の妻のすべて」 2012年 〇〇---
(270)
2012年、450万を超える観客を動員したヒット作(年間6位)。
結婚7年目の男女が、離婚の危機を乗り越え、再びお互いに対する
愛情を回復させていく様を描いた、異色のラブコメディだ。
特におもしろい映画ではなかったが、「ヲタク」が着目したのは、
このカップルが出会い、愛を育んだ土地が日本だったという点だ。
2人は日本の名古屋に留学していた時代に出会い、愛情を育んだ。
女性は、「たとえ相手が韓国人でも、留学中は日本語しか話さない」と
いう決心をつらぬくチャーミングな努力家として描かれていた。
(終わり)
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■공모자들 「共謀者」 2012年 〇〇---
(269)
2012年、160万を超える観客を動員した映画(年間21位)。
黄海を往来する韓中フェリーを利用した闇の臓器摘出、売買をテーマに
したクライムサスペンスだ。
韓国語で言う「반전(反転)」、つまり「どんでん返し」が、終盤に
2回も組み込まれた複雑な展開に加え、最後に悪が勝利を収める、と
いう救いのない結末。
中国での現地ロケや「따이공」(代工)と呼ばれる韓中間の個人
貿易商など、緊密化する韓中関係を反映したシーンが随所に登場し、
退屈させない展開ではあったが、2度の「どんでん返し」には、さすがに
鼻白(はなじろ)んでしまった。
展開を頭で整理するのが精一杯で、立て続けに2度も足元をすくわれる
(だまされ裏切られた)感情が、物語の外に放り出されてしまうのだ。
△韓中フェリーとして登場したのは、なぜか日韓フェリー(映画より)
また、劇中、主人公らを乗せ黄海上を航行する韓中フェリーとして、
日韓フェリー(光陽-下関、2012年2月運休)が登場するシーンが
あった。
発見した「ヲタク」に陰気な喜びを与えてくれた貴重なシーンでは
あったが、こうした「手抜き」は、決してほめられたものではない。
(終わり)
■공정사회 「ある母の復讐」 2013年 〇〇〇--
(268)
子どもに対する性犯罪を告発する社会派映画なら何本か見たが、この
映画は、実話に大幅なフィクションを加えた復讐劇。
学校帰りの10歳の少女が「母親の知り合い」を名乗る男の車に乗せ
られ、男のアパートで性暴力を受けるという事件が発生する。被害
少女が心と体に生涯に及ぶ深刻な傷害を負ったにも関わらず、警察の
動きは鈍い。業を煮やした母親は、子どもの記憶(絵など)を元に、
40日間をかけ、自分の手で真犯人をつきとめる。
どうやら、ここまでは実話のようだ。
映画では、母親が「何でも屋」の協力を得ながら、世間体のため事件を
表沙汰にしないように動いた別居中の夫の歯科病院で、犯人の男を
診療椅子にくくり付け、歯を抜いたり歯の神経まで削り取るなどの
徹底的な血の報復を加え、命を奪う。
警察は、病院の監視カメラに残された記録を元に、夫と不倫相手の
若い女性事務員(実際は変装した「何でも屋」と母親)を逮捕する。
「ヲタク」も直視できなかった残酷な報復シーンを含む作品だが、
海外の映画祭では数々の賞を受賞している。
冷静に考えてみれば、最も残虐で罪深いのは、実際の犯罪行為なのだ。
■영화는 영화다 「映画は映画だ」 2008年 〇〇〇--
(267)
2008年、130万を超える観客を動員したノワール映画(年間18位)。
映画俳優の男と裏社会を生きる男の2人が主人公。
2人の男の人生が、偶然、交差することになり、お互いがお互いの
レゾンデトール(存在理由)を命がけで示すことになる。
あまり期待せずに見た映画だが、なかなか見ごたえのある映画で
あった。
(終わり)
■하울링 「凍える牙」 2012年 〇〇---
(266)
2012年、160万を超える観客を動員したサスペンス(年間16位)。
原作は日本の乃南アサの代表作である「凍える牙」。
優秀な警察犬訓練士だった男が、狼犬を使い、娘の復讐を成し遂げ
