セカンドシーズンの最終話だが、既にファイナルシーズンとして来年三作が出版されることが公表されているので、そのための伏線を張る、仮初の最終回という感じだった。
以下、どうしてもネタバレ部分も含む記述となるので、未読の人はご了解のほどを。
冒頭から、あー、そうきましたかぁ、という感じ。今回の語り部は貝木泥舟。
で、良くも悪くも、今回の話は、語り部が貝木であることが全て。
貝木がしょぼい中年探偵よろしく、依頼された事件を解決していく物語。
依頼主は、戦場ヶ原ひたぎ。
依頼内容は、神となった千石撫子を騙すこと。
要するに、『囮物語』で引き起こされた千石のヤンデレ神化を解決する物語。
それが、今回の縦糸
で、横糸になるのが貝木による彼の仲間、すなわち、臥煙、影縫、忍野、に関する情報が断片的に公開されていく。どうやら、ファイナルシーズンは彼らの話が中心になる。
で、こちらの側の縦糸が、忍野メメの失踪事件で、鍵を握るのは、セカンドシーズンで唐突かつ思わせぶりに登場してた、つまりは、あー、こいつ、裏できっと暗躍してんだろうなーと、と思わせてきた、忍野扇。
貝木によれば、忍野メメには身寄りがないということだから、とすると、扇は忍のように、メメが名前で縛り付けたかつての怪異、という可能性が高い。それが何かのきっかけで、怪異的力を取り戻し、一種の時空操作?のような、もしくは集団催眠のようなことをしでかしているように見える。
西尾維新は、メタネタが好きだから、この扇の介入に寄って、そもそもセカンドシーズンの構成が、時系列が前後して、途中虫食いになるような構成になった、ということなのかもしれない。
そして、この忍野メメ失踪事件については、今回、貝木によってその対怪異の潜在能力にどうやらお墨付きを得られた羽川が活躍してくれそうな気がする。
この忍野を巡る話がファイナルシーズンの縦糸で、横糸となるのが神原を巡る物語。正確には、神原の母方の血筋である臥煙の物語。
で、こちらは『猫物語(白)』で虫食い章になったままで結局セカンドシーズンでは語られなかった学習塾跡地炎上事件にまつわるもの。
ファイナルの流れ的には、まず、この部分からケリがつけられるのだろうな。『化物語』で、結局、ゴールデンウィークの羽川の物語が語られず、後日、『猫物語(黒)』として発表されたのと似たような流れ。
そして、ここでの中心人物は、もちろん、神原。
そこに、臥煙、阿良々木、忍、あたりが絡んできて、まずは、臥煙や忍野たちの昔話が明確にされていく。
で、その話の中から、今回の千石のヤンデレ蛇神化を持たらした御符の話も出てくるのだろう。
ということで、学習塾事件=臥煙を巡る物語を、セカンドとファイナルの繋ぎ、つまり扇の要にしたところは、うまいよね。
あとは、これらの話を通じて『鬼物語』で成仏して作中からは消失したことになってる八九寺が帰還できるのかどうか。それに、ファイアーシスターズの二人、とりわけ、怪異そのものである月火がどう絡むのか、が気になるところかな。そして、八九寺にしても月火にしても、阿良々木くんが躍起になることはまちがいなので、いわば、物語の転の部分として使われそうな気がする。
・・・と、ファイナルシーズンの予想みたいなことを書くところから始めてしまったけれど、それは、この「次回へ続く」の部分が『恋物語』では、一番面白いなと思わせられたところだから。
それを除くと、要するに、貝木が千石を更生させた話でしかないから。
もっというと、『囮物語』とあわせて千石ファンへのサービス回でしかなかったと思うから。それも、結構、西尾維新の皮肉交じりのサービス回。
貝木が見下すように作中で評定していたように、千石は可愛いだけで甘やかされた馬鹿の引きこもり。可愛いとちやほやされただけの存在。そう世間からラベリングされたのは千石の不幸といえば不幸なのだけど、それをいいことに千石自身はそこに逃げ込んだ。そして、阿良々木を好きという感情すら、極めて一方的に都合よく、いわば千石自身の精神的防波堤としてつくられたものでしかなかった・・・。
という具合に、いわば、千石から見れば、彼女と阿良々木しかいなくて、後は全てその他大勢としてしか認識されていない。で、その認識を貝木は最後に粉砕することで、千石を邪神への囚われ、というよりも「逃避」から解放したわけで。
これって、要するに、一種のセカイ系批判だよね。
千石目線のセカイ系的把握に対する。
このあたりの、現実逃避を挑発し、現実をちゃんと見ろ、という冷たい視点は、とても西尾維新っぽくて、こういうところは健在だなぁ、と思った。
