熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ダニエル・ヤーギン:エネルギー戦争で進む「原発革命」

2023年07月05日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   エネルギー問題の権威で経済アナリストのダニエル・ヤーギンが、「エネルギー戦争で進む「原発革命」」で、日本のエネルギー戦略の未来を語っていて、非常に興味深い。
   日進月歩の進化を遂げている原子力発電や再生可能エネルギーと言った代替エネルギー開発へ、大きく軸足を移して行けば、日本のエネルギー自給率を大きく高めて、資源地図を塗り替えられると言うのである。

   日本がエネルギー自給率を押し上げるためには、原子力発電を再開・推進すべきである。国民からの反発は根強いかも知れないが、天然のエネルギー資源の乏しい日本では、これは避けて通れないだろう、と説く。
   最近では、原子炉の小型化、すなわち、小型モジュール式原子炉(Small Modular Reactor SMR)の開発も著しく進んでいる。これは自然循環式原子炉になっているので、原子炉に液体を通過させるのに原子炉冷却材ポンプを一つも必要としない。福島のように原子炉の電源が失われても、原子炉は別の電源を必要とせず、オペラ―ターが何か行動を起さなくても、自然循環の結果、冷却した状態になる。
   最新式の原子力テクノロジーは、グローバルの規模で言えば40以上のデザインコンセプトがあり、SMRの分野でも、ミクロ原子炉の分野でも、研究が進んでいる。非常に小規模なものから5メガワットのミクロ型原子炉まであり、原子力関連では、世界中でイノベーションが生まれている。
   このことを考えれば、日本は、「3.11」のショックから早く抜け出して、最新の目覚ましく進歩を遂げているテクノロジーから乗り遅れてはならない、と言うのである。
   不思議にも、ヤーギンは、日本の原子力発電の将来については、何の疑いも感じていないのである。
   しかし、SMRなど原発のイノベーションについては論じているが、岸田内閣の進めている現存の原発の再稼働については、心配ないのであろうか。

   同時に、ヤーギンは、再生可能エネルギーの重要性を強調している。
   日本よりも風力が弱く、日照時間も少ない他国が、すでに多くの投資をしていることを考えれば、自然豊かで、他国に比べて水力や風力、太陽光など豊富にある日本においては、同じ規模の投資でも、リターンは多いはずである。にもかかわらず、そうしないのは、既得利権を重視する経済団体や電力企業のロビー活動による圧力があるからとしか思えない。政治的な意志によって、これを克服しなければならない。と言う。
   日本経済の停滞や企業の労働生産性の低さなど、日本の政治経済社会の根本的な病巣を、ヤーギンは、お粗末な電力政策を通して垣間見たのである。

   更に、ヤーギンは、官民協力して推進している日本の水素とアンモニアを使用した発電の可能性の追求に期待している。
   水素とアンモニアをコスト効率の良いエネルギー源として開発する機会を検討すべきで、そうすれば、イノベーションは加速する。このように技術的に強みのある分野で、日本はよりリーダーシップを発揮すべきである。と言う。

   いずれにしろ、ウクライナ戦争の勃発で、エネルギー資源の多様化・分散化が如何に大切かを、世界中に知らしめた。
   平和で安定したグロ-バル世界が展開されていたベルリンの壁崩壊以降は、エネルギーの安全保障には殆ど問題はなかったが、米中対立が悪化して新冷戦時代に突入してからは、一気に、国際社会の分断が厳しさを増してきた。
   経済的には雁字搦めに結びついてしまったグローバル世界故に、ディカップリング出来ずに、訳の分からない中途半端なデリスキングで急場をしのぎ、フレンドショアリングでやり過ごそうとしているが、国際情勢は、益々悪くなるであろうことは目に見えている。

   私は、エネルギーと水と食糧は、絶対に自給率を、必死になってあげるべきだと思っている。
コメント
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