熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ユヴァル・ノア・ハラリ:AI革命と無用者階級の誕生

2023年07月01日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   「ホモゼウス」で、神に取って代わろうとしたホモ・サピエンスが、AI革命によって、多くの人々が無用者階級に成り下がり社会から疎外されると言うハラリの新しい視点が気になる。

   AI革命によって、数十億の人々が仕事を失う。
   生き残るためには、精神の健康と感情知能を高めることで、人々は、生涯を通じて学び続け、何度も自己変革をしなければならなくなる。
   必要なのは、心のバランスとレジリエンス(柔軟性)、変化にもうまく適応して生き延びるための能力で、果てのない嵐の海を進むには、非常なストレスに耐えていかなければならない。と言う。

   古い仕事は消え、新しい仕事が生まれる。しかし、AIはまだ発展過程なので、雇用市場が新たな均衡に落ち着くのではなく、より大きな破壊の連鎖が起こる。
   21世紀の人間の本当に大きな闘いは、社会と切り離されこととの闘いとなり、新しく大規模な「無用者階級」が生まれようとしている。例えば軍事では、〉多くの兵士が役に立たなくなり、軍隊で必要な仕事の殆どは、特殊部隊やドローンやサイバー戦争に精通したエンジニアが担うことになる。
   この「無用者階級」は人間として無用だと言うことではなく、経済・政治システムから見て無用な人たちであって、強力なエリートからますます大きくなる格差によって切り離されることになるかも知れない、と言うのである。

   勿論、AI革命は、階級間だけではなく、国家間でも前例のな不平等を産み出しかねない。
   現在、AIの軍拡競争のまっただ中にあり、米中がレースをリードし、その他の殆どの国がはるか後方に取り残されている。
   AIの恩恵と力を全人類に分配するための行動を起さない限り、AIは一部のハイテク企業や国家に膨大な富をもたらす一方で、他の国は破産するか、搾取され続けるデータ植民地となる可能性が高くなる。

   それでは、どの様に経済社会システムを変革して望むべきなのか。
   ハラリは、ユニバーサル・ベーシックインカムの可能性や、さらに、最低所得保証か最低サービス保証か等について論じているが、最低賃金1000円さえ実現できないような日本にベーシックインカムの導入など無理であり、地球温暖化対策さえ暗礁に乗り上げて前に進めない國際間の亀裂を考えれば、理想論である。

   結局、かっては、土地が資産であり、機械と工場、産業の所有権など資本が資産であったが、今や、データが資産となって、熾烈なデータ争奪競争が展開されている、
   人間も、AI革命の進化発展にキャッチアップすべく、知的かつテクノロジー水準を、時流を越えて絶えず上昇し続けなければ生きて行けなくなってきた。
    
   ハラリは、貧富の格差と並んで、もう一つの危険、すべての人を常時監視するデジタル独裁者の台頭についても注意を喚起している。
   機械学習と人工知能の著しい発達によって、情報を処理する能力が格段に上がった。生物学や脳科学も進歩し、情報工学に於ける革命と生命工学の革命を融合させれば、人間のハッキングは可能である。自分の性格や政治的見解、性的嗜好、精神的弱点、最も深い恐怖と希望など他人に知られる。デジタル独裁者の出現を防ぐのが急務である。と言うのである。

   老兵は去りゆくのみとなった我々後期高齢者には、それほど、被害や恐怖はないが、現役世代には、大変な時代になったものである。
   弛まぬ刻苦勉励、成長し続けるべく運命付けられてしまったのである。
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