熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

K.R.マクファーランド著「ブレイクスルー・カンパニー」

2009年04月14日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   起業した企業が、破竹の勢いで成長したかと思うと失速する、すなわち、カリスマ経営者が、神通力を失ってしまうのか、とにかく、起業当時の活力を持続しながら、成長を続けて行く企業は、非常に少ない。
   何故なのか、その答えを追求するために、著者は、米国のビジネス雑誌「Inc.」が選定する「アメリカで最も急成長を遂げた非公開会社500社」を中心に、CEOや関係者などとのインタビューを含めて膨大な資料を調査分析して、9社のブレイクスルー・カンパニーを選び出し、その成長持続戦略の秘密を解き明かした。

   尤も、トム・ピーターズの「エクセレント・カンパニー」や、J.S.コリンズの「ビジョナリー・カンパニー」など、成功した企業の成長の秘密を分析して成長戦略を追求した書物は沢山あり、それらの成長企業も、時間の経過と共に失速して跡形もなく消えてしまったケースもあって、決定版などはあり得ない筈だが、
   それなりに興味深いのは、大企業ではなく、売上高を25億円以上100億円以下のテイクオフしたばかりの中堅企業に的を絞っていることで、従来の大企業向けへの経営学ではなく、小さな会社が大きく伸びる法則を打ちたてようとしているところに特色があることである。
   
   会社というものは、長期的には、成長するか消滅するかのどちらかで、企業の利益が拡大すれば、それだけ、新製品の開発や顧客に提供する価値の拡大に投資できるが、それを怠れば、競合他社に出し抜かれるだけで、成長しない企業は、必ず消滅する。
   しかし、早く成長すれば良いという事ではなく、ブレイクスルーは、大胆な戦略的跳躍と言うよりは、一つの足がかりから次の足がかりへと、強い意志を持ってたゆまぬ努力を続けることで実現でき、リーダーは、利益の成長に伴い、それに対応できるだけの能力を会社の中に育てて行かなければならず、それが出来て初めて安定した持続的成長が可能になるのだと説く。

   冒頭から、面白い議論を展開している。
   初代大統領ワシントンを例に挙げて、国王に推挙されたが固辞して有期の大統領に徹したことによって、今日の民主主義的な偉大なアメリカが実現出来たのだが、成長出来なかった多くのベンチャー企業は、創業者たちが、自分の頭に王冠を載せることに夢中で「会社に王冠をかぶせる crown the company」ことが出来なかったからだと説く。
   カリスマ創業者であればあるほど、ブレイクスルーするためには、何よりも、会社のリーダーが率先して会社に王冠を被せる、すなわち、組織がリーダーに仕えるのではなく、リーダーが組織に仕える努力をしなければならないと言うのである。
   
   カリスマ起業経営者が、長く居座る弊害は、会社が成長・発展期に到達した段階で、その起業家精神――たとえば素早い決断、簡単に諦めない頑固さなど――が、むしろ、企業にとって最大の敵になる。
   起業家は創業当時は、「何でも屋」であり、色々な役割をこなす才能があるが、ある時点に達すると、何もかも自分ひとりで出来なくなり、会社の成長に齟齬を来たして来る。

   しかし、ベンチャー企業は、創業時のチームを解体して、プロの経営者に切り替えるべきだと言う考え方は、必ずしも正しくはなく、「会社の成長につれて経営者自身も変化しなければならない」と理解さえして対応しておれば、むしろ、このような創業者が経営する会社のほうが業績が良い。
   著者が選んだ超優良なブレークスルーカンパニーの殆どが、創業当時のチームないし、創業者が選んだ後継者が、会社の方針を決定している。
   すなわち、会社に王冠を被せて、組織に主権を持たせる原則がしっかりしておれば、創業者には、業界、市場、顧客のニーズに生じる微妙な変化をつかむ能力に長けているので、創業者が会社に関わり続けることには、利点がある。
   要は、創業者が去るべきかどうかではなく、創業者が、会社の成長発展に応じて、自分の役割を変化に適応させられるかどうかが大切だと言うのである。

   ここで、著者は、起業家に適応能力があったとしても、適応の必要性に気づいて、その方法を知るためには、外部に足場を築いたり、インサルタントの力を借りるなど、積極的に支援を求めるかどうかで命運が決まってくると言う。
   これは、何も、創業者だけの問題だけではなく、企業の経営戦略を高度化するためにも、社外リソースのネットワークを築くなど外部に良質で高度な足場を構築したり、企業の近視眼や惰性の弊害を排除するために、鋭い批判と疑問を呈することによって、社内の基本的な思い込みに対する批判的思考を呼び起こしてくれる「インサイドのコンサルタント」の必要性は、多言を要しない筈である。

   このほか、著者は、ブレイクスルーカンパニーとなるためには、
   時間をかけて情勢を有利に持ち込むための投資である賭けに、掛け金を上げて積極的に打って出ること、
   コスト削減からコスト最適化を目指して、ビジネスのバーミューダトライアングルを突破すること、
   更に、会社は、発展途上で必ず難局に直面する筈だが、そのタフタイム大学を卒業するために、如何にして、会社と社員の潜在能力を限界まで活用して組織から最高の活力を引き出すか等々、
   ブレイクスルーパワーを作り上げるために、戦略、社員、実行と言う3つの分野から、その経営施策を提言している。

   著者の指摘で面白いのは、企業には企業文化(コーポレート・カルチュア)などと言うものはなく、会社の性格があることで、ブレイクスルーカンパニーは、この「会社の性格」と言う基盤の上に成り立っており、多様ではあるが、人を公正に扱う、人を信じる、戦略的につましい、言葉に責任を持つと言う4つの特徴を共有して持っていると言うことである。
   マキャベリズム的な戦略論が一時流行ったことがあるが、株主のため、企業価値を上げるためには形振り構わずまい進すべしとするフリードマン流のマーケット至上主義的な発想からは、ブレイクスルーは生まれないと言うことであろうか。
   
   果たして、マクファーランドの説を踏襲すれば、実際に会社が、成功裏に、起業からブレイクスルーして持続的成長を続けられるのかどうかは分からないが、この分野を扱った経営書が殆どなかったので、小さな会社が大きく脱皮して行くためには如何にあるべきかを考える一助としては、非常に面白い本である。
   
コメント
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