ただ、そうした、徹底的な上から目線で千石を叱る役割は、さすがにたかが高3のガキにすぎない阿良々木(しかもセカンドシーズンでは幼児好きの変態志向が増した彼ではさすがにキャラ的にカバーできない大人役)では不可能なので、今回の、荒療治の担い手は、冴えない中年の、自称詐欺師の貝木だった、というわけ。探偵と言うよりは、むしろ教師役。しかも意外なまでにお節介。
もっとも、貝木目線の地の文を読んでいくと、貝木がある意味で、阿良々木が大人になったらこんな風になっていたのかも、と思わせるところもある。今回、貝木は戦場ヶ原の依頼で動いていて、その戦場ヶ原の貝木に対する発言の多くは、実は、貝木と阿良々木を比較したものであったことも、貝木を未来の阿良々木のように思わせる仕掛けなのかもしれない。
ということで、阿良々木と戦場ヶ原の殺害の危機を見事回避させ、その上、千石を更生させた貝木は、多分、本シリーズで一番の、大人のヒーローだった。いやー、貝木、すげーじゃん、と感心していたら、最後にちゃんと信賞必罰の部分もあって、そこも西尾維新らしい。もっとも、『花物語』で貝木はしっかり登場しているから、まぁ、きっと大丈夫なのだろうけど。
結局、『恋物語』で起こったことは、阿良々木の世界から千石を切り離したこと。単なる憧れは自己満足、自己欺瞞、もっといえばただのナルシシズムでしかないことを、千石の邪神化を通じて表した。
その一方で、戦場ヶ原の阿良々木への想いは、彼の生存を優先するところまで行き着いたもので、これはもはや「恋」ではなく「愛」の域だろう。互いが隠れた所で互いを慈しみあう存在として、阿良々木と戦場ヶ原を描いた。その描写をする上で、『化物語』の出発点であった戦場ヶ原の「蟹」の問題に関与し(蟹に関与しているのは、最初期なこともあって、忍野と阿良々木だけだから)、戦場ヶ原の心中を吐露させるだけの毒をもった存在として、今回、貝木が担ぎだされた、ということなのだろう。
その意味では、貝木は、本作では、十分、その大役を務めたことになる。
戦場ヶ原と千石の阿良々木にもつ想いの質の違いを明確にする役割は、詐欺という行為を通じて徹底的に人と関与せざるを得ない貝木だからこそできたことだろう。
そして、戦場ヶ原と千石の二人の本心を抉り出すために「嘘」という言葉の刃に訴えたところが、戯言遣いの話から作家生活を始めた西尾維新の面目躍如たるところだ。
うん、だから、『恋物語』は全然、千石の物語ではなく、文字通り、ひたぎエンド、の物語だったということ。そう見ると、この話は、とても納得が行くし、とても面白かった。戦場ヶ原の魅力を十全に引き出すには、貝木は最適だったわけで、このエンドのために貝木が用意されていたとするなら、西尾維新恐るべし、ってことになる。
ということで、ファイナルシーズンに向けて千石が阿良々木ワールドから退場し(あと八九寺の退場もあるけど)、あとは、基本的に怪異(持ち)ばかりとなった。阿良々木、忍、羽川、神原、月火、影縫、臥煙、斧乃木、という具合。戦場ヶ原と火憐が微妙だけど、戦場ヶ原は阿良々木と羽川を、火憐は阿良々木と月火を、それぞれ精神的にサポートするような役回りをしていくのだろうな、と思う。
と見ると、実は千石って今一つ怪異話には接点がなくて、放っておいたら登場機会がなかった。むしろ、蛇神話で彼女の退場を明らかにすることで、ファイナルシーズンはテンポよく物語を始めることができるように思える。その意味でも、千石の蛇神化は西尾維新からのファンサービスだったのだと思う。
実は、この先、ファイナルでまだ三作も出てくることには、実はちょっと疑問のところもあって。もちろん、阿良々木くんの物語がまだ読めるのは嬉しくもあるのだけど、そろそろ、この話はお開きにして欲しいところもある。その点で、セカンドシーズンの中で伏線を回収しきってくれなかったことには不満。一度キチンと閉めて、間をあけて、新ためて新章突入、という方がいいかな。むしろ、その方が、化物語自体に長いシリーズになるだろうから。
もっとも、こういう評され方を予見したからこそ、サードシーズンではなく、ファイナルシーズンと付けたのだろうな、とも。
ま、このファイナルもまたひっくり返される可能性はあるけれど。
さすがに、その時は、阿良々木、羽川、戦場ヶ原、神原、の四人が、臥煙、貝木、影縫、忍野、の四人のポジションを占めて、怪異の発生は新たな新キャラが受け持つことになるのだろうけど。
ともあれ、春先にでる、ノベルスの新刊ととも、ファイナルシーズン三部作を楽しみにしたいと思う。全編終わった時に、おおお!!!、と是非唸らせてくれることを、超期待!
