小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『未明の悪夢』谺健二

2007年07月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
1995年1月17日未明、神戸を未曽有の大震災が襲った。一瞬にして崩壊した街で、私立探偵の有希真一は多くの死を目の当たりにする。ようやく救出した友人の占い師・雪御所圭子も……。
そんな最中、バラバラ死体の消失、磔殺人、さまよう謎の自衛官と、連続猟奇殺人事件が発生する。
第8回鮎川哲也賞。


~感想~
面白い、といって不謹慎にならないことを祈るが、実に面白い小説であった。
この年の鮎川賞最終候補は『名探偵に薔薇を』城平京、『3000年の密室』柄刀一、『眠れない夜のために』氷川透と後のプロ作家がひしめく当たり年。それらを押しのけ大賞を射とめたのも納得の、重厚な作品である。
本編の半分は阪神大震災の描写にあてられ、それが実に読ませる。SF顔負けの現実は関東人の想像を絶するものがある。
ミステリとしても「震災の最中だからこそ起こった事件」を見事に描いているが、過酷な現実と比してはちょっと浮いてしまった感も。しかし圧倒的な震災パートだけでも充分に評価できる傑作であり、かつてない読書体験を約束してくれるだろう。
また終盤に(ネタバレ→)実に小説的、あるいはマンガ的な、ある種ベッタベタな生還劇があるのだが、それがベタでありながら無性に嬉しく、多くの人々が容赦なく亡くなる中、たった一人の無事が実に心に響く。ベタでも陳腐でもこれぞ見せ方の勝利だ。
それにしても実際に震災に遭われた方は本書をどう読むのだろうか。谺健二が描き続ける限り、震災は過去にならない。歴史に残る、残すべき傑作である。


07.7.13
評価:★★★★ 8
コメント