ようとする。
主人公の新米女刑事は、男社会の壁にぶつかりながらも、同僚刑事や
狼犬の助力を得ながら、連続殺人事件の全貌をあばいていく。
ただし、女刑事は、手柄を同僚の男刑事に奪われてしまうばかりか、
刑事の職まで失う(配置換え)、という理不尽な仕打ちを受ける。
△狼犬「질풍(疾風)」(映画より)
また、動物好きの単純な視点から見れば、暗殺と捜査の両面で、
人間から利用されるだけ利用され、最後に射殺されてしまう狼犬の
境遇は、あまりに哀れに過ぎる。
何ともやり切れない気持ちだけが残る映画だった。
(終わり)
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■김씨표류기 「彼とわたしの漂流日記」 2009年 〇〇〇〇〇
(265)
高利で何倍にも膨らんだ多額の借金を抱えた上に、ままならない
再就職。愛想をつかした彼女は彼の元を去って行った。
ある年の春、疲れ果てた男は、漢江に身を投げ自殺を図る。
ところが、奇跡的にも彼は生きたまま漢江の中州に流れ着いてしまう。
今度は高層ビルから身を投げようと街に帰ろうとするのだが、彼は
泳げない。中州で首を吊ろうにも、うまくいかない。
△観光用の白鳥ボートが彼が人生で初めて手に入れたマイホーム
こうして、思いもしなかった中州での自給自足の漂流生活が始まった。
観光用の白鳥ボートをねぐらに定める。火をおこす。魚を取り、鳥を
取り、まるで無人島生活を彷彿とさせる厳しいサバイバル生活。
そして、その彼の様子を対岸の高層アパートの一室から観察する
女性がいた。
△春の民間防衛訓練の日、彼女は彼を発見した
自室に引きこもって3年目になる彼女が、趣味の月撮影で使っている
望遠レンズ付きのカメラ(Sony α35)を使い、中州で自殺しようとして
いる彼を、偶然、発見してしまったのだ。
しばらくして彼女は、彼への好奇心が抑えられなくなり、勇気を出して
3年ぶりに外に出て、ワインの空き瓶に詰めた短い英文のメモを漢江の
橋から彼の住む中州に投げこんだ。
およそ3か月後の夏、瓶の中のメモに気づいた彼は、砂浜に返事を
書いた。
そうして始まった奇妙は文通は、絶望していた人間世界に2人が
再び関心を向けるきっかけになっていく。
しかし、ある秋の日、突然、その幸せな文通にも最後の日が訪れる。
河川管理事務所の職員らが無理やり彼を川岸へと連行する様子を見た
彼女は、居ても立っても居られなくなり、彼の元へと走り始める。
△部屋を飛び出し彼の元へと走る女
それはもう、完全に恋だった。
△秋の民間防衛訓練でバスが停車したため、彼に追いつくことができた
中州のホームレスと引きこもり女性の恋の物語は、すでに始まって
いたのだ。
おそらく、2人は、決して楽ではない未来を、お互いに支え合い
ながら生きていくことになるのだろう。
現実にはあり得ない話ではあるが、映画の中でくらいは、そんな夢の
ような恋があったっていい。
久しぶりに中高年「ヲタク」の胸を熱くさせてくれたラブストーリーで
あった。
・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・
ところで、この映画にも登場したチャジャン麺(韓国式ジャージャー麺)。
韓国の国民ヌードルだ。
中華料理店の奇特な配達夫が、10万ウォン(約1万円)で中州までの
配達を請け負った。
△中州まで配達されたチャジャン麺
結局、彼はこのチャジャン麺を受け取らず、彼女に送り返した。
「ヲタク」は「ヲタク」として、次回のプサン訪問では、何が何でも、
この韓国式中華料理を食べねばなるまい。
(終わり)
■목포는 항구다 「木浦は港だ」 2004年 〇〇〇〇-
(264)
木浦の任侠組織に麻薬捜査のために潜入した刑事の奮闘を軸に、友情や
恋を描いたコメディ映画。
主人公の刑事は、潜入先の組織の立て直しに貢献し、任侠の精神を
重んじる会長の意に反し麻薬を扱っていた腹黒な勢力を退治する。
