熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

吉例顔見世大歌舞伎・・・猿之助の「法界坊」

2018年11月09日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   今回の吉例顔見世大歌舞伎は、夜の部を観た。演目は、次の通り。
   猿之助の「法界坊」を観たかったからである。

   一、楼門五三桐(さんもんごさんのきり)
     石川五右衛門 吉右衛門
     真柴久吉   菊五郎
   二、文売り(ふみうり)
     文売り 雀右衛門
   三、隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)
     法界坊
     序 幕 向島大七入口の場より
     大喜利 隅田川渡しの場まで
     浄瑠璃「双面水澤瀉」
   〈法界坊〉
     聖天町法界坊 猿之助
     おくみ    尾上右近
     手代要助   隼人
     野分姫    種之助
     おらく    門之助
     番頭長九郎  弘太郎
     大阪屋源右衛門 團蔵
     道具屋甚三  歌六
   (双面水澤瀉)
     法界坊の霊/野分姫の霊 猿之助
     渡し守おしづ 雀右衛

    タイトルは、「隅田川続俤」
    悪党ながら茶目っ気とユーモアのあるどこか憎めない法界坊
    あの凄みの利いたお数寄屋坊主河内山宗俊とは違って、所詮は巷の小賢しい悪徳坊主の悲しさが見え隠れして面白い
    色と欲におぼれた聖天町の法界坊は、浅草龍泉寺の釣鐘建立の勧進と称して、集めた金を道楽や飲み食いに使ってしまう生臭坊主。永楽屋の娘おくみに恋慕しモーションを賭けるも、おくみは手代の要助と恋仲なので、相手にされない。要助は、実は京の公家吉田家の嫡男松若丸で、紛失した御家の重宝「鯉魚の一軸」を探すために身をやつしている。許嫁の野分姫が奴五百平を供に江戸にやってくるのだが、要助は、おくみの母おらくの尽力でようやく一軸を取り戻す。しかし、要助とおくみがいちゃついている間に、法界坊が、大事な一軸をすり替えた挙げ句、源右衛門と婚礼が決まっていたおくみの間男の嫌疑をかけるのだが、この恋愛騒動の証拠だと法界坊が懐から出した恋文を、甚三が、法界坊が書いておくみに差し出したが投げ捨てられていた恋文とすり替えて、皆の面前で大声で読んだのだから、法界坊は周章狼狽。甚三に万座の前で読まれて恥をかかされ、苛立ちが収まらない法界坊は、松若丸を追ってきた野分姫まで無理やり口説いて殺してしまうのだが、法界坊も、甚三憎さに掘った落とし穴に自分が落とされて、甚三に殺される。助け出された要助とおくみは、甚三に指示されて、妻おしづの待つ隅田河畔の渡し場へ逃げて行く。
   舞踊「双面」では、この渡し場から始まって、おしづと要助とおくみの前に、おくみの姿をした法界坊と野分姫の合体した霊が現れて3人を苦しめるが、おしづの術で調伏されて退散する。
   まず、猿之助は、おくみとそっくりの娘姿で登場して、妖艶な仕草で舞い踊り、女形の巧手であったことを思わせて、中々、魅せてくれる。
   この霊を猿之助が、おくみに対しては法界坊、要助に対しては野分姫の霊となって対峙し、顔の表情を変えてそれぞれに挑み、最後には、厳つい隈取をした悪鬼スタイルで登場して見得を切る。
   取って付けたような演出だが、ストーリーなどどうでも良くて、江戸時代の錦絵、歌舞伎絵の世界を見せればそれでよし、江戸歌舞伎の良さであろう。

   「えー浅草龍泉寺釣鐘の建立 おこころざしはござりませぬか」と、よれよれの僧衣をまとって妖しげな掛け軸の幡を持った、大きな銭禿を頂いた汚い坊主が花道に現われる、この「釣鐘」の建立寄進金を集めて、その金で遊びまくる尊い名僧だと称する助べえの悪徳坊主が、この舞台の主人公「法界坊」。
   勘三郎と、吉右衛門の法界坊を二回観ているのだが、同じ出で立ちながら、三人三様、微妙にニュアンスが違っているのが面白い。
   蜷川シェイクスピアでも、器用な芸を見せて、マルチタレント・タッチの器用さを見せる猿之助の芸は、何処までが地でどこからが芸なのか判然としないのだが、滲み出る可笑しさ滑稽さが出ていて、中々魅せてくれる。

   何と言っても面白いのは、法界坊が、間男の証拠として出した要助からおくみへの恋文を、客席までにじり出て表書きを見せて確認して甚三に渡すのだが、すり替えられたのを知らずに、自分の書いた恋文を読まれ、茶々を入れて聞きながらも、少しずつ自分の書いた恋文らしいと気づき始めて、表情を変えて慌てて制止するも、最後の自分の名前を読みだされて、頭を隠して地面に俯せになって伸びあがり、逃げようとする醜態と哀れさ。
   この恥が余程こたえたと見えて、法界坊は、一気に、甚三を恨んで悪の本性を現して甚三に対決して抗うも殺されてしまうのだが、歌六の貫禄が猿之助の芸を深堀して興味深い。
   この甚三を、吉右衛門の時に、富十郎と仁左衛門が演じていたが、法界坊と甚三の芸が拮抗していると、他の雰囲気の異なった場面と好対照となって面白くなる。

   この舞台で、法界坊のコミカル・イメージに呼応するのが、おくみに聟入りして永楽屋を継ごうと目論む番頭だが、歌舞伎定番の惚けた調子の道化役者よろしく、弘太郎が、いい味を出していて面白い。
   要助と恋仲で、源右衛門に嫁にと望まれ、番頭にも思われ、法界坊にも執心されるモテモテで、許嫁の野分姫をも突っぱねるおくみを演じるのが尾上右近、中々、クールでしっとりとした女ぶりである。
   なよなよした優男の要助を演じる隼人を見るのは初めてだが、右近のおくみと相性がぴったり合っていて好ましい。
   
   さて、世話物の「法界坊」に続いて、「浄瑠璃 双面」の常磐津連中と竹本連中の楽に乗せての華麗な舞踊劇に転換するのか、一寸、不思議な感じがするのだが、吉右衛門の時には、最初は、今の幸四郎が代わって演じていたが、秀山祭の時には、吉右衛門自身が演じて、久しぶりに吉右衛門の女形を観た。
   この時は、「双面水照月で、猿之助の今回の舞台は、「双面水澤瀉」なのだが、三囲土手で法界坊が宙乗りするのと同様に、澤瀉屋の型なのであろう。
   ラストシーンの猿之助の厳つい隈取姿とは違って、確か、吉右衛門の双面の霊は、白塗りの女姿であったように思う。

   「楼門五三桐」は、吉右衛門の石川五右衛門と、菊五郎の真柴久吉の名セリフと颯爽たる絵姿を観る舞台。
   「文売り」は、雀右衛門の舞踊、男女の良縁を願う恋文を売り歩くとは面白い。
 
 
コメント
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