異形の悪王ザハク(もしくはザッハーク)の物語です。
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シャーナーメ 2.悪王ザハク
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■登場人物
メルダス:アラビア、デゼルタの王 Merdas
ザハク:メルダスの息子 Zahhak/ザッハーク
アーリマン:悪魔
シャーナーズとアルナヴァズ:イラン王ジャムシードの娘達 Shahrnāz, Arnavāz
ファリドゥン:イラン王家の血をひく戦士。Faridun/Fereydun/フェレイドゥン
ファラナク:ファリドゥンの母。夫はイラン王族のアブティン。
ビルマイヤ:ファリドゥンの乳母の聖なる牛
カヴェ:鍛冶屋 Kaveh
クンドロー:ザハクの宮殿の大臣
ディジュレ川(地名):チグリス川、アルヴァンド川
■概要
とても個性的な悪王ザハクの栄枯盛衰の話。
アラビア人に生まれイラン王位を簒奪しますが、イラン王家の血筋の戦士ファリドゥンに成敗されます。
常に自信満々の悪者、という訳ではなく、敵討ちを恐れて鬱々としています。最後、敵討ちの登場を告げる大臣クンドローとの会話、そして愛妾を奪われて嫉妬する部分がとても人間的で面白いと思いました。(クンドローがまた食えない奴・・・)。
(私は知りませんでしたが、キャラクターやプロットはゲームや漫画に使われているそうです)
シャー・タフマスプの写本ではページを繰るごとに(見開きごと)に1枚、計13枚もの挿絵がついています。
■ものがたり
アラビアの地に、ベドウィンの頭領が住んでいました。
公正で、高貴で、寛大で、高貴な彼はミルダスといいました。
彼にはとても愛する息子、ザハクがいました。ザハクは賢くまた勇敢でしたが、軽率なところがありました。
若いザハクに悪魔アーリマンが目をつけました。
口が達者なおべっか使いとしてザハクに近づき、自分の父親を殺し、彼の王国、財宝、軍隊を我が物にするようにそそのかします。
ザハクは父が毎朝祈る庭へ通じる小道に深い穴を掘りました。
メルダスはある朝そこに落ち、背骨を折って死んでしまいました。
こうしてザハクは王位に就きました。
その後、アーリマンは若く美しい青年に姿を変え、料理人としてザハクに仕えることになります。
それまで人々は野菜や果実、木の実を食べていましたが、アーリマンがさまざまな肉料理を発明し、ザハクを魅了します。
始めは卵料理、次にヤマウズラやキジ、三日目には子羊と家禽、四日目にはサフランとローズウォーターで風味をつけた仔牛の料理。
ザハクは大いに歓び、褒美に望むものを何でも与えよう、と言いました。
アーリマンは言いました。
「王よ、恐れ多いことです。願わくは貴方の両肩に口づけすることをお許し下さい」
ザハクの両肩に口づけするやいなや、彼の姿がかき消えました。
更に驚異が続きました。
ザハクの両肩から黒い蛇が生えてきたのです。
ザハクは驚愕し、何人もの医師やまじない師に相談しました。
そのうちのひとりの助言で、蛇を根元から切り落としてみましたが、蛇はまた生えてきました。どのような方法を試しても蛇を取り除くことはできません。
アーリマンが医師に姿を変えて三度ザハクに近づきました。
「この蛇は運命であり、生かしておくしかありません。
それぞれの蛇に、一日にひとつ、若者の脳を食べさせるのです。そうすれば蛇はおとなしくしているでしょう」
その頃イランでは国が乱れ、ジャムシード王は人々に見限られていました。
貴族や騎士たちは、アラビアに強大な蛇の王がいる、と知り、ザハクに忠誠を誓うことにしました。
ザハクは即座に王位につき、ジャムシード王は追放されました。
ジャムシードの二人の娘がザハクの前に連れてこられました。
美しい姉妹、シャーナーズとアルナヴァズは柳の葉のように震えています。
彼女たちは、黒魔術と死霊のまじないを教え込まれ、後宮に入ることになりました。
さて、ザハクの蛇には、毎日二人の若者の脳を食べさせなくてはいけません。
料理人たちは毎日二人を屠殺して脳を取り出し調理していましたが、料理人たちの肝臓は痛み、目は血の涙でいっぱいになり、心は怒りに満ちていました。
アルマイルとガルマイルという二人の男性はこの事態を憂い、料理を学び、ザハクの調理場に入り込みました。そして犠牲者のひとりを救い、代わりに羊の脳を使うことにしました。
毎月三十人が虐殺から救われ、その数が二百人に達したとき、羊や山羊とともに砂漠に送り出されました。このようにしてクルド人が生まれたのです。
世界に対するザハクの専制政治は何世紀にもわたって続き、世には悪徳がはびこりました。
ある夜、ザハクは 3 人の戦士に襲われる夢を見ました。
最も若い戦士は棍棒でザハクを倒し、剥がした皮で固く縛り、ダマーヴァンド山に引きずっていくのです。
ザハクは宮殿が揺れるほどの大声で叫び、目を覚ましました。
シャーナーズとアルナヴァズがかけつけます。
宮廷の屋上で護衛していた兵士たちも、後宮の女たちも、ザハクの叫びでみな目を覚ましました。
盾にもたれてまだ眠っている兵士もいますが・・・。
アルナヴァズの助言に従い、ザハクは彼の夢を解釈するために賢者と学者を召喚しました。
賢者たちは恐れのあまり三日間口をつぐんでいましたが、ザハクの怒りに負けてひとりが悪夢を読み解きました。その夢は、イラン王家の血をひくファリドゥンの手によるザハクの治世の終わりを示していると。
これを聞いたザハク王は気を失って王座から崩れ落ちました。
侍医が気付け薬を嗅がせ、従者は転げ落ちた王冠を持って駆け寄りました。
怒り狂ったザハクは、全てのイラン王族、特にファリドゥンを全国で捜索し、皆殺しにするよう兵士たちに命じました。
彼の心は安らぎを失い、食べることも眠ることもできず、その日々は暗黒に包まれました。
ファリドゥンの父親アブティンは、捕まって殺されてしまいましたが、妻と子供たちは逃げ延びました。
しかしついに兵士たちは、ファリドゥンが特別な牛ビルマイエ の乳で育てられている子どもであることを知ります。
彼らはビルマイエが草を食べている高地の牧草地までたどりつきました。
花咲く野原を、羊、山羊、牛が逃げ惑います。
ついにはザハクが聖なる牛ビルマイエを殺してしまいました。
しかしファリドゥンと彼の母親ファルナクはすでに彼らの前から逃げだしていました。
ザハクは次の数年間、ファリドゥンへの恐怖と不安の中で生きていました。
より強い権力、多くの軍勢が必要です。
そこで次のような内容の巻物をつくりました。
「我々の君主は善の種しか蒔かない、彼は常に真実を話し、何も間違いをおかさない」
各国の領主を呼び集めて会合をひらき、この巻物に署名させ、忠誠と、軍勢の提供を誓わせることにしました。
呼び出された領主たちは、自分たちの命を惜しみ皆これに署名しました。
ちょうどそのとき、宮殿の外で何者かが正義を求め叫ぶ声がしました。
ザハクはその人物を、領主たちの集まる宮殿の大広間に連れて来させます。
「誰が汝に不当なことをしたのか申してみよ」
「私はカヴェ、鍛冶屋でございます」
彼はそう言うと、握りしめた拳で頭を打ちました。
「私が非難するのはあなたです。あなたは7つの王国を支配しているにもかかわらず、なぜ私たちに苦しみと死の運命を与えるのでしょうか。
私には18人の息子がいましたが、いまはたった一人になってしまいました。
そして今朝、最後の一人も連れ去られてしまったのです。
みなあなたの蛇の犠牲になるのです。」
ザハクは最後の息子は解放させると約束し、その代わり、ザハクの徳を証言する巻物に署名させようとしました。
カヴァはその巻物と既に記された多数の署名を読み、居並ぶ長老たちに言いました。
「あなた方は悪魔の手に落ちています。あなた方はザハークを信じ、彼の幸せを願っているようですが、私は決して署名しない」。
彼は怒りに震えながら、巻物を二つに裂き、自分の足元に投げ捨てました。
ザハクは呑まれたように、立ち去る鍛冶屋を見送りました。
カヴェが法廷を出ると、群衆が彼の周りに集まってきました。
彼は正義を叫び続け、革製の鍛冶屋の前掛けを槍に刺して旗印とし、群衆とともにファリドゥンの居場所に向かいました。
ファリドゥンの陣営ではカヴェたちを歓迎しました。