そして、ついには刑事を辞め、会長とともに新しく自分の任侠組織を
立ち上げる。
おまけに、主人公の上司だった美形の女性検事は、会長に一目ぼれ
され、結ばれていく、というハチャメチャな展開。
それでも、「ヲタク」の笑いのツボを多角度的に突いてくる、まさに
「ヲタク」好みの作品だった。
また、この映画では、全羅道方言についてもいろいろと学べた。
例えば「야그(이야기)」や「성님(형님)」などの全羅道方言は、この
映画で初めて知った。
■이난영-목포는 항구다[1942]
なお、この映画の題名は、1942年に発表された古典的大衆歌謡の
曲名から取られている。
■플란다스의 개 「ほえる犬は噛まない」 2000年 〇〇〇--
(263)
主人公は大学の非常勤講師の男と、男の住むアパート団地の管理
事務所で働く女性事務員。
犬肉食や教授選考における付け届け問題(映画では学長に約150万円)
など、笑えない社会問題を絡めながら展開するブラックコメディだ。
男は、1匹の犬の命を自らの手で奪い、間接的に1匹の犬と1人の
飼い主(老婆)の命を奪いながら、人脈と妻の退職金(学長への
付け届けへ)のおかげで晴れて大学教授となる。
一方、アパート住民の相談に親身になって対応し、男の妻の飼い犬を
必死の思いで救い出した事務員は、「外に出過ぎる」という一方的な
理由で所長から首を切られてしまう。
何とも理不尽な結末で終わる映画だった。
(終わり)
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■악인은 살아 있다 「悪人は生きている」 2015年 〇〇〇--
(262)
韓国のノワール映画にも、しばしば悪女が登場する。しかし、この
映画に登場する女ほどの悪女はそうそういない。
女は、ある新興財閥企業の悪徳会長の愛人。会社では企画室長という
幹部ポストまで与えられ、会長の裏金の管理を一手にまかされている。
そんな女が、愛人生活に飽き足らず、自分と会長の関係を隠したまま
同世代の楽器店店長の男の心を奪い、結婚。一見、平凡な家庭を
手にする。
そして、会長との間にできた子を夫の子どもと信じ込ませ、何食わぬ
顔で二重生活を続けていた。
しかし、そんな二重生活も、ついには破綻する。
妻の隠された素顔を知ってしまった男が、衝撃のあまり正気を失い、
2人に対する壮絶な復讐に打って出たのだ。
音楽と家族を愛した男が、一転、残忍な悪人と化し、妻に制裁を加え、
妻の仇(かたき)を討つと見せかけて会長を殺す。
刑事は、知り過ぎた女が会長に口封じされたと思い込み、会長に復讐
した男に同情し、事件を闇に葬る。
■H 「H(エイチ)」 2002年 〇〇---
(261)
獄中の連続殺人鬼が、催眠術で外部の人間を操(あやつ)り、妊婦
ばかりをねらった猟奇的な殺人を継続する。
殺人鬼は、母親の人工中絶手術の失敗でこの世に生を受けた暗い
過去を持ち、精神に負った深い傷からサイコパス(異常人格者)へと
成長した人物だった。
殺人鬼の捜査で婚約者を失った1人の女性刑事が、事件の真相を
明らかにしていく。
題名の「H」とは、「Hypnosis(催眠術)」の頭文字。映画の最後で
紹介される。
それにしても、胎児の死骸まで描写する猟奇的なシーンには、思わず
目をそむけたくなった。
少なくとも、妊婦は見ない方がいい映画だ。
■해바라기 「ひまわり」 2006年 〇〇〇--
(260)
2006年、130万を超える観客を動員した作品。
10年の刑を終え、暴力と縁を切りまじめに生きようとする青年と
その青年を息子として受け入れた女性が、商店街の再開発をめぐる
どす黒い渦(うず)に巻き込まれて行く。
「ひまわり」という名の食堂を営んでいた女性が、立ち退きを
受け入れたにもかかわらず、命まで奪われてしまう。
再開発の推進者であり、彼女の命を奪った黒幕の男に対し、青年は
封印していた暴力の牙を向ける。
そして、自らの命を投げ出し、壮絶な復讐を成し遂げる。
(終わり)