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ミステリ感想-『首挽村の殺人』大村友貴美

2007年07月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
岩手の寒村・鷲尻村の診療所に、東京から医師の滝本がやってきた。
滝本が村に赴任してから、村では謎の連続猟奇殺人事件が起こる。
村に秘められた陰惨な過去が、事件解決の鍵を握るのか?
第27回横溝正史賞。


~感想~
2時間ドラマで横溝正史。

横溝的な意匠をいくらぶち込んでも、素材がこれでは横溝風の2時間ドラマにしか仕上がらない。
寒村、奇妙な風習、おどろおどろしい過去、連続猟奇殺人、見立て殺人とわくわくするような要素ばかりなのに、肝心の筆力と描写力が足りない。
まず会話にオウム返しが多すぎる。もうちょっとセリフの中にオウム返しをさせない工夫をしてほしい。
いくら怪奇仕立てにしても、展開が急すぎて、怪奇味をかもし出せるだけの間がなかった。やつぎばやに事件が起きるのはいいが、それぞれの事件がたいした検討もされず、せっかく不気味な様相を呈しても淡々と語られてしまい、じっくりと味わえないのだ。いわゆる邑ミステリとしても、語られる窮状や逸話はただ語られるだけで存在感が足りない。今年は邑ミステリの傑作『厭魅の如き憑くもの』や『首無の如き祟るもの』を読んでしまっただけに比較してしまうのも痛い。
物語としても連続殺人よりも殺人熊との決闘の方が盛り上がったり、(ネタバレ→)せっかく盛り上がってるのに両者リングアウトみたいな不透明決着だったり ぜんぜん魅力的ではない主人公(?)に次々とヒロイン(?)が惚れたり、見え見えのミスディレクションから予想通りの犯人が浮かび上がったりと、ミステリとしても物足りない。見立て殺人トリックとしては、それは一番やってほしくないトリックの使い方だったのだが……。
寒村ではなく観光名所にし、残酷描写を抑えれば火曜サスペンスとして使えそうな、いまいち陳腐な作品でした。

……ところで帯に「これが21世紀の横溝正史だ」といかにも綾辻行人の言葉のように書かれているが、選評を見る限りそんなことは全く言ってないんだけど……。


07.7.10
評価:★ 2
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