熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

PS:シャシ・タルール「米国とインドの非同盟同盟 The US and India’s non-aligned alliance」

2023年07月15日 | 政治・経済・社会時事評論
   元国連事務次長でインドの元国務大臣で国民会議派の国会議員であるのシャシ・タルールのPSの論文「米国とインドの非同盟同盟 The US and India’s non-aligned alliance」
   先日のアルビンド・スブラマニアンの米印論と比べて読むと面白い。

   かつては、パキスタンは米国の同盟国だが友人ではなく、インドは友人だが同盟国ではないとよく言われていた。 米国との戦略的パートナーシップが強化されているにもかかわらず、インドは依然として米国と歩調を合わせることに消極的であるが、中国の自己主張の高まりによって、中立的な立場を放棄せざるを得なくなる可能性がある。と、アメリカへの傾斜を示唆しているのである。

   今回の国賓待遇で遇されたモディ首相の訪米で、米印関係が転換期を迎えた。
   モディ首相の訪問に先立って、人工知能、バイオテクノロジー、量子コンピューティング、5G、サイバーセキュリティなどの技術における二国間協力の促進を目指す、重要技術と新興技術に関する最近の米印イニシアチブを含む、いくつかの大きな進歩があった。両国は、インドが米国から30機のMQ-9Bプレデター武装無人機を取得する契約や、ゼネラル・エレクトリックと共同でインド空軍用のF414戦闘機エンジンを製造する別の計画など、いくつかの防衛協定を発表した。 これらの協定は、これまで正式な同盟国ではない国には適用されていなかったが、二国間防衛パートナーシップの強化を浮き彫りにしている。 冷戦期間を通じて、世界最古の民主主義国家と世界最大の民主主義国家は本質的に疎遠なままだったが、その変化は驚くべきものである。
   冷戦時代、インドは、非宗教的世俗的なソ連に入れ込んでいたが、冷戦の終結は、インドの外交政策の方向転換と世界経済への統合とともに、米印関係の改善につながったものの、1998年のインドの核爆発は米国主導の経済制裁を引き起こした。 クリントン大統領の在任最終年である2000年のインド訪問は大きな転換点となり、ブッシュ政権はその勢いに乗って2005年にインドとの防衛協定を締結し、2008年には民間原子力協力に関する画期的な協定を締結した。 この前向きな傾向はオバマ政権下でもトランプ政権下でも持続し、現在はバイデン大統領の下で最高潮に達している。

  今日、米国は植民地後のインドの戦略的自治への執着に、はるかに積極的に対応している。 ヒンズー教国家主義者のモディは世俗派の前任者マンモハン・シンとは対照的だが、歴代5人の米国大統領と3人のインド首相による関係深化に対する超党派の支持は顕著である。
   この変化は習近平の下での中国の地政学的主張によって部分的に推進されており、これは前任者が中国の「平和的台頭」の原則を堅持してきたことからの根本的な逸脱を表している。 米国は明らかに中国を主な敵国とみており、その影響力の増大に対抗するために地域同盟を積極的に推進している。
   インドは伝統的にどちらかの側につくことには消極的であったが、中国が係争中のヒマラヤ国境を越えて領土を繰り返し侵犯し、2020年6月にインド兵士20人を殺害したことで、中立は維持できなくなった。 インドは独立の姿勢を維持しているが、広島で最近行われたG7サミットで、史上2回目の対面によるクアッド首脳会議が行われたことは注目に値する。
   中国へのメッセージは明らかである。 インドは米国の同盟国ではなくパートナーであると主張しているが、共産主義中国との対立が激化する中、民主主義西側諸国との連携を強めている。

    しかし、インドと米国の関係を中国のレンズを通してのみ見るのは間違いであろう。として指摘するのは、
   アメリカとインドには、民主主義、共通言語、イノベーションと起業家精神の育成への献身など、一般に認められているよりもはるかに多くの共通点がある。 ヘンリー・キッシンジャーがかつて述べたように、両国には「伝統的かつ基本的な意味での利益相反はない」。

   最も注目すべきは、アメリカに住んでいる印僑、絶大な影響力を持つ強大なインド系アメリカ人の存在である。
   政治的見解はさまざまであるが、多くのインド系アメリカ人は、インド関連の問題についてますます率直に発言するようになってきている。 毎年 15 万人を超えるインド人学生が米国に流入し続けていることが、この勢いに貢献している。 これらの移民は米国の教育制度と関連サービスに80億ドル近くを投入するだけでなく、常に新鮮なアイデアや視点を確実に注入している。 長期的には、ユダヤ系アメリカ人が米国の対イスラエル政策形成に役割を果たすのと同じように、インド系米国人も米国の対インド政策形成に貢献する可能性がある。
   インドは戦略的自治を主張しているため、依然として同盟国ではないが、両国の利益は価値観以上に一致していると主張する米国の懐疑論者さえも、それらの利益が緊密な協力に値することを認めている。 モディ首相の訪問は、その協力がどれほど緊密になったかを示すもう一つの兆候となった。と言うのである。

   前回にも、私は、米印関係において、アメリカの経済界やIT業界など多くの分野で影響力を持つこのインド系アメリカ人の存在の重要性について書いたが、タルールが指摘するように、
   ユダヤ系アメリカ人が米国の対イスラエル政策形成に役割を果たすのと同じように、インド系米国人も米国の対インド政策形成に貢献する可能性がある。と言うことであって、
   有事においては勿論、全般的なグローバル世界の活動においても、インドが、アメリカを袖にして、中ロなど独裁的専制的国家枢軸に加担する可能性などあり得ないと思っている。
   経済的には、米中には及びもつかないが、世界最大のポテンシャルをもった人口最大の大国インドの動向が、宇宙船地球号の運命を左右する時代が到来した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする