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ミステリ感想-『空を見上げる古い歌を口ずさむ』小路幸也

2007年07月03日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「誰かがのっぺらぼうが見えると言いだしたら呼んでくれ」そう言い残し兄は家を去った。
クワガタノート、ベイジィ、タンカス山、サクラバ、サンタさん。
自分の子供がのっぺらぼうを見たとき、帰ってきた兄の口から、あのパルプの町が甦る。
第29回メフィスト賞。


~感想~
作中でも使われるプロレスの譬えを借りるなら、投げっぱなしジャーマンのような作品。
派手にネタバレしますので未読の方はご注意ください。

「周りの人間がのっぺらぼうに見える」という抜群の発端、兄の語る懐かしくも暖かな思い出――がどんどん怪しい方向に向かっていく。起こる出来事がいちいちホラー映画さながらなのだ。
牧歌的なムードと正反対に人がどんどん死んでいく。しかも死に方が怖い。のっぺらぼうの男に見守られる前で拳銃自殺を遂げた警官、ウジムシの密集した金ダライに顔を突っ込んで息絶えた男、事件の調査を依頼され「なにか解ったら伝える」としっかり死にフラグを立て、主人公の目の前で倒れる警官などなど。
その他にも原因不明の狂乱を見せる不良少年、誰も近づかない山奥に花畑を築く老婆に、「こちら側へようこそ」と謎めいた言葉を発する女性などなど枚挙にいとまがない。こうなってくると牧歌的な雰囲気がギャップを感じさせ、逆に狂気をはらんで見えてきてしまう。正直『スラッシャー 廃園の殺人』よりはるかに怖いジャパネスクホラーではなかろうか。
応募された当時のタイトルは『GESUMONO』だというあたり、B級ホラーの気配がぷんぷんするではないか。
そして終盤、さまざまな謎を置き去りにして本格ミステリ→牧歌的懐古物語→和製ホラー→SFファンタジィとジャンルの垣根を次々と飛び越え彼岸の地、ニナイカナイへと消えていく豪快な決着には別の意味で驚かされた。

未見なのだが話に聞く映画『フォーガットン』のような作品というのが第一印象。読み終わり、あまりのトンデモさに床に叩きつけるか、思わぬ拾いものしちまったとほくそ笑むか、読者の嗜好が試される問題作、かもしれない。


07.7.2
評価:★★☆ 5
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