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ミステリ感想-『最後の一球』島田荘司

2006年11月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
母の自殺未遂の原因は、散髪代を物々交換で済ませる友人? それとも?
御手洗潔も諦めかけた事件を、生涯二流の男が投じた最後の一球が打ち砕く!


~感想~
もうトリックとかどうでもいい。

帯に「御手洗潔も諦めかけた事件」とあることから、いったいどんな超絶不可能犯罪が!? と期待してはいけない。悪徳金融の被害者を救うという、推理ではどうしようもない、日本の構造自体が変わらなくてはいけない事件を扱っているのだ。
よって、御手洗にできることは非常に少ないし、出番も少ない。御手洗登場部分をばっさり削除しても成り立つ話ではある。
しかしそれがつまらないかというと、実に楽しく読めた。冒頭に言ったとおり、トリックも展開もバレバレだ。事件現場でアレが見つかった途端、タイトルと合わせて読者の100%は真相に思い至るだろう。むしろ作者はそれを織り込み済みで本作を書き上げたふしすら見受けられる。
ことに終盤は予想通りに期待通りの場面で、話の筋が完全に読めているだけにもどかしく「それをあれにこうすればいいんだよ!」と叫びたくなるあたり、作者の術中にはまった感も強い。
島田ワールド全開の語り口や二流魂を高らかに歌い上げる幕切れは、御手洗を中年刑事に置き換え映画化すれば、全米が泣くと思うがどうか。
ささやかな幸せ、ささやかな怒り、そしてささやかな誇りを乗せ。飛べ、最後の一球。


06.11.29
評価:★★★★ 8
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