彼が掲げた革の前掛けは幸運の兆しであると思い、この前掛けに西方の豪華な錦を施し、金地に宝石を散りばめ、紅、黄、紫で房飾りをつけ、矛の先には月のような立派な球を置きました。これをカビアーニの旗と呼び、この時から権力を握って王冠を頭に載せる者は、その鍛冶屋の革製前掛けに新しい宝石を付けていくようになりました。
ファリドゥンはザハクを倒すための旅立ちの準備を始めました。
彼にはキヤヌシュとバルマエという二人の兄がいました。
「勇敢な仲間たちよ、王冠は我々の元に戻ってくるでしょう。
腕の良い鍛冶屋を連れて来て下さい。巨大な棍棒を作らせます」
と言いました。
鍛冶屋は、ファリドゥンが砂の上に描いたとおり、牛の頭の形をした、輝く重い棍棒を鍛え上げました。
吉兆の星の日、ファリドゥンと兄たち、そして軍勢は、何頭もの象や牛に物資を積み、アラビア馬にまたがって出発しました。
彼らはアルヴァンド川(アラビア語で「デジュレ」、チグリス川)に辿り着き、渡し守に、川を渡って軍を運ぶための舟が必要だと告げました。
しかし渡し守は何の船も寄越さず、ファリドゥンとも話をしません。
「世界の王が、許可証を持たないものは、この川を蚊一匹たりとも渡してはならないと告げたのです」と。
この返答に激怒したファリドゥンは、川の深さにもめげず、勇敢な馬ゴルランにまたがり、水の中に突入させました。
家来達も、馬を川に進ませ、水は馬の鞍の上まで上がってきました。
王子とその軍隊は向こう岸にたどり着き、パフラヴィー語で「Gang Dezh Hukht」と呼ばれるエルサレムに向かって進みました。ザハクはここに、星に届きそうなほど高い城壁を持つ宮殿を建てたのです。
ファリドゥンは、魔術師やディヴをやっつけ、偶像を破壊し、宮廷を占拠しました。
後宮の女たちは偶像崇拝を強制されていましたが、正しい道を教え、偶像礼拝をやめさせました。
シャーナーズとアルナヴァズもまた助け出されました。
そして、「彼はインドに行って、そこで罪のない人々を千人単位で殺戮しています」とファリドゥンに伝えました。
「彼は運命を恐れるあまり、男や女、獣や野獣を殺し、その血を桶に混ぜ、そこで頭と体を洗えば占師達の予言を回避できるかも知れないと信じています。それでも肩から生えた蛇に苦しめられ、国から国へ逃げてもこの苦しみは止むことがありません。しかし、どこにも長くはいられないので、もうすぐ彼は帰ってくるでしょう」
ザハクが不在の間、クンドローという大臣が宮殿の城代を勤めていました。
騒乱が静まったのを見計らってクンドローが謁見の間に入っていくと、新月に戴く糸杉のような美男子が王座につき、その片側にシャーナーズ、もう片側にアルナヴァズが座っていました。 クンドローは何の感情も見せず、質問もせず、謙虚に前に出て礼をしました。
「王よ、あなたは永遠に生きることができますように。あなたから輝くファール(君主の格を示すオーラ的なもの)は、あなたが主権を持つに値することを宣言しています。七つの国があなたの奴隷となり、あなたの頭が雲の上に上がりますように」。
ファリドゥンは彼を王座に近づけさせ、「酒、そして詩人と楽師を連れてきて私の幸運にふさわしい祝宴を開かせよ」と命じました。
クンドローは命じられたとおりにし、ファリドゥンと貴族、楽師たちは夜を徹して祝宴に興じました。
しかし、夜が明けるとクンドローはその場を離れて馬に乗り、ザハクのもとに向かいました。
「誇り高き王よ、あなたの運命の陰る日が来ました。三人の武士が軍隊を率いて攻めてきました。一番若いものは、糸杉のようにすらりとして、顔には王者の輝きがあます。彼は山のかけらのような槌を持ち、あなたの偶像を破壊し、廷臣、ディヴも殺して城壁から投げ捨て、あなたの玉座につきました。」
ザハクは虚ろな顔をして言いました。
「問題ない、彼は私の客人だ。何事も起こっていないのだ。」
クンドローは続けて言います。
「一体どのような客が牛の頭の棍棒を振りかざしてやってくるというのでしょうか? そして王座に就いて王冠と王帯から名前を消し、民を自分の信仰に改宗させるのでしょうか?」
ザハクは苦し気に応えました。
「たわごとで私を煩わせないでくれ。 要求の多い客は縁起のいいものだというではないか。」
クンドローはまた言いました。
「この男があなたの客人なら、あなたのハーレムに何の用があるのでしょうか?
