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ミステリ感想-『東京ダモイ』鏑木蓮

2006年11月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
シベリア捕虜収容所で起きた中尉斬殺事件。
60年後、帰還(ダモイ)を果たした男は沈黙を破り行動に移る。極限の凍土に秘められた真実とは? 男を動かした理由とは?
第52回江戸川乱歩賞受賞作。


~感想~
デビュー作らしく穴だらけではある。トリックは事件発生と同時に見当が付くし、短歌から謎を解く展開は面白いが、すっきりとした説得力には欠ける。主役の一人を除いて人物造型は浅く、展開も緩急に乏しい。
だがそれが稚拙なわけではなく、不慣れなだけに映る。経験を積み洗練されれば、いずれ傑作をものしてくれそうな気配は十分に感じられる。将来性だけでも受賞は納得。――と偉そうなことを言ってみたが作者は45歳。このあたり乱歩賞は異色である。

くさしたものの描写力は既に及第点。特にシベリアでの逸話は現代パートと比べなぜか格段に筆力が高く、非常に読ませてくれる。暴言かもしれないが、数年後に全面改稿したら大化けするかも――あのトリックじゃ無理だよなあ。
本格ミステリからの乖離が著しいと言われる乱歩賞ながら、今作は十分にミステリを心得ている。
なにはともあれ将来性豊かな新人の登場である。


06.11.2
評価:★★★ 6
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