以下、どうしてもネタバレ部分も含む記述となるので、未読の人はご了解のほどを。
冒頭から、あー、そうきましたかぁ、という感じ。今回の語り部は貝木泥舟。
で、良くも悪くも、今回の話は、語り部が貝木であることが全て。
貝木がしょぼい中年探偵よろしく、依頼された事件を解決していく物語。
依頼主は、戦場ヶ原ひたぎ。
依頼内容は、神となった千石撫子を騙すこと。
要するに、『囮物語』で引き起こされた千石のヤンデレ神化を解決する物語。
それが、今回の縦糸
で、横糸になるのが貝木による彼の仲間、すなわち、臥煙、影縫、忍野、に関する情報が断片的に公開されていく。どうやら、ファイナルシーズンは彼らの話が中心になる。
で、こちらの側の縦糸が、忍野メメの失踪事件で、鍵を握るのは、セカンドシーズンで唐突かつ思わせぶりに登場してた、つまりは、あー、こいつ、裏できっと暗躍してんだろうなーと、と思わせてきた、忍野扇。
貝木によれば、忍野メメには身寄りがないということだから、とすると、扇は忍のように、メメが名前で縛り付けたかつての怪異、という可能性が高い。それが何かのきっかけで、怪異的力を取り戻し、一種の時空操作?のような、もしくは集団催眠のようなことをしでかしているように見える。
西尾維新は、メタネタが好きだから、この扇の介入に寄って、そもそもセカンドシーズンの構成が、時系列が前後して、途中虫食いになるような構成になった、ということなのかもしれない。
そして、この忍野メメ失踪事件については、今回、貝木によってその対怪異の潜在能力にどうやらお墨付きを得られた羽川が活躍してくれそうな気がする。
この忍野を巡る話がファイナルシーズンの縦糸で、横糸となるのが神原を巡る物語。正確には、神原の母方の血筋である臥煙の物語。
で、こちらは『猫物語(白)』で虫食い章になったままで結局セカンドシーズンでは語られなかった学習塾跡地炎上事件にまつわるもの。
ファイナルの流れ的には、まず、この部分からケリがつけられるのだろうな。『化物語』で、結局、ゴールデンウィークの羽川の物語が語られず、後日、『猫物語(黒)』として発表されたのと似たような流れ。
そして、ここでの中心人物は、もちろん、神原。
そこに、臥煙、阿良々木、忍、あたりが絡んできて、まずは、臥煙や忍野たちの昔話が明確にされていく。
で、その話の中から、今回の千石のヤンデレ蛇神化を持たらした御符の話も出てくるのだろう。
ということで、学習塾事件=臥煙を巡る物語を、セカンドとファイナルの繋ぎ、つまり扇の要にしたところは、うまいよね。
あとは、これらの話を通じて『鬼物語』で成仏して作中からは消失したことになってる八九寺が帰還できるのかどうか。それに、ファイアーシスターズの二人、とりわけ、怪異そのものである月火がどう絡むのか、が気になるところかな。そして、八九寺にしても月火にしても、阿良々木くんが躍起になることはまちがいなので、いわば、物語の転の部分として使われそうな気がする。
・・・と、ファイナルシーズンの予想みたいなことを書くところから始めてしまったけれど、それは、この「次回へ続く」の部分が『恋物語』では、一番面白いなと思わせられたところだから。
それを除くと、要するに、貝木が千石を更生させた話でしかないから。
もっというと、『囮物語』とあわせて千石ファンへのサービス回でしかなかったと思うから。それも、結構、西尾維新の皮肉交じりのサービス回。
貝木が見下すように作中で評定していたように、千石は可愛いだけで甘やかされた馬鹿の引きこもり。可愛いとちやほやされただけの存在。そう世間からラベリングされたのは千石の不幸といえば不幸なのだけど、それをいいことに千石自身はそこに逃げ込んだ。そして、阿良々木を好きという感情すら、極めて一方的に都合よく、いわば千石自身の精神的防波堤としてつくられたものでしかなかった・・・。
という具合に、いわば、千石から見れば、彼女と阿良々木しかいなくて、後は全てその他大勢としてしか認識されていない。で、その認識を貝木は最後に粉砕することで、千石を邪神への囚われ、というよりも「逃避」から解放したわけで。
これって、要するに、一種のセカイ系批判だよね。
千石目線のセカイ系的把握に対する。
このあたりの、現実逃避を挑発し、現実をちゃんと見ろ、という冷たい視点は、とても西尾維新っぽくて、こういうところは健在だなぁ、と思った。