彼は玉座に座り、ジャムシードの姉妹を両隣に置いて語り合っています。一方の手はシャーナーズの頬を撫で、もう一方の手はアルナヴァズの紅玉髄の唇を玩んでいるのです。そして夜の帳が下りると、麝香の上に寝るのです。麝香とは、あなたが寵愛した二人の女性の髪のことです。」
この言葉を聞いたザハクは惨めな運命を呪い、獣のように咆哮しました。
「お前はもはやわしの城代ではない。解任する!」
クンドローは答えていいました。
「恐れながら陛下、陛下はもう二度と玉座にお着きになることはないと思います。ですからわたくしを城代にすることも、やめさせることもできません。むしろ自分の身を守るために行動なさっては如何でしょうか」
激高したザハクは、自分の軍を率いて宮殿に向かいました。
宮殿の城門や屋根に飛びついて城に入ろうとしましたが、ファリドゥンの軍が激しく攻撃してきます。更に、町の住民は皆ザハクを憎んでいたため、戦えるものは皆、それに加勢しました。黒雲から降る雨あられのように城壁や屋根から煉瓦や石が降り注ぎ、狭い路地には剣や矢が入り乱れました。
鉄の鎧兜で身を固めたザハクは、ひとりこっそりと、60キュビト(26m)の長い鈎縄を使って城の屋根に上ることができました。
その場所からは、美しいシャーナーズーその頬は昼のように明るく、髪は夜のように黒いーがファリドゥンにしなだれかかり、ザハクへの罵りを口にしているのが見えました。
彼はその時、もはや自分の運命から逃れることはできないことを知りました。嫉妬の炎が彼の心に燃え上がり、王位も命の危険も忘れて、搦手を使って宮殿に降り立ちました。
彼は名乗りも上げず、シャーナーズの血を流そうと、光り輝く短剣を引き抜いたのです。
ザハクの足が地に着いたとき、ファリドゥンは風のように飛び出し、牛頭の棍棒をザハクの頭に打ちつけ、兜は粉々に砕けました。
もう一度振りかぶろうとしたその時、天使ソルシュが現れました。
ソルシュはファリドゥンに、今殺さずに、山に連れて行って幽閉するように言いました。
縛られたザハクは無念にも荷馬車用の駄馬の背に乗せられ、ダマーヴァンド山に連れて行かれました。
馬たちは山のふもとにおいておきました。そこは澄んだ小川が流れ花の咲く美しい場所でした。
ファリドゥンと縛られたザハク、兵士たちはダマ―ヴァンド山を登っていきました。
山は上るにつれ次第に険しくなっていきます。
ついにザハクは、鎖をかけられ、果てのないような暗い洞穴に閉じ込められました。
胴体には、臓器を避けて重い釘が打たれ、血で地面を染めながら、長い長い間苦しみながら放置されたのです。
■シャー・タフマスプ本の細密画
サムネイル | ページ番号 | 画のタイトル※ | タイトル和訳 | 所蔵館と請求番号 | 画像リンク先 | 備考 |
25 VERSO | The death of King Mirdas | ミルダス王の死 | The Khalili Collections, MSS 1030, folio 25 | ● | 『私の名は紅』(藤原書店)p579-580 | |
26 VERSO | The snakes of King Zahhak | ザハク王のヘビ | Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran | ● | ||
27 VERSO | Zahhak receives the daughters of Jamshid | ジャムシドの娘たちを迎えるザハク | The Khalili Collections, MSS 1030, folio 27 | ● | ||
28 VERSO | The nightmare of Zahhak | ザハクの悪夢 | The Museum of Islamic Art, Doha, Qatar, MS.41 | ● | 本のp.101 | |
29 VERSO | Zahhak is told his fate | ザハク、自分の運命を知らされる | MET, 1970.301.4 | ● | p.105 | |
30 VERSO | Zahhak slays Birmayeh | ザハク、ファリドゥンの乳母の牛ビルマイヤを殺す | The Khalili Collections, MSS 1030, folio 30 | ● | ||
31 VERSO | Kaveh tears Zahhak's scroll | 鍛冶屋カヴェはザハクの巻物を引き裂く | Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran | ● | ||
