熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

人間国宝:落語家五街道雲助の郭話

2023年07月26日 | 落語・講談等演芸
   今回の人間国宝認定で興味深かったのは、落語家の五街道雲助師匠である。
   面白い名前だなあと言う印象はあるが、「身投げや」と「粗忽の釘」を国立演芸場で聴いたくらいで、噺もそれ程聴いていないので、記憶も希薄で、それ程凄い噺家だとは知らなかった。

   NHKの「日本の話芸」を録画し続けているので、開いてみると、雲助師匠の噺が、6編出てきた。 
   古典落語の中でも廓話が出色だというので、私も、そのあたりの噺が嫌いではないので、早速、3編聴いてみた。
   「明烏」「お初徳兵衛」「お見立て」
   それぞれ、ほかの噺家で聴いているので、知らない噺ではないが、NHKの30分番組なので、殆どまくらなしの噺なので、じっくりと聴かせてくれて、流石に上手くて感動的である。

   「明烏」は、勉強ばかりしていて悪所通いになど全く縁のない堅物の大店の若旦那を、その将来を心配した親旦那が、遊び人2人に頼んで、お稲荷さんへのお籠もりだと欺して吉原へ連れて行かせる噺。遊廓は神主の家、女主人はお巫女頭、見返り柳はご神木で大門は鳥居、お茶屋は巫女の家だと説得されて奥へ上がるが、吉原だと気付いて逃げ帰ろうとすると、「勝手に出ようとすると、大門の見張りに袋叩きにされる」と脅され、泣く泣く花魁と一夜を共にする。翌朝、相方の女に振られた2人が、若旦那の部屋に行き、先に帰るよと言うと、布団の中で、花魁の魅力に骨抜きにされて花魁に足を絡め取られて動けない若旦那が、「勝手に帰りなさい、大門で袋叩きにされますよ」。

    さて、この若旦那が、幸運な筆下ろしに感激して、吉原に入り浸りの馬鹿息子に変身したのかどうかは興味深いところだが、
    「お初徳兵衛」は、遊郭入り浸りの遊びが過ぎて勘当をされた若旦那の徳兵衛の噺、
    面倒を見ていた柳橋の船宿に転がり込み、居候をしてていたが、「船頭になりたい」と親方に頼んで弟子入りして船頭になる。
    立派な船頭になった男ぶりの良い徳兵衛は、柳橋芸者の間では人気者で、ある日、ヒョンナことから、売れっ子芸者のお初を乗せて吉原へ向かう途中、にわかの土砂降りに襲われ、船を岸につけてしばし休息することになる。二人きりの時が流れる中、店子であったお初が「七年前から徳兵衛に恋い焦がれていて、巡り会いたいばかりに芸者になった」と、まだ船頭になる前の徳兵衛を見掛け、見そめていたと掻き口説く。そこへ激しい落雷で、驚いたお初は徳兵衛に抱きつく。
   舟は、そのまま長い間動こうとしなかった。
   近松門左衛門の「曽根崎心中」から発想を得たという人情噺「お初徳兵衛浮名桟橋」のなれそめの人情味豊かなシットリとした良い噺である。
   
   「お見立て」も典型的な郭話で、、花魁の喜瀬川に惚れ込んで通いつめている田舎者の杢兵衛が、店にやって来たのだが、この客が見るのも嫌なくらい嫌いで、呼びに来た喜助に病気だといって断るように命じる。見舞いがしたい、病院は何処だ、亡くなった、墓は何処だと、断りがドンドンエスカレートしていって、結局、喜助は杢兵衛をいい加減な寺に連れていく。適当な墓をここが喜瀬川の墓だと言ってごまかそうとするが、墓碑銘を読まれて埓が開かず、次から次へと墓を巡らせられて、業を煮やした杢兵衛に「いったい本物の墓はどれだ」と問い詰められた喜助は、「これだけありますので、よろしいのをお見立て願います」。
   冒頭、金繰りに困った黄瀬川から、長いラブレターを貰って喜び勇んで店に飛び込んできた杢兵衛をダシにした狡猾な花魁の締まらない噺だが、
   「籠釣瓶花街酔醒」の佐野次郎左衛門とダブって、何となく切ない。

   とにかく、この3話を聴いただけでも、五街道雲助師匠の郭話の素晴らしさは良く分かる。
   今度の国立名人会の舞台には、絶対に行こうと思っている。
   
   
コメント
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