ただ、そうした、徹底的な上から目線で千石を叱る役割は、さすがにたかが高3のガキにすぎない阿良々木(しかもセカンドシーズンでは幼児好きの変態志向が増した彼ではさすがにキャラ的にカバーできない大人役)では不可能なので、今回の、荒療治の担い手は、冴えない中年の、自称詐欺師の貝木だった、というわけ。探偵と言うよりは、むしろ教師役。しかも意外なまでにお節介。
もっとも、貝木目線の地の文を読んでいくと、貝木がある意味で、阿良々木が大人になったらこんな風になっていたのかも、と思わせるところもある。今回、貝木は戦場ヶ原の依頼で動いていて、その戦場ヶ原の貝木に対する発言の多くは、実は、貝木と阿良々木を比較したものであったことも、貝木を未来の阿良々木のように思わせる仕掛けなのかもしれない。
ということで、阿良々木と戦場ヶ原の殺害の危機を見事回避させ、その上、千石を更生させた貝木は、多分、本シリーズで一番の、大人のヒーローだった。いやー、貝木、すげーじゃん、と感心していたら、最後にちゃんと信賞必罰の部分もあって、そこも西尾維新らしい。もっとも、『花物語』で貝木はしっかり登場しているから、まぁ、きっと大丈夫なのだろうけど。
結局、『恋物語』で起こったことは、阿良々木の世界から千石を切り離したこと。単なる憧れは自己満足、自己欺瞞、もっといえばただのナルシシズムでしかないことを、千石の邪神化を通じて表した。
その一方で、戦場ヶ原の阿良々木への想いは、彼の生存を優先するところまで行き着いたもので、これはもはや「恋」ではなく「愛」の域だろう。互いが隠れた所で互いを慈しみあう存在として、阿良々木と戦場ヶ原を描いた。その描写をする上で、『化物語』の出発点であった戦場ヶ原の「蟹」の問題に関与し(蟹に関与しているのは、最初期なこともあって、忍野と阿良々木だけだから)、戦場ヶ原の心中を吐露させるだけの毒をもった存在として、今回、貝木が担ぎだされた、ということなのだろう。
その意味では、貝木は、本作では、十分、その大役を務めたことになる。
戦場ヶ原と千石の阿良々木にもつ想いの質の違いを明確にする役割は、詐欺という行為を通じて徹底的に人と関与せざるを得ない貝木だからこそできたことだろう。
そして、戦場ヶ原と千石の二人の本心を抉り出すために「嘘」という言葉の刃に訴えたところが、戯言遣いの話から作家生活を始めた西尾維新の面目躍如たるところだ。
うん、だから、『恋物語』は全然、千石の物語ではなく、文字通り、ひたぎエンド、の物語だったということ。そう見ると、この話は、とても納得が行くし、とても面白かった。戦場ヶ原の魅力を十全に引き出すには、貝木は最適だったわけで、このエンドのために貝木が用意されていたとするなら、西尾維新恐るべし、ってことになる。
ということで、ファイナルシーズンに向けて千石が阿良々木ワールドから退場し(あと八九寺の退場もあるけど)、あとは、基本的に怪異(持ち)ばかりとなった。阿良々木、忍、羽川、神原、月火、影縫、臥煙、斧乃木、という具合。戦場ヶ原と火憐が微妙だけど、戦場ヶ原は阿良々木と羽川を、火憐は阿良々木と月火を、それぞれ精神的にサポートするような役回りをしていくのだろうな、と思う。
と見ると、実は千石って今一つ怪異話には接点がなくて、放っておいたら登場機会がなかった。むしろ、蛇神話で彼女の退場を明らかにすることで、ファイナルシーズンはテンポよく物語を始めることができるように思える。その意味でも、千石の蛇神化は西尾維新からのファンサービスだったのだと思う。
実は、この先、ファイナルでまだ三作も出てくることには、実はちょっと疑問のところもあって。もちろん、阿良々木くんの物語がまだ読めるのは嬉しくもあるのだけど、そろそろ、この話はお開きにして欲しいところもある。その点で、セカンドシーズンの中で伏線を回収しきってくれなかったことには不満。一度キチンと閉めて、間をあけて、新ためて新章突入、という方がいいかな。むしろ、その方が、化物語自体に長いシリーズになるだろうから。
もっとも、こういう評され方を予見したからこそ、サードシーズンではなく、ファイナルシーズンと付けたのだろうな、とも。
ま、このファイナルもまたひっくり返される可能性はあるけれど。
さすがに、その時は、阿良々木、羽川、戦場ヶ原、神原、の四人が、臥煙、貝木、影縫、忍野、の四人のポジションを占めて、怪異の発生は新たな新キャラが受け持つことになるのだろうけど。
ともあれ、春先にでる、ノベルスの新刊ととも、ファイナルシーズン三部作を楽しみにしたいと思う。全編終わった時に、おおお!!!、と是非唸らせてくれることを、超期待!