32 VERSO | Faridun orders the ox-head mace | ファリドゥンは牛の頭の棍棒を注文する | 個人蔵 | ● | ||
33 VERSO | Faridun crosses the river Dijleh | ファリドゥン、ディジュレ川を渡る | The Museum of Islamic Art, Doha, Qatar, MS.40.2007 | ● | 『私の名は紅』(藤原書店)p482 | |
非公開 | 34 VERSO | Faridun enthroned in the palace of Zahhak as Kundrow blunders in | ザハクの宮殿に祀られるファリドゥン、クンドローが迷い込んでくる。 | Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran | 非公開 | |
35 RECTO | The feast of Faridun and Kundrow | ファリドゥンとクンドローの祝宴 | Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran | ● | ||
36 VERSO | Faridun strikes down Zahhak(with the ox-headed mace) | ファリドゥン、(牛頭の棍棒で)ザハクを打ちのめす | Freer Gallery of Art, F1996.2 | ● | p.113 | |
37 VERSO | The death of Zahhak | ザハクの死 | Aga Khan Museum, AKM155 | ●/● | p.117 |
※画のタイトルは”A King's Book of Kings: The Shah-nameh of Shah Tahmasp" (Stuart Cary Welch) による
※画像リンク先は、基本的には所蔵館サイト。より高画質のものが別にあるばあいはそちらとした
■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)
●f25 VERSO ミルダス王の死
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
左側三分の二が庭で、草や木に沢山の花が咲き乱れていて綺麗・・。
そこに穴があって、文字の帯をはさんで穴の中の断面図、という構図もすごくうまい気がします。
右三分の一は、庭とは対照的な、緻密なタイル模様(これはヘラート風?)の建物。
空は青色。真昼などは金色で表現されたりするけれど、これは朝か夕方の意味なのかな?
穴を覗き込んでいるのが殺人犯ザハクかと思っていましたが、建物の二階の窓から見える人物の方が服が金がつかってあって豪華なので、こちらがザハクかも?? (穴を覗き込んでいるのはミルダス王の従者?)
●f26 VERSO ザハク王のヘビ
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
ザハク周囲の建築物の装飾が豪華!
幾何学模様タイルだけではなく、天使が一対描かれています。
幾人かは口にひとさし指をあてて、驚きを表現しています。
ザハクの左側の青い服の若者が全く驚いていないようなので、これがアーリマンではないかと思いました。
画面右側の、川にかがみこんでいる髭のおじさんと、その背後の赤い服の若者は、いったい何をしているのでしょうか。
同一画面に別の時点の同じ人物を描いてしまう絵巻物みたいに、これが別の時点のザハクとアーリマンの様子かしらとも思いましたが・・・。
空は金色。
●f27 VERSO ジャムシドの娘たちを迎えるザハク
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
美人姉妹は、最初ザハクのいる段の手前側の低くなっているところにいる人物のどれか、かと思っていましたが、よく見ると女性二人という人物像はないです。
なのでザハクと同じ高い位置の左端にいるこのふたりが姉妹ではないかと思いました。
ザハク周辺の建築物は、f26vと同様豪華。こちらでは、垂れ布的な装飾もみられます。
空は金色。
●f28 VERSO ザハクの悪夢
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
この絵ではザハクは白髪、白髭になっています。
驚く兵士達や後宮の女たち、数人の眠りこける衛兵など、いろいろな人物が登場して、見ていて楽しい絵です。
夜のシーンで、渡り廊下の上の部分に、藍色の夜空と雲、三日月が見えますが、他は、宮殿が枠からはみ出して描かれていることもあって夜空はなし。
枠がほとんど分からないくらい、上も右もはみ出しているので、チマチマした感じがなくて、ゆったりして見ごたえがある作品です。
●f29 VERSO ザハク、自分の運命を知らされる
スルタン・ムハンマドによるもの。
おそらくタフマスプ公の側近としてタブリーズにやってきたティムール朝の巨匠ビフザドの影響を強く感じさせる絵である。
空間内に論理的に配置された建築物や人物、細かな筆致で描かれた小さな人物、自然主義的な人物描写、抑制された色調など、ヘラートの巨匠に勝とうとするタブリーズの才気あふれる画家の作品である。
右側の曲がりくねったバラの木やカタツムリのような雲は、タブリーズで実践されていたトルクメンの絵画に由来している。
塀の上の人物(右)は、23v「タフムラスはディヴを破る」に見られるような土俗的なユーモアと写実性をもって描かれている。このような明らかな指摘がなければ、この絵はビフザド自身によるものと思えたかもしれない。
〇Fujikaメモ:画像の解像度のせいかもしれませんが、f28vより、ちょっとぼやけた、暗い印象の絵です。
この場面での主人公ザハクは、ずいぶん小さく描かれていて(まあ、ほかの人物と同じ大きさな訳ですが)、なんだか普通の弱々しい老人に見えてしまいます。
あと、よく見ると、玉座の間の壁はf36vと同様白いです。豪華な玉座をわかりやすくするためかな。
●f30 VERSO ザハク、ファリドゥンの乳母の牛ビルマイヤを殺す
同じくスルタン・ムハンマド作のこの細密画には、彼の最も美しい樹木のひとつである、優雅に尖った葉と、龍のように勢いよく伸びる白い枝を持つ、とりわけ詩的なプラタナスが描かれている。
〇Fujikaメモ:
画面の大半が、花の咲き乱れる野原で、なんとなく柔らかい雰囲気で、好きな絵のひとつです。
(動物たちの殺戮がなかったらもっといいのに・・・)
空は金色。
緑の草地の中にある濃いグレーは、もとは銀色で表現された小川でした。さぞかしきれいだったと思います。
●f31 VERSO Kaveh tears Zahhak's scroll 鍛冶屋カヴェはザハクの巻物を引き裂く
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
いろいろ検索してみましたが、とてもけばけばしい色に画像加工されたものしかネット上ではみつかりませんでした(黄色が強いような)。本物はどんな色なのかな・・・。
鍛冶屋カヴェが巻物を引きちぎるシーンですが、ザハクと領主たち、家臣たち、ディヴたち、空にはソルシュ達、と訳がわからない位大勢登場しています。
花をつけた草木、テントや絨毯のアラベスク模様もとても豪華。
よく見ると、右下にいる人たちは、大鍋のピラフ?を大きなシャモジで平たいお盆に盛り付けているのでしょうか。
●f32 VERSO Faridun orders the ox-head mace ファリドゥンは牛の頭の棍棒を注文する
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
これは、写真うつりのせいかもしれませんが、地味めに見えてしまいます。もっといい画像で見てみたいな・・・。
空は金色なので昼のシーン。
テントの中は、ファリドゥンと兄達だと思います。
手前には、小川と草花。テントと小川の位置関係は遠近法的にはちょっとアレですが、テントを張る縄は、人物にかぶさっているにもかかわらず、本数も省略せず写実的に描かれていますね。
●f33 VERSO Faridun crosses the river Dijleh ファリドゥン、ディジュレ川を渡る
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
画面を斜めに区切る川岸があって、左側がダークな川。この川は、もともとは青と銀が混ざったような色だったのかな。そして魚や水鳥、波模様がもっと鮮明だったはずと思います。
右側の陸地から川に向かって、極彩色の軍団がなだれるように移動している様子が伝わってきます。
川の色の変色で、制作当時とは印象が違うのかもしれませんが、現状のままでも、暗い川と軍団の対比が美しく、なんとも綺麗で好きな絵です。
●f34 VERSO Faridun enthroned in the palace of Zahhak as Kundrow blunders in ザハクの宮殿に祀られるファリドゥン、クンドローが迷い込んでくる。
〇Fujikaメモ:
検索してみましたが、この絵は全体像がわかるものはネット上にはみつかりませんでした。
部分はこちらで見られます。
このストーリーで、クンドローは、神話にしてはリアルな人物像ですよね。
●f35 RECTO The feast of Faridun and Kundrow ファリドゥンとクンドローの祝宴
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
花の咲き乱れる野原での、昼の祝宴の様子。
酒の容器は、おそらく首の細い金属製のボトルで、杯は、脚のない、浅いタイプのもの。
ファリドゥンに若い給仕?がザクロの皿を差し出しています。
ファリドゥンの右手側手前には楽師達が。奥から、竪琴、おそらくカーヌーン(爪弾く琴のようなもの)、タンバリンのようなリック、小さな琵琶みたいなセタール、縦笛のナイ(参考サイト)。
立って鷹やハヤブサを持っている、鷹匠のような人が二人います(他の絵にも)。
宴会の場面で、鷹匠が鷹を使って何か芸をするような習慣があったのでしょうか・・・。
この中のどれかが城代の大臣クンドローだと思うのですが、定かではありません。
キャラクターから、(武具をもっていない)文人で、若くはない(ひげのある)人物を選んでみました。
●f36 VERSO Faridun strikes down Zahhak ファリドゥン、ザハクを打ちのめす
この絵が描かれたとき、スルタン・ムハンマドは、タブリーズとヘラートの伝統の統合である新しい様式に身を置いていたのである。この絵では、ファリドゥンの槌の一撃が、建築物の「重さ」、金の玉座の重厚さ、さらには天使の配置によって強調され、その曲がりくねった線が暴君の頭まで辿れるようなリズムを生み出している、劇的な構成になっている。
天使ソルシュは、ジラクが予言した結末のためにザーハークを救うために介入する。
ジャムシードの娘の一人は、圧制者が倒されるのを驚きながら見ている。
この大胆で緻密に描かれた絵画は、エレガントでしなやかな線と鮮やかなパレットを備え、精巧なディテールによって活力を与えられ、その瞬間の興奮と緊張を見事に捉えています。構図全体に反響する螺旋状のアラベスクは、中心からずれた重い玉座と建築の「重み」によって釣り合いがとれ、ザハクに対するフェリドゥンの勝利のドラマ、ひいては悪に対する善のドラマを強調している。
〇Fujikaメモ:
きっちり長方形の枠があって、その枠から何もはみ出さないタイプの構図。
そのせいか、ちょっとチマチマと狭苦しい印象もあります。
折角の、ヒーローによる悪者退治なのに・・・。
(絵の左上の天使ソルシュを、枠からはみ出させたらどうだったかな~。)
でも、天使の声で、はっと振り返った瞬間がとてもよく表現できていますよね。
あと、模様も何もない白い壁がわりと沢山あるのも、他と違うと思いました。
●f37 VERSO The death of Zahhak ザハクの死
「ガユマールの宮廷」が、シャ・ナーメ計画初期の傑作であるのに対し、この絵は、同じくスルタン・ムハンマドによる、1530年代後半に描かれた彼の最高傑作である。大英博物館所蔵の1539年から43年のニザーミのカムセ(63ページ)のように、限りなく細密で、より自然な様式で描かれている。この絵の中の重要でない顔は、若い画家の一人であるミール・サイード・アリによって描かれたようである。
この雲に描かれた龍は、タブリーズのトルクマン様式を思い起こさせる。一方、岩に描かれた顔は、18世紀のイギリスの肖像画を思わせるほど自然なものになっている。
このクライマックスの瞬間にも、小川のほとりでリュートの音楽が流れる場所がある。
〇Fujikaメモ:
文章では、磔にされるザハクはかなり血まみれな感じですが、絵は流血を省略しています。
(牛ビルマイエの虐殺では血を描いているのに)
そのせいか、陰惨さはなくて、どこかほの明るい印象の絵になっています。
川縁で楽器を奏でてのんびりしている様子もいいですよね。
最後、ザハクに対しての残酷な刑をどんな風に表現したるのだろうと、みたら、ザハクは苦しそうな顔をしていましたが、なんだかちょっと可愛らしい絵だなあと感じました。
意外と時間のかかる作業なので、どなたかに楽しんで頂けたと知ってとても嬉しいです。
おっしゃるとおり、ザハクの処刑シーン、流血が描かれていなくて、ほのぼの、といってもいいくらいですよね。
編集していて思ったのですが、どの絵も、粗筋に関係のない部分にも多大な労力がかけてあって、見応えがありますよね。庭の木や草花、つがいの鳥、空と雲、名もなき家来達など・・・。
なんとかもう少し続けたいと思っていますので、おつきあい